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こんにちは。しばらく記事を書いていないのにQuizKnockライターを名乗り続けていました、はぶきです。ただいま。

2年近く息を潜めていたため、私のことをご存知ない読者の方もいらっしゃると思います。最初に簡単な自己紹介をしますと、私は東京藝術大学音楽学部作曲科を卒業した後、色々あって今年3月に同大学の器楽科オルガン専攻を卒業しました。つまり、東京藝術大学を2回卒業したことになります。

音楽を人一倍勉強してきましたが、もちろん不得手なジャンルもあります。そう、私は流行りの曲にはめっぽう弱いのです。

私は今ピアノを教える仕事をしているのですが、ある日生徒の小学生とこんな会話が……。

先生Snow Manって知ってる?
ええと、アイドルの人ってことくらいは……
じゃあ、M!LKって知ってる?
う〜ん、アイドル……かな?
え〜、先生何も知らないじゃん!

なるほど、確かに私は何も知らないのかもしれない……。というわけで、私はM!LKの『爆裂愛してる』を聴いてみることにしました。聴いているうちに、老若男女に人気が出る納得の展開と、聴く人を飽きさせない工夫が見えてきました。

目次

『爆裂愛してる』とは

大ヒット曲なので今更感もあるかもしれませんが、最初に曲の情報について軽く触れておきます。

『爆裂愛してる』は、5人組のボーカルダンスユニット「M!LK(ミルク)」が2026年2月に発表し、7月現在も大ヒット中の楽曲です。『爆裂愛してる/好きすぎて滅!』の両A面シングルは、2026年6月に発表された「オリコン上半期ランキング2026」作品別売上数部門の「合算シングルランキング」で、ユニット初の1位を獲得しています。

これだけ抑えておこう! 音楽理論の基礎

私の感想をお読みいただく前に、「これだけは抑えておきたい」という基礎的な音楽理論の話をまとめておきます。この後の私の感想でわからない単語が出てきたら、ここに帰ってきてみてください。

音階

音階とは、ある規則に基づいて音を並べたもので、多くの場合1オクターブの範囲の中で並べられます。

使用する音階によって、曲の雰囲気は変わります。長音階なら明るい雰囲気、短音階なら暗い雰囲気といった具合です。民族音楽に使用される音階もあり、例えば琉球音階を使えば沖縄っぽいサウンドになります。

調

ある楽曲や楽節における、中心となる音と用いられている音階を表すのが「調」です。長音階が用いられているものを「長調」、短音階が用いられているものを「短調」と呼びます。

「ハ長調」や「イ短調」などの表現を聞いたことがあると思います。普段よく耳にする音楽の多くは、ある特定の音を中心に成り立っています。例えば、ハ長調なら「ハ音(=ド)」を、イ短調なら「イ音(=ラ)」を中心として構成されています。

また、曲の途中で調が変わることを「転調」と呼びます。

コードとコード進行

「コード」とは、複数の音を同時に鳴らしてできる「和音」のことです。

コードネームは英語で書かれるのが主流です。イタリア語である「ドレミファソラシ」を英語に置き換えると、「CDEFGAB」となります。例えば「C」と書かれていたら、それはハ長調の和音「ドミソ」を指します。特定のコードネームには、対応する特定の和音がある、ということだけ覚えていれば大丈夫です。

▲CとG7はこんな感じの和音になる

「コード進行」というのは、このコードの繋げ方のことです。特に西洋芸術音楽理論では、和音にはいくつかの性質があり、相性の良い繋げ方禁止される繋げ方などがあります。私はこの繋げ方の規則をもとに、コードの予測を立てながら曲を聴いています。

音と音の距離の測り方

音と音の距離は、日本語において「」という単位で測られます。例えば、「ド」から最も近い「ミ」までの距離を測るとしたら、ド・レ・ミの3音を経由するので「3度」になる、といった具合です。

ドからミまでの距離は、正確には「長3度」と表します。これがドからミ(フラット)なら「短3度」、ドからミ(シャープ)なら「増3度」、ドからミ♭♭(ダブルフラット)なら「減3度」のように、「(シャープ)」や「(フラット)」によって名称は細かく変化します。上記のような語彙が出てきたら、特定の2つの音の距離について話しているのだな、と思っていただければ大丈夫です。

実際に聴いてみる!

