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こんにちは。ライターの斎藤充博です。

うちには小さな子どもがおりまして、いろいろな絵本が本棚の中に入っています。その絵本を眺めていてふと思ったのですが……。

1冊における、絵本とマンガのボリュームって違いすぎませんか。

このあと登場するクリハラタカシさんの絵本とマンガ
当たり前だけどページ数がぜんぜん違う
1ページあたりの絵の数や文字数も違う

こんなことを言ってはなんですが……。マンガを描くよりも絵本を描く方が、絶対にラクなような気がします。

実際のところ、どうなんでしょう? 絵本とマンガの両方の仕事をしている知り合いのクリハラタカシさんに話を聞いてみました。

クリハラタカシ

マンガ、絵本、イラストなどを制作するクリエイター。近著の絵本に『われら はたらく うんてんしゅ』(福音館書店)、マンガに『余談と怪談』(ヒーローズ)など。現在、HERO'S Webにてマンガ『アナホルヒトビト』を連載中。絵本の時のペンネームはひらがな表記(くりはらたかし)。

絵本の方がラク!

斎藤
というわけで「絵本とマンガ、ぶっちゃけどっちがラクなのか」というお話を伺いたいです。こんな話を聞いていいんでしょうか。

クリハラさん
あくまでも個人の意見ということであれば……。

斎藤
ちなみに、クリハラさんの著作のコマ数を数えてみました。絵本の『とおくにいるからだよ』の見開きを1コマとして考えると、1冊で16コマ。『冬のUFO・夏の怪獣』は1冊で877コマ。

……もちろん単純な数の問題ではないとは思うんです。ただ、1冊を作るのに16コマと877コマでは、やっぱり絵本の方がラクなのではと、思ってしまって。

クリハラさん
結論から言うと、斎藤さんのおっしゃる通りかなとは思います。ただ、もう一度言いますが、あくまでも個人の意見です。

斎藤
あっ。認めた。……なんとなく「どっちも大変!」という話になるかな、と思っていましたが、そうなんですね。

クリハラさん
ちなみに前提として、絵本はいままでお仕事で10冊ちょっとは描かせていただきましたが、マンガは「ゆるい条件で描いたことがある人」くらいの感じかと思います。おそれ多くてマンガ家とは名乗っていません。

そんな自分から言わせてもらうと……商業誌の一般的な条件でマンガを連載するっていうのは、信じられない能力です。特に週刊連載してる先生なんて、全員怪物ですよ。

マンガの週刊連載を短距離走のスピードで走るマラソンだとすると、絵本は寄り道しながらハイキングするみたいなイメージですかね。そして目的地の遠さは作品や人によって違う。

斎藤
例えとしてはなんとなくわかりましたが……具体的にはどこが違うんでしょうか。

クリハラさん
斎藤さんがさっき挙げてくれたボリュームの問題もありますが、時間ですね。絶えず迫ってくる締め切りと短い制作時間です。マンガ連載は毎週、毎月締め切りが襲ってくる。

斎藤
絵本の制作期間ってどのくらいなんでしょうか。

クリハラさん
最初の打ち合わせから実際に絵本が出版されるまで半年~3年くらいですかね。僕はお話が固まったあと、作画期間を4カ月~半年くらいは頂いています。絵本は最初に相談すれば比較的制作期間の融通が利くのではと思います。

このくらい時間があると、絵の修正や仕上げもじっくりできます。あらかた描き終わって、あとはちょっといじって質を上げるだけ、みたいな工程が楽しいんです。

斎藤
それでは、マンガだったとしても単発の読み切りで、締め切りに融通が利くような条件だったら、そこまで大変ではないですか?

クリハラさん
そうですね。読み切りのマンガで、ページ数が少なくて、締め切りが遠くにあれば、絵本を制作する感覚に近づいてくると思います。現実にはなかなかないのですが……。

斎藤
クリハラさんは最近『アナホルヒトビト』というマンガの連載をしていますよね。これもコマ数を数えてみたのですが、1話で170コマありました。これはどんなふうにやっているんでしょうか?
『アナホルヒトビト』
(クリハラタカシ/ヒーローズ)

クリハラさん
これは隔月連載で、しかもだいぶ描きためをしてから開始させてもらっています。マンガの連載としてはかなり特殊で、相当に甘やかされた条件だと思います。

ちなみに第1話(#00)は大学生の時に1年間かけて描いた読み切りの再録だったりして……。これだけ過保護な状態でも締め切りに追いつかれないようにヒヤヒヤしています。

斎藤
絵に関してはどうですか。ぶっちゃけ、絵本に描く絵の方が単純でラクだったり……

クリハラさん
そこに関しては完全に人それぞれだったり作品次第だと思います。ゆるい作風の人もいれば写実的で作り込んだ絵の人もいます。自分も画風が何種類かあって、『アナホルヒトビト』は手数が多い絵ですが『ツノ病』の絵はシンプルでこんな感じです。
『ツノ病』シリーズの『隊長と私』
(クリハラタカシ/青林工藝舎)

あと、「絵本の絵は着彩が必要で大きい」「マンガの方が1ページにたくさんの絵(コマ)がある」……という傾向はありますけど。それで作業的にどっちが大変か、どっちがラクかは言い切れないですね。

絵本は子どもの喜ぶことを考える必要がある

斎藤
マンガの制作のやり方って、なんとなくみんな聞いたことがあると思うんです。ネームを作って、編集者に見せて、通れば下書きや清書にはいる、という感じですよね。ただ、絵本の制作のやり方ってあんまり聞いたことがなくて。実際はどんな風にやっているんですか?

