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高級食材として人気の高い「ウニ」。料理にほんのひとかけら添えられているだけでも、なめらかな食感と甘みで特別感を味わわせてくれます。

▲「夢」とは、桐箱のウニをほおばることをいう。

こうした「やんごとない」イメージと裏腹なのが、そのフォルムです。黒くて、小さくて、そして何よりもこちらを威嚇しているような無数のトゲトゲ。改めて眺めてみると、直感的に「食べられる」とはとても思えない……

▲もうこんなにトゲトゲで……。

ウニを最初に食べようと思った人、すごくないですか?

最初に食べた人がいるおかげで、このうまさを享受できている私たち。そしてもしも叶うのであれば、その功績を称えて「ありがとう」を伝えたい。

調べてみると、ウニは縄文時代から食べられていたようです。そんなに昔のこととなると、さすがに感謝は伝えるのは難しい……。

だけど、縄文人がウニを食べようと思ったワケに迫ることはできる。ということで、縄文時代の遺跡・三内丸山遺跡(青森県青森市)の保存活用課に勤める佐藤真弓さんに話を聞きました。

▲三内丸山遺跡空撮 / 三内丸山遺跡センター提供

紀元前3,800年から残るウニの食文化

――縄文時代にウニが食べられていた、というのは本当でしょうか。

佐藤さん はい、三内丸山遺跡の中から、ウニ類の殻の破片が見つかっています。魚の骨などが捨てられている「捨て場」という場所から出土しているため、海から持ってきて中身を食べていたと考えられます。時代としては縄文時代の前期後葉、紀元前3,800年頃になります。

▲ウニ類の殻の破片 / [ウニ類] 三内丸山遺跡センター提供

――5千年以上前から……! 縄文時代以前も、ウニは食べられていたのでしょうか。

佐藤さん 縄文時代の前、旧石器時代についてはわかりません。でも、縄文時代で海の生き物をたくさん食べるようになった、というのはあると思います。

佐藤さん 三内丸山遺跡の周辺ですと、縄文時代の早期頃に津軽海峡から暖流が入るようになり、南方系の魚などより多くの魚が獲れるようになりました。また、気候も旧石器時代に比べてあたたかくなっています。こうした環境の変化から、漁業が盛んになっていきました。

――なるほど、環境の変化によって海の幸を食べることが身近になっていったということですね。

佐藤さん 実は、三内丸山遺跡では動物よりも魚の出土量が多いんです。やはりそれだけ魚がとりやすく、縄文人にとっても魚が貴重なタンパク源だったのだと思います。

▲縄文時代には漁が盛んに行われた / [骨角器 釣り針] 三内丸山遺跡センター提供

ウニの疑問に迫る「海の中のものはなんでも食べたのでは」

――当時、ウニはどのように食べられていたのでしょうか。

佐藤さん 推測にはなってしまうのですが、魚類などは焼いた形跡があまりないので、土器で煮炊きをしていたのではないかと考えています。縄文人は生で食べることはあまりしていなかったと考えられるので、ウニも煮込んで食べていたのではないでしょうか。

▲調べてみると青森にはウニとアワビを煮た「いちご煮」というお吸い物があるらしい。アワビには手を出せなかったが、火を通すとウニ(スーパーで980円)の食感がしっかりして、ダシに旨味が出ておいしい。

――ウニは生で食べるイメージが強いので意外です。それにしても、あのトゲトゲだらけのウニを食べようと思ったのはすごいと思います。どんな過程があったと思いますか?

佐藤さん う〜ん、難しいですね……。ただ、縄文人は沿岸から沖合まで、海のあらゆるところで活動していたことがわかっています。基本的に海の中のものはなんでも獲って食べることで、毒があるものや食用に向いていないものを把握していったのではないでしょうか。

佐藤さん なので、最初に勇気を出してウニを食べた人がいたのかもしれません。長い年月をかけて、例えば漁に詳しい人などが教えとして情報を引き継いでいったのでしょう。食べられるものだという認識ができれば、特徴的な形をしているので見つけやすかったかもしれませんね。

「ウニ、最初に見つけたら食べますか?」

▲大型掘立柱建物(立体表示)と大型竪穴建物(立体表示) / 三内丸山遺跡センター提供

遺跡や出土品から解き明かされていく縄文時代の生活。こうした中で、「ウニを最初に食べた人」は誰だったのか、今は知るよしもありません。しかし、気候や環境の変化という背景があったからこそ、ウニを食べる文化が根付いていったのだとわかりました。

ちなみに、「もしも佐藤さんが『最初にウニを見つけた人』だったら、食べようと思いますか?」と聞いてみると、「ウニは好きなんですけどね……」と考え込む佐藤さん。

でも、海の中にいっぱいあれば食べるかもしれないです。おいしいものだとわかれば、それで生きていけますからね

まさに佐藤さんのような人が、ウニ食の道を切り拓いたのかもしれません。思いがけず出会えた「勇気ある人」に、ちょっぴり気持ちが湧き上がった筆者。取材終わりの「ありがとうございました」に、ウニを最初に食べた人への感謝も少し乗せたのでした。

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この記事を書いた人

野口 みな子

QuizKnock編集部で記事の編集をしながら、記事も書きます。記事を通して「知る楽しさ」の入り口を広げていきたいです。インターネットや動物、ポップカルチャーが大好き。大学時代は宇宙物理学を専攻していましたが、星座に詳しくないのが悩みです。名古屋大学の大学院理学研究科卒。

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