それでは、『爆裂愛してる』を実際に聴いてみましょう。皆さんもぜひ曲を再生しながら読んでみてください。

冒頭〜Aメロ前まで

最近の曲は飽きさせないために色々工夫していると聞いていたので、とても意外だったのが、後ろのブラス群が同じフレーズを3回も繰り返しているところです。「Fever time!!!」の直後からですね。

芸術音楽では、意味もなく同じフレーズを繰り返すことはありません。おそらくこの部分もそうなのでしょう。ここは曲が始まってから初めて歌がいなくなる場面で、歌以外の楽器たちをはっきりと聴くことができます。曲の冒頭で、「レ♯ミソ ミレシ ラ♯シミレーシラソラシ」というフレーズを何度も繰り返すことで、この部分を印象づけようとしているように聴こえました。

▲楽譜にするとこう

一度曲を聴くだけでも何回も耳にするフレーズなので印象に残り、どこかで再びこのフレーズを耳にすると「これが来たってことは、『爆裂愛してる』が始まるぞ!」となるわけです。魅せ方がうまい。

あと、「フッフウ!」という掛け声に「氣志團」を感じたのは、私だけでしょうか。曲自体、昭和後期から平成の、懐かしい感じが漂っていますよね。

Aメロ

今度は、サザンオールスターズの名曲『勝手にシンドバッド』を感じてきました。

というのも、Aメロ序盤のコード進行が、Em→A(Am)→D→G→B→Em……とよく似ているのです(『勝手にシンドバッド』ではAがAmに置き換わる)。

珍しいのかというと全くの逆で、定番中の定番といえるコード進行です。これまでも数多くのヒット曲で使われてきました。

Bメロ

ビート感がみるみる変わる! なるほど、これが飽きさせないための工夫なのか……。

緩やかな8ビートを感じるようになったと思ったら、せわしない8ビートになって、最後は16で打ちます。まるでジェットコースターに乗っているかのようです。

ビート感の大きな変化というのは、曲の大事な箇所を強調するためのものというイメージがあります。例えば、キメどころで局所的に2拍3連に変えたり、サビの前をゆったりしたビートにしてサビと対比させる、などなど……。ですので、私としては「まだ1番なのに、こんなに盛り上がっちゃっていいの!?」みたいなドキドキを感じました。

サビ

サビ、めっちゃいいじゃん!!!!!

サビまでは、ホ短調のスケールをメインに使用していたので、基本的にファの音には「♯」がついていました。しかし、「キミこそが太陽!」の箇所で初めて、♯のつかないファが入ったコード「G7(ジーセブン)」が登場するのです。ここでファが登場することによって、この後あたかもCに行くかのように見えます。慣習的には、それが自然な進行なのです。

▲こうなるように聞こえる

しかしながら、「爆裂 恋恋恋恋恋してる」ではCへ行く期待を裏切って、C♯m7-5(フラットファイブ)に行くのです! 個人的には、ここが最も熱いポイント。

▲実際のコードはこう

フラットファイブ系は減5度(ここではド♯とソ)を含むので、やや暗い印象になります。減5度というのは、その響きの不安定さから、16世紀ごろまでのヨーロッパで忌避されてきた音程です。この仄暗さのにじむニュアンスに、一筋縄では行かない恋の行方が暗示されているのかもしれません……。

そして「未来は思うがまま」に入ると、私は思いました。「このあと絶対B7にいってEmで終わるな……」と。この展開を期待して聴いていたら、本当にB7→Emで終わったのです。本当に「思うがまま」でした。

私がなぜ予測できたかといえば、簡単です。一度Gで終始した後にB7からEmへ行くというパターンは、王道のコード進行だからです。そう、この曲はすっごく「王道」なのです。

あれ? 曲変わった?

