\ 連載「クイズを味わう」 /
「クイズ」は、物知りな人が解いて答えるだけのもの? いやいや、問題に込められたメッセージや「たくらみ」を見つけるのも、クイズの楽しみ方のひとつ。
毎回1問のクイズを取り上げ、「いいクイズ」「面白いクイズ」の秘密をひもときます。毎週金曜日のお昼に更新予定です!
今回取り上げるクイズはこちら。

かなり普通の問題に見えますね。
今回はこの問題について語ります。つまり、「なぜ普通である必要があったのか」と「普通であることはどのように達成されたのか」について話します。
「普通」に見える問題の裏にあるもの
なぜ普通である必要があったのか。これを大きな視野で見てみましょう。
この問題が出題された WHAT 2022において、出題者であるQuizKnockは、「ある目標」を早急にクリアする必要がありました。
参加者に問題のクオリティについて安心してもらうことです。
WHATは2022年に初めて開催されました。初回特有の事情として、過去問がありません。参加者は不安です。QuizKnock主催とはいえ、本当にいいクイズ大会なのか……? という疑念を胸中に抱くのが当然です。
そうしますと主催としては、最初の1問目に「スゴい問題」を出して、場をブチ上げたい。この問題を含め四択クイズは全員参加のラウンドゆえに難易度を低めにする必要がありますが、その縛りの中で、参加するクイズ王たちの予想の外からクイズを出題して冒頭のカマシとするのが良いでしょう。
そうして、栄えある1問目に選ばれたのはこの問題でした。
What’s the date today?
May 1st
まさかの英語。date(日付)の意味がわかれば解けるので、難易度としてはそこまで高くありません。一方で、クイズが日本語で出題されるという参加者の思い込みを破壊しています。最高のカマシです。
しかし、このクイズが最高とはいえ、大会の全問題をこのような見慣れないクイズだけで構成することはできません。珍問クイズ王をやりたいわけではないからです。大会全体は、参加者が日頃触れているクイズに近い形であるべきでしょう。
すると1問目のカマシを、2問目以降でクールダウンしなければなりません。「サマシ」とでも名付けましょうか。
2問目と3問目はこのサマシに使われています。並べてみます。
慣用句で、「〇〇が鳴る」「〇〇を磨く」「〇〇を振るう」の〇〇に共通して入る体の一部は?
腕
かつては殺虫剤にも用いられた、タバコの葉に多く含まれる物質は?
ニコチン
この2問では1問目で上がったテンションを落ち着けるべく、段階を踏んだサマシが行われています。
問題の特殊性が下がっていくのです。1問目は英語→2問目は文中に〇〇という指示を使う→3問目はまったく普通、という形になっています。3問目である「ニコチン」は、冒頭のカマシの余熱を引き受けるために、そしてこの後に続くWHATの普通の顔をした問題を代表するために、普通なわけです。
このクイズが普通である必要性がわかりました。では、普通であることは具体的にどのように達成されたのでしょうか。
ここからはいつものように問題文に踏み入っていきましょう。
「誰からも身近でない」問題を
やはり最初に気になるのは、ジャンル「タバコ」の異質性。WHATは高校生以下を対象としたクイズ大会なので、タバコは参加者の誰の趣味でもないはずです。
言い換えれば、すべての参加者に均等に「身近でなさ」を感じさせることができます。
趣味性の高い問題を出すと、そのジャンルが好きな参加者は盛り上がります。日頃なら好ましいことですが、それではサマシの効果が薄れてしまいます。サマシのためには誰にとってもある程度他人事であることが必要で、タバコの問題はこの点に適しています。
ということで答えがニコチンのクイズを出題することにします。しかしテキトーに出題すると問題が起こります。テキトーに作った問題文を載せるので、何が嫌かを考えてみてください。
禁煙用のガムにも配合される、タバコの有害成分は何?
ニコチン
どうでしょうか。
なんだか、説教臭くありませんか?
「有害」という言葉のまわりから説教臭さが出ている気がします。ではこの「有害」という言葉、取ることができるでしょうか。誰かがニコチンについて話すとき、コアイメージはその有害性でしょう。そんな重要ワード、使わないことができるでしょうか。
……はい、実際に出題されたクイズには「有害」という言葉が使われていません。
かつては殺虫剤にも用いられた、タバコの葉に多く含まれる物質は?
ニコチン
その代わりに使われたのが「殺虫剤」。これはかなりアクロバットな用法です。
殺虫剤は、虫に害である一方で人間には無害であるべきです。人に害だと困りますからね。しかし素朴なイメージとしては、なんだか健康に悪そう(そういった思い込みを正していくことも勉強です!)。
ということで、この問題は「殺虫剤」を持ち出し、そのイメージを利用することで「有害」を消すことに成功しました。よく考えるとすごいことをやっている。
こうして説教臭さは脱臭され、とても普通な……印象の薄い問題になりました。そういう腕の振るい方もある。
さて、ニコチン問題の普通さについていっぱい書きました。でもこの文章のせいで、もう普通には見えないかもしれない。悪いことをしましたね。
(文・河村拓哉)
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