クリハラさん
それに関しては基本的にはマンガと同じだと思っています。僕の場合はA3の1枚の紙に展開を全部描いて、それを編集者に見せていますね。

斎藤
ネタを編集者に見せて「ちょっと違うなあ」なんて言われることも……?

クリハラさん
もちろんありますね。そして「ちょっと違うなあ」と言われても「本当にそうかな?」と思ってしまうこともあります。

僕としては「子どもの時の自分」が喜ぶように描いているつもりなので「その判定は大人の感想なのか、心の中にいる子どもの感想なのか? 結局、現実の子どもの感想はどうなのか?」って。大人同士で作っているので。

絵本の読者はマンガの読者よりさらに小さい子なので、その感覚の手探りな部分は多い気がします。確認のために編集者がラフを保育園で実際に読み聞かせして反応を見てくれることもありますよ。

斎藤
おお、そんなことするんですね。

クリハラさん
近作でも、入れたかったシーンが保育園の子どもにあんまり伝わらないことがわかったので変更しました。影絵遊びのシーンだったんですけれど、その遊び自体をあまり知らない子が多かったんです。

斎藤
厳しい……! でも、それは正解ではありますね……。

「いないいないばあ」の構造が強い

斎藤
絵本の制作において難しいことってなんですか。

クリハラさん
小さい子向け、特に赤ちゃん向けの絵本だと「あるある」の共有が難しいですね。知ってるものがブーブーとかワンワンとか、お母さんのおっぱいとか……そんな感じのものだけで。自分としても、赤ちゃんの時に何が楽しかったかの記憶なんて、もう自分の中にないですし。

斎藤
ああー。それで1冊の絵本を組み立てるのって、確かに難しそうです。

クリハラさん
ただ、「いないいないばあ」の構造は強いとは聞きます。隠されているものがあって、ページを開くと出てくる、みたいな。それに加えて楽しい擬音があって。その繰り返し。

斎藤
そのものずばりで、『いないいないばあ』の絵本がうちにあります。動物がいないいないばあをしているだけの本。

クリハラさん
昔からあるロングセラー絵本ですよね。対象年齢はもう少し上ですが最近出た僕の絵本『われら はたらく うんてんしゅ』(こどものとも2026年8月号)もこの構造です。最初はアップで登場して、次のページで何かが起こる。

『われら はたらく うんてんしゅ』(くりはらたかし/福音館書店)
斎藤
構造を聞くとすごく納得です。ページをめくるのが楽しくなりそう。

絵本作家になるには

斎藤
絵本作家になるには、どうしたらいいんでしょうか? マンガなら新人賞にマンガを送ればいいのかなと思うんですが。

クリハラさん
絵本にも新人賞はありますし、絵本講座のようなものもありますよね。そこに参加するのが分かりやすい入口ですかね。

ただ、僕の場合は『アックス』っていうマンガ雑誌でさっきも出した『ツノ病』を描いていたら、絵本の編集者から声をかけていただいて、それがきっかけになりました。

※アックス……水木しげるなどの個性的な作家を多数輩出した『ガロ』の後継のオルタナティブマンガ雑誌。

斎藤
マンガの連載から絵本につながるって、おもしろいですね。

クリハラさん
『アックス』からは絵本作家になっている人が多いですね。田中六大さん、アヤ井アキコさん、川崎タカオさん、本秀康さん、秋山あゆ子さん……。まだまだいると思います。

『うどん対ラーメン やきそばの逆襲』(田中六大/講談社)

『アックス』で描いている人のマンガって絵もお話も流行りにあまり関係がないんですよね。それが絵本の世界に親和性が高いのかもしれません。

だから、自分の持ち味を大切にするといいのではないでしょうか。マンガを描いて『アックス』に応募するのは絵本作家への近道なんじゃないかなと密かに思っています。マンガは入選しなかったとしても、SNSで公開すれば比較的見てもらいやすいフォーマットですし。

斎藤
なるほどな~。

クリハラさん
そういえば最近、芸人さんから絵本作家になった方もいらっしゃいますよね。たなかひかるさんや、ひろたあきらさんとか……。絵本って大喜利とかフリップネタに近い部分もあるからですかね。絵本は異業種の人がスッと新しいものを作れちゃう可能性があると思います。

『わたし初音ミク こまっているの』
(たなかひかる/主婦の友社)
©︎CFM ©︎Hikaru Tanaka 2026
斎藤
違う発想が活きるわけですね。

クリハラさん
それこそ、QuizKnockから絵本が出てもおもしろいかもしれませんよね。できる気がします。

斎藤
QuizKnockの読者は中高生が多いのですが、これから絵本やマンガなどの絵の仕事に就きたい人にメッセージをお願いします。

クリハラさん
「たくさん描いて、たくさん見せる」を続けるといいかなと思います。気合を入れて大作を作って賞に応募したり売り込みをする姿勢も大事ですけれど、気軽にたくさん作って人にどんどん見せて、あとは依頼がやって来るのを待つという姿勢も同じくらい大事な気はします。

クリハラさんの本
『冬のUFO・夏の怪獣【新版】』(ナナロク社)
『とおくにいるからだよ』(教育画劇)
『アナホルヒトビト』(HERO'S Web)
『隊長と私』(青林工藝舎)
『われら はたらく うんてんしゅ』(福音館書店)

記事で紹介した本
『うどん対ラーメン やきそばの逆襲』(田中六大/講談社)
『わたし初音ミク こまっているの』(たなかひかる/主婦の友社)

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この記事を書いた人

斎藤充博

フリーランスのライター・編集です。日常生活の中で感じた引っかかりを記事にしています。著書に『生きることがラクになる これからのフリーランス』(光文社)。

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