オセアニアはあやとりの宝庫
まずはオセアニア。世界にある3,000種類のうち2,000種類はオセアニアのあやとりです。
そんなにオセアニアに集中してるんですか!
まさにあやとりの宝庫ですよね。オセアニアは島国が多く自然が豊かなので、自然をモチーフとしたあやとりが多く伝承されています。
▲オセアニアの国々。パプアニューギニア、ナウル、ツバル、バヌアツ、オーストラリアなどであやとりが伝承されてきた
▲バヌアツ共和国に伝わる「ライアの花」。手の中でお花が咲いているように見える
代表的なものは、パプアニューギニアの天の川ですね。長いものだと、6mの紐を使って作ります。
▲天の川。細かい網のような部分で星が表現されている
6m! 腕をめいっぱい広げても紐を張れないですよね。そんなに長い紐でどうやって取るんですか……。
これは相当難しいですね。あやとり上級者の早い人でも、10分くらいかかります。
すごい……。
オセアニアのあやとりで興味深いのが、ストーリーを表すあやとりがあることです。たとえば、ツバルで伝承されているあやとりが印象的ですね。
ツバル、聞いたことあります。一時期、海面上昇で「海に沈む国」として注目された国ですよね。
そうです。ツバルでは潮の満ち引きをあやとりで表したものがあるんです。
最初に、これが満潮の状態です。
▲上の線が空、真ん中が水平線、下の線が海岸を表している
これをこうすると潮が引いていって、岩が2つ見えてきました。
▲人差し指と親指を使ったり、手首を返したりしている
▲素人には何が行われているのかわからない
それでもう1回同じ操作をすると、左右に1個ずつ、合計2個ずつどんどん岩が見えてきます。
▲いつまでもできるみたい
岩がたくさん見えている状態が干潮で、それが終わったら今度は潮が満ち始めます。左右の手の紐を持ち替えてあやとりを裏返して、また同じ操作をします。そうすると岩が減っていく。
▲今度は岩が2つずつ減っていく
岩はやがて0になって、水平線に戻りました。これ、「カロリン展開」って呼ばれる操作を使っています。
▲もとに戻った
カロリン展開! かっこいい名前ですね。
「カロリン展開」は、太平洋に浮かぶカロリン諸島からこの名前がとられています。
紐が長ければ、もっとたくさん作れますよ。先ほどお見せした天の川でもカロリン展開を使うんですが、1回操作をするたびに両側に星が12個ずつ増えたり、減ったりします。
▲カロリン諸島(ミクロネシア連邦)。拡大すると小さな島々が見えてくる
すごく緻密ですね。天の川もそうですが、紐の長さがいろいろあるというのも驚きです。
地域によって、最適な紐の材質も違うんですよ。
日本では毛糸や綿の紐が一般的ですが、オセアニアのあやとりは動きがあるので細くて長めで滑りの良いレーヨンが、イヌイットのあやとりには形がしっかりとれるアクリルか綿がいいですね。
▲机にはたくさんの紐がずらり
地域によって適する紐の素材が異なるのはどうしてですか?
そもそも紐にしていたものの素材が異なるからです。
たとえば、イヌイットなどの極北圏では、トナカイの腱を細く割いて、堅い紐にしていました。堅い紐を使うと、しっかりしたモチーフを作ることができます。
オセアニアでは通常木の皮やツルを使っていますが、ナウルでは女の人の長い髪を何本か編んで紐にしていたようです。
人の髪まで! 「身近な細長いものを輪にして遊ぶ」というのは同じでも、その「身近なもの」が地域によって全然違ったんですね。
ナウルのあやとりは人の髪の毛を使っていたので、非常にデリケートな美しい形のあやとりが数多く残されています。
昔、ナウルでは島をあげてのあやとりコンテストが行われ、男性たちは競って素晴らしいあやとりを発表していたそうです。
南北アメリカのあやとりから見える「先住民の暮らし」
▲アメリカに伝わる「テントの幕」のあやとり
南北アメリカには、特に先住民のあやとりが残っています。これは彼らが暮らしていたテントの入り口に掛けられていた垂れ幕を表現しています。
ほかにも、彼らの居住地は夜空が綺麗な高地だったため、星のあやとりがたくさんありますし、彼らの周りに住んでいる小動物のあやとりも多いですね。
その土地の環境によって、モチーフになるものも全然違うんですね。
そうなんです。南米にはアンデス山脈がありますが、この火山を表したあやとりもあります。すごく立体的じゃないですか?
▲火山のあやとり。噴火している様子がよくわかる
わ〜すごい! ねじってあるところが噴煙なんだ。かなりリアルですね。
こうした芸術的な造形をしているのも、海外のあやとりのおもしろいところですね。
あやとりマニアたちから「最も愛されるモチーフ」が登場! 極北圏のあやとり
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