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こんにちは、志賀です。

突然ですが、こちらの絵をご存知でしょうか。

《赤、青、黄のコンポジション》1930

見たことがあるという人も多いかもしれません。この絵はオランダ出身の画家ピエト・モンドリアンによって1930年に描かれた、《赤・青・黄のコンポジション》という題の絵画です。

この絵画は抽象絵画の完成形と呼ばれることもあり、今でも高い評価を受けている傑作です。しかし少し待ってください。こう思う人もいるのではないでしょうか。

この絵って何がそんなにすごいの?というか誰にでも描けません?

黒い線と一色で塗りつぶされた四角だけで描かれたこの絵。正直、小学生でも描けそうです。

何がそんなにすごいのか

この絵の真の魅力に気づくために、19世紀まで歴史を遡りましょう。

当時の芸術家たちは目に映るものをどのように表現するか考え続けていました。古い伝統に反発して個人の自由と想像力を大切にしたロマン主義、美しいものだけでなく目の前の光景をありのまま描こうとした自然主義といった多くの考え方が生まれました。

そんな中で19世紀後半に活躍したクロード・モネオーギュスト・ルノワールといった画家は、自然の光をそのままに捉え筆のタッチのまま描き出したその作風から印象派と呼ばれるようになります。

そんな印象派の流れを受け、後に「近代絵画の父」とも称されるポール・セザンヌが誕生します。

複数の視点から描く

セザンヌは自然を幾何学的に見ることに強い興味を持ち、一つの絵の中で、複数の視点からみた世界を重ね合せるという表現を生み出しました。

《ラム酒の瓶のある静物》1890年頃,ポーラ美術館

例えばこの絵はよく見ると、真横から見た果物と斜め上から見た状態の果物が一緒に並んでいることがわかります。

そしてそのセザンヌから影響を受けたのが《ゲルニカ》などの作品で知られるあのパブロ・ピカソです。

ピカソは「複数の視点からものを見て描く」といった考えに強く共感し、ジョルジュ・ブラックとともにキュビスムと呼ばれる様式を打ち立てます。

《マ・ジョリ》1912,ニューヨーク近代美術館 Image / Via MUSEY

これはキュビスムの作品として知られる、ピカソによって1912年に描かれた《マ・ジョリ》という作品です。キュビスムは立体派とも呼ばれ、様々な面や角度からとらえた物を全て同じ画面に収めることで遠近法といった古い描き方を否定しました。この絵は楽器を弾く女性をモチーフにした作品なのですが、ここまでくるともう何が描かれているのかパッと見では分かりませんね。

抽象絵画の先駆者、モンドリアン誕生

さて、ここで登場するのがピエト・モンドリアンです。

美術学校を卒業した当初のモンドリアンは伝統的な画風でしたが、パリに滞在していた際に出会ったキュビスムに強く衝撃を受けたことで、ピカソらの理論を踏まえた上でその先を目指そうと制作に没頭します。

《炊飯器と静物II》1912,デン・ハーグ美術館

これは上のピカソによる絵とほぼ同時期である1912年に描かれました。小さな四角形や三角形といった幾何学的な形で画面が覆われているところなど、非常によく似ていますね。

しかしモンドリアンは制作を続けるうちに、ある考えにたどり着きます。

「今までは物をどのような形で描くか悩んでいたけれど、その形そのものこそが美しいのではないか?」

そうしてモンドリアンは何かを描くことをやめ四角形や直線、一色で塗りつぶされただけの純粋な図形だけからなる絵を描きあげました。

ここで初めて、絵画から「物を描く」考え方が無くなったのです。(彼の理論は「新造形主義」と呼ばれます。)

やっぱり難しい

ここでもう一度モンドリアンの絵を見て見ましょう。

彼の絵は美術の範囲だけでなく、ファッションやデザインのモチーフとしても用いられ、多くの人に親しまれています。しかし絵が生まれた背景を知ると、また違った見え方がしてきませんか?

シンプルな線と四角だけで構成された一見誰にでも描けそうな絵も、芸術家たちが悩み抜いた末に生まれた表現なんですね……!

ということで、やっぱりちゃんとした抽象画を書くのは、並大抵のことではないのです。テキトーに書いても「芸術」にはなりません。

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この記事を書いた人

志賀玲太

志賀玲太です。東京藝術大学美術学部芸術学科を卒業。なんだかよくわからない記事を書きます。大概のことは好きです。

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