連載「伊沢拓司の低倍速プレイリスト」
音楽好きの伊沢拓司が、さまざまな楽曲の「ある一部分」に着目してあれこれ言うエッセイ。倍速視聴が浸透しているいま、あえて“ゆっくり”考察と妄想を広げていきます。
「イニシャルトーク」という言葉がある。登場人物の名前をアルファベット1字で代替する、つまりは名前を伏せた形で話すエピソードのことだ。
ネットニュースが溢れる昨今では、どうしてもこうした話が目に飛び込んでくる。私自身、生来の好奇心ゆえ手が勝手にリンクを開いていることもままあるのだが、自分が当事者になったらと思うと肝が冷える思いだ。「クイズ王のI氏」ってもうそれ俺しかいないし。
▲イニシャルでも一意に定まるので……（参考：ご報告人狼）
とはいえ私のケースは例外で、「わかりそうでわからない」という絶妙なチラ見せ感に、人は興味を掻き立てられる。
そして、チラりと「見えてはいる」がゆえの程よい具体性が、没入感や共感を生むこともある。プリンセス プリンセスの『M』はその最たる例だ。
「M」とは誰のことなのか
1989年、前年のアルバムからシングルカットされる形でリリースされた『M』は、最大のヒットシングル『Diamonds』のB面であった。にもかかわらず広く認知されているという事実が、曲自体の魅力を示しているだろう。間奏のツインギターが特に最高。
作詞を手掛けたメンバー・富田京子が、イニシャルMの元恋人をモデルに書き上げた歌詞は、女性の目線からの失恋を見事に表現している。多くのアーティストにカバーされていることも、この曲の普遍性を物語っていると言えよう。
あなたのいない右側に 少しは慣れたつもりでいたのに
どうしてこんなに涙が出るの
もう叶わない想いなら あなたを忘れる勇気だけ欲しいよプリンセス プリンセス『M』（作詞：富田京子）
しかし、チラりと見えてしまったがゆえに、こっちとしても気になってしまう。
主人公の右側にいたはずの恋人M、どんなひとなんでしょう……。
今夜は「大追跡！ 噂の恋人Mは何者なのか？」と題しまして、私・伊沢が高校時代から疑問に感じ続け、そして当時「これこそが真実だ」と気づいた、「M」の真相に迫りたいと思います。
もしかしたら御本人に来ていただけるかもしれませんから、どうか番組終了まで目を離さずご覧ください。チャンネルは、そのまま！！
この番組はQuizKnockの提供でお送りします
さて、まずはM、というイニシャルについて掘り下げてみましょう。
そもそも、イニシャル「M」というヒントがかなり幅広いですよねぇ。
浜崎あゆみ『M』から「M資金」まで、Mを題材としたイニシャルトークだけでも枚挙に暇がありません。具体的な事実に基づきつつ、ミステリアスな雰囲気も出ているナイスMたちです。
『007』シリーズに登場する主人公の上司も、コードネームMと呼ばれています。ジュディ・デンチの名演が光りましたね。スパイゆえ、イニシャルの「隠す」役割を活用しているわけです。
これらの例と同じく、『M』の歌詞からも「ぼかしたい」という意志が感じられます。
歌詞を通して具体的なワードはあまりなく、わかりやすい手がかりは「右側にいたこと」「秋に出会ったこと」「黒いジャケットを着ていること」くらい。
街の人は……
中にはこんな人も……
そう語るのは、よく仕事でジャケットを着ているというMさん（62）。そんなMさんのお仕事は、運動会でスタートのピストルを鳴らすこと。たしかに、ジャケットお似合いです。
もしかしてと思ったものの……残念、噂の彼ではなさそうです。
今回はこういう回です
……さて、なかなかに取材班、苦戦しています。
取材でダメならデータから迫っていきましょう。
ということで、こちらのフリップに見ていただきたいデータがありまして……はいこちら、日本の名字ランキングです。
今回はMで始まる名字を抜き出してみました。上位はこんな感じになっているんですが……
ちなみにスタジオのAさん、2位の名字はなんだかわりますか？
なわけないでしょ、山梨学院大学の留学生ランナーですよそれは。Bちゃんはどう？
ヒントですか……ヒントは、「漢字1文字の名字」です。
正解その通り。2位はこちら（ペロン）。はい、森ですね。
▲名字由来netより作成
そうなんですよね。ここで出てくる森、何かを暗に示しているのかなともスタッフ一同疑ったんですが、さすがに文法的にこうはならんだろうと。
\ﾄﾞｯ!/
いやね、スタッフもそうしたいところだったんですが、ここで諦めたら終わりってことで、一同テッペンまたぎで頑張りました。
ここで、ある仮説が浮上します。
それは「ミュージシャンの恋人なのだから、ミュージシャンなんじゃないか」。