その後は、アレンジされた2番のAメロとBメロを楽しく聴いていたのですが、ここで事件が発生します。これまで聴いていたどこか懐かしいJ-POPが、突然EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)になってしまったのです。私は驚いて、YouTubeのシークバーを少し前に戻しました。

何度か戻ってよく聴いているうちに、気づいたことがあります。それは、直前の歌詞が「時空(とき)も超えるよ」だったということです。先ほどまでのJ-POPを「昭和後期から平成の懐かしい感じ」と最初に表現しましたが、EDMといえば、2010年代ごろから流行が始まって、今も人気の音楽ジャンルです。

そう、つまり曲調が時空(とき)を超えている……! 粋な演出すぎて、なんか悔しい。

スパニッシュスケールとEメジャーと……

この曲、もしかしてあらゆる音楽をやろうとしていませんか……? 「誰にも邪魔させない」のところで、スパニッシュスケールらしきメロディが出てきました。スパニッシュスケールを使用した曲といえば、組曲『カルメン』第1番の「アラゴネーズ」でしょうか。厳密にいうと「アラゴネーズ」の方が1音多い音階を使用していますが、雰囲気はこんな感じです。

その直後、「キミと同じ地球(ほし)に 生まれて出会えた幸せ」から、突然ホ長調になります。これは、最初のホ短調から見ると同主調にあたり、近親調でありながらインパクトの強い転調になります。

再度サビに戻る「爆裂」で一旦ホ短調に戻るのですが、ここでJ-POPあるあるの「最後のサビで上に転調」が入り、「愛愛愛愛愛してる」でヘ短調へと一瞬で姿を変えます。これもまた、王道で盛り上がる展開ですね。

「予定調和」と「好奇心」

『爆裂愛してる』は、大枠で見ると雰囲気が頻繁に変わる「最近の曲」という感じですが、PVの雰囲気やメロディ自体は一貫してわかりやすく歌謡曲でした。それに加え、コード進行は定番中の定番、そして似たフレーズや展開を何度も使うことで、親しみやすさを強く感じました。

この曲のPVには「おばあちゃんがハマった」などのコメントがあり、老若男女から支持されているようですが、これは「予定調和」と「好奇心」が上手く組み合わさった結果だと思います。

人間という生き物はおおよそ、知っている展開が来るのが好きなのです。年配の方がよく見ているイメージの『水戸黄門』も、オチはみんなわかっているのにずっと人気のシリーズですよね。勧善懲悪ものは、スッキリする展開がわかっているからこそ人気なのです。

▲「この紋所が目に入らぬか!」でおなじみ

これは音楽にも通用するお話で、既知のコード進行は安心感を与えてくれるのです。音楽理論の中にも、ドミナント和音で緊張しトニック和音で弛緩するという理論がありますが、ドミナントの後にトニックが来ると、なぜだか人は安心してしまうのです。『爆裂愛してる』も、この曲の「予定調和」の部分が多くの人を惹きつけているのではないでしょうか?

そして、最近の曲に多い「曲調がコロコロ変わる」という部分で、刺激に麻痺してしまった若年層も聴いていて飽きない曲になっています。特に曲の最後の方は、若者たちに好まれそうな急展開でした。聴けば聴くほど、本当によく設計されている曲だと感じます。

最後に、M!LKのファンだという読者の方は、もし作曲者の意図と異なる話をしていましたら、遠慮なくツッコミを入れてください。1曲聴いてみてとても面白かったので、これから他の曲も聴いてみたいと思います。

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この記事を書いた人

はぶき りさ

東京藝術大学音楽学部作曲科卒業、同大学別科オルガン専修を経て、同大学音楽学部器楽科オルガン専攻卒業。世界で何千年も生き続けている「音楽」という文化に、少しでも興味を持ってもらえるような記事を書けたらと思います。よろしくお願いします。

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