こんにちは! 芸術は写実派の村上です。
突然ですが、こちらの絵をご覧ください。

こちらは、1814年に制作されたドミニク・アングルの『グランド・オダリスク』という作品です。
大きく人が描かれていますね。決して下手ということはないはずですが、どこか違和感がありませんか?
よく見てみると、手足が異様に長く、脚の組み方は判然としません。さらに細かく言えば、脊椎が湾曲しすぎですし、骨盤も実際はここまで回転できません。
この違和感は、一般的な人体の構造から逸脱しているために感じてしまうのです。
「人」や動物がモチーフの作品において、体の構造を知ることで、知識を制作や研究に生かすことができます。それを目指す学問が美術解剖学です。
今回は、美術解剖学の魅力を作家の方のインタビューとともに、さまざまな絵とイラストを交えてご紹介します!
医学から美術へ
美術解剖学の始まり
「美術解剖」の始まりは15世紀末、盛期ルネサンスのフィレンツェです。かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの師匠であるアンドレア・デル・ヴェロッキオの頃に始まったともされています。
ルネサンス運動によってリアリズムを追求した芸術が蘇ると、芸術家たちはより正確な人体描写の方法を求めるようになりました。そこで、医学的な人体解剖を芸術に導入するというアイデアが生まれ、「美術解剖学」という新たな学問が誕生しました。
レオナルドも、1510年頃から本格的に解剖学を学び始めました。レオナルドが注目したのは筋肉と骨格です。筋や骨格などの内部構造を学ぶと、体表にあらわれるさまざまな起伏に気がつき、それぞれの起伏の意味がわかるようになります。

上の解剖図はかなり詳細に描かれていますね。レオナルドは紙の貴重な時代に数百枚ものスケッチと記述を残したとされています。
ここで、1470年代にレオナルドと師匠ヴェロッキオが共同制作した『キリストの洗礼』を見てみましょう。

人体の表面がでこぼこしていますね。この起伏は筋肉や腱、骨によって浮き出るものです。筋肉の解剖図と見比べてみても、筋肉の位置や大きさがかなり正確であることがわかります。
このリアルさによって、描かれている人が今にも動き出しそうな感じや没入感が生み出されるのです。
奇妙さを逆手に取る
ルネサンスでは写実性が重視されていましたが、やがてそれまでの手法を発展させつつ、自然の模倣から離れ、創作者の趣味に基づいて誇張・抽象化することを特徴としたマニエリスムが広がりました。
マニエリスムで有名な作品が、パルミジャニーノの『長い首の聖母』です。

不自然に長い首の聖母、異様に手足が長い幼子イエス。奇妙な比率の人体ですが、どこか柔らかく、美しい曲線のリズムを感じられる不思議な作品となっています。

今回は特別に、作家として活動されている無空りらさんにイラストのご協力をいただき、わかりやすく人体の正しい比率(左側)と絵で描かれている比率(右側)をイラストで表していただきました。
首が長いのはもちろんですが、右脚の膝の位置がかなり下にあるのも違和感の1つですね。
マニエリスムでは解剖学的に正確でなくとも、線と色のリズムによって成立する美の形もあることを訴えています。
となると、最初にご紹介した『グランド・オダリスク』も美しく感じられるのは納得ですね! 長い線と曲線で強調された人体にしなやかな美しさを感じます。

実は、この作品もマニエリスムの影響を受けたとされています。
こうした一見違和感のある絵の魅力を深く知ることのできるのも、美術解剖学の視点があるからこそかもしれませんね。

















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