皆様こんにちは、伊沢拓司です。
ラジオなどでは度々言及してきましたが、私は趣味の欄にわざわざ「音楽鑑賞」と書くタイプの面倒な音楽好きです。iPod Classicを手にした12歳のころより長らく、クイズ王らしい雑食性を発揮して音楽を広く浅く聞き散らしてきました。
本連載『伊沢拓司の低倍速プレイリスト』では、私がこれまで聴いてきた名曲たちの「素通りしてしまいそうな重箱の隅」を、シンデレラの継母のごとくツッツいていきます。
しばし忙しさを忘れて、くだらない見世物のために立ち止まっていただければ幸いです。
カラオケの定番曲に潜む「違和感」
連載一発目は、やっぱり景気良くいきたい。有無を言わせずテンションを上げていける劇薬ソングを一曲選ぶのなら、やはりB'z『ultra soul』になるだろう。
日本を代表するロックアンセムにしてカラオケのトリ。世界水泳のテーマソングとして、松岡修造応援リーダーとともに熱気を全国へと届けてきた曲だ。「Hey!」というベタな掛け声を問答無用に叫ばせる、「空気を掴む」ナンバーである。
だがしかし、熱に浮かされている場合ではない。違和感の残るフレーズが、この曲には潜んでいる。「あえてゆっくり」を標榜する本連載、これを見逃すわけにはいかない。
サビに向けてゾワゾワとボルテージが高まるBメロ、最後にそいつは佇んでいる。「瞬間」と書いて「とき」と読ませる稲葉節(初級編)を通り過ぎたところに、違和感の正体があった。
結末ばかりに気を取られ この瞬間を楽しめない メマイ…
B'z『ultra soul』(作詞:稲葉浩志)
「メマイ…」!?!?
なぜここでいきなりメマイなのか。突如として発生する病識。見逃してはいけない所見だ。
そもそも、「めまい」でも「目眩」でもなく「メマイ」である。この表記自体が気になる。このフレーズを解き明かす鍵は、どうやらここにありそうだ。
なぜ突然「メマイ」を覚えたのか
歌詞検索サイトで調べてみたところ、カタカナの「メマイ」が登場する曲は少ないながらも複数存在した。
m.o.v.e.『Shake The Babylon』(「グインゴグインゴ」という特殊なオノマトペが登場する)では「けだるいメマイ」として登場。「媚薬みたい」と韻を踏んでいる。純情のアフィリア『はじめてのSEASON』には「あまいメマイ」という一節が。こちらは連続二語で踏んでいくパターンだ。さらにはLiSA『Bad Sweet Trap』も「アマイメマイネライ」と畳み掛けてきた。
つまりは、カタカナでの表記は「韻を踏む以外には使われていない」のだ。
「めまい」や「目眩」の登場頻度自体は「メマイ」に比べてかなり高い(最近では結束バンド『ギターと孤独と蒼い惑星』等)。しかし、こちらはシンプルな症状としての「めまい」だったり、「気が遠くなる」様子だったりを指していた。
(ちなみにB'z『だれにも言えねぇ』[2009]ではひらがなの「めまい」が用いられており、単に稲葉さんが「メマイ」表記のみを用いる可能性は排除されている)
この点からも、「メマイ」がラップ担当のメンバーであることが浮き彫りになる。しかも人気があんまりないメン。
▲かわいそうなマイメン
実際のところ、『ultra soul』も2番の同様のパートが「見てる I can tell」となっている。“アマリニモ”ちゃんと踏んでいた。稲葉浩志でさえ、「メマイ」の持つ韻力からは逃れられないのだ(三点リーダーで「フラッ…」とした感じを足している点がすごい)。
しかしながら、これは由々しき事態である。いささか「メマイ」軽視ではないだろうか。
▲「メマイ」を覚えたときは適切な対処を
この「メマイ」の結果として、登場人物がどうなったかは歌詞に描写されていない。何事もなく回復したのか、描く必要を感じなかったのか。少なくともここで発生した「メマイ」の重要性が、歌詞の中で相対的に低いことは確かだろう。
ならば、「メマイ」じゃなくてもいいじゃない。
この曲を彩るのに最適なフレーズが、きっと他にあるはずだ。
さあ見つけるんだ、僕たちのRHYME。韻は大事にしつつ、韻のみに終わらない激アツフレーズを探しに行こう。
「メマイ」に代わる何かを考えてみた
ざっと考えてみたところ……候補はそれなりに挙げることが出来た。
世界、世代、せまい、デカい、展開、先輩、全開、などである。
……やってみてわかったが、なかなかしっくり来るものがない。
「世界」や「世代」は世相批判的なニュアンスが乗ってしまう。「展開」や「先輩」は突然別のストーリーへと突入しそうだ。「全開」は「サビに向けてスイッチオン!」感こそあるものの、言い得ぬダサさがある。その他は「メマイ」以上に脈絡のない言葉になってしまった。
▲話が変わってくる
▲元気は出そうだ
比較してはじめてわかることがあった。「メマイ…」の「どうしよう……!?」的ニュアンスは、さり気なく味をととのえる絶妙なスパイスなのかもしれない。キレイだ、貴女のライミングスタイル。
とはいえ、因縁をつけたのはこちらだ。簡単には引き下がれない。かくなる上は、私以上の存在を呼び出し、その圧倒的知能で最高の「メマイ代替物」を見つけようではないか。
▲つまりはChatGPT(歌詞は正しくは「瞬間」)
頼りないBUDDYである。やはり、「その手でドアを開けましょう」ということなのか。
結論として、「メマイ」は文脈と押韻を両立した、ゆるぎないひとつの単語であったのだ。
「伊沢拓司の低倍速プレイリスト」は伊沢に余程のことがない限り毎週木曜日に公開します。Twitterのハッシュタグ「#伊沢拓司の低倍速プレイリスト 」で感想をお寄せください。次回もお楽しみに。
(2023年5月4日19:00 お詫びと訂正)記事掲載当初、『だれにも言えねぇ』の発表年を2004年としておりましたが、正しくは2009年でした。お詫びして訂正いたします。
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