こんにちは。好きな芥川賞受賞作は『犬婿入り』の中川朝子です。
半年に一度文壇を賑わせる「芥川賞」と「直木賞」。
いずれも非常に有名な文学賞であり、受賞作の多くは映画化・ドラマ化などを経て多くの人に読まれるようになります。先日、第169回芥川賞を『ハンチバック』で受賞した
【第169回芥川賞】『ハンチバック』が受賞、難病と闘う市川沙央さんが会見
「芥川賞は目指していなかったので、驚いています」「この場所(会見所)はニコニコで最近予習していました」と話した。pic.twitter.com/Eole5IFkbY
芥川賞の名前は『羅生門』『地獄変』などで知られる芥川龍之介から、直木賞の名前は『南国太平記』がヒットを博した
どちらの賞も作家の菊池寛により創設されました。彼らは菊池寛の大切な友人だったのです。
並べて語られることの多い両賞ですが、実は大きく性質が異なります。
両者の決定的な違いについて、現役の作家でもある私・中川がご紹介します!
違い1:「純文学」と「大衆文学」
まず、賞を主催する日本文学振興会の「定義」を確認してみましょう。
芥川賞は、雑誌(同人雑誌を含む)に発表された、新進作家による純文学の中・短編作品のなかから選ばれます。直木賞は、新進・中堅作家によるエンターテインメント作品の単行本(長編小説もしくは短編集)が対象です。
公式サイトによれば、以上のような区別がなされています。
この定義に関してわかりやすく補足しますと、芥川賞は純文学、すなわち作品それ自体に芸術性を見出すことのできる小説がノミネート対象となります。何をもって「芸術性」と見なすかを一般読者が完璧に把握するのは難しいですが、国語便覧に「現代日本文学」として掲載されるような作品、という個人的なイメージがあります。これに対して、直木賞は「エンターテインメント作品」と受賞対象を広く定めています。
基本的に時代小説やファンタジー小説、ミステリといったジャンルの小説は直木賞に分類されます。また、受賞作品も芥川賞に比べると長編傾向にあります。
違い2:芥川賞は「新進作家」、直木賞は「新進・中堅作家」
芥川賞は非公募型の「新人賞」です。どれだけ著名な作家でも、一度「新進作家」から外れてしまえば、その後にノミネートされることはありません。太宰治や村上春樹さんといった大御所も、実は芥川賞を受賞していないのです。
逆に言えば、年齢関係なく賞が授与されるとも言えます。綿矢りささんや宇佐見りんさんなど、学生の受賞者が一定数存在するのも芥川賞の特徴と言えるでしょう。
これに対して直木賞は「中堅作家」も対象に入っています。どちらかというと作品そのものに対してよりも「作家」に与えられる賞という意味合いが強く、デビュー作が取り上げられることはほとんどありません。
そんな中で異例ともいえる快進撃を見せたのが、逢坂冬馬さんのデビュー作『同志少女よ、敵を撃て』。受賞こそ逃したものの、発売からわずか1カ月で直木賞にノミネートされました。2022年には本屋大賞に選ばれています。
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』が、デビュー作にして第166回直木三十五賞の候補作に選ばれました!選考委員会は来年1月19日(水)に行われます。画像の新帯で順次展開予定です。https://t.co/kfGK9QDPUz pic.twitter.com/POkRfuufbE
— 早川書房公式 (@Hayakawashobo) December 17, 2021
違い3:雑誌掲載でもよいのが芥川賞、単行本になっていないと選ばれないのが直木賞
芥川賞を受賞する作品は枚数が短めで、読者の肌感覚では、およそ原稿用紙100枚~250枚程度の作品が多いです。候補になった時点で単行本になっていないケースもあります。
伝統的に「五大文芸誌(文學界、群像、新潮、文藝、すばる)」に掲載された作品が候補作に推されやすく、先述の受賞作『ハンチバック』も初出は『文學界』です。
▲文芸誌はこんな感じ
これに対して直木賞は「単行本」として出版されていなければなりません。
ちなみに、芥川賞受賞作は『文藝春秋』に、直木賞は『オール讀物』に掲載されます。あわせて読むことのできる選評や受賞のことばにも要注目です!
芥川賞/直木賞を見逃すな!
ここまで芥川賞、直木賞の違いを説明してきました。
特徴は違えど、どちらも素晴らしい文学賞であることに変わりはありません。受賞作を予想したり、候補作の中から「推し」を見つけてみたり……賞の楽しみ方にはいろいろあります。1冊の本との出会いが人生を変えることだってありえるのです。
例えば私の場合、地元の丸善で『土の中の子供』を立ち読みし、その筆致に気圧されて購入したのが、芥川賞受賞作との最初の出会いでした。
▲傍線がいっぱい引いてあります
あの日初めて味わった、ページをめくる度に心躍る感覚がなければ、小説を書こうなんて夢にも思わなかったことでしょう。
両賞ともに面白い作品が盛りだくさんです! 皆さんも是非、読んでみてくださいね。
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