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コジマです。

この春アニメになった『ウマ娘』(※)。彼女達は現実と同じサイズの競馬場を自らの脚で走る。アニメの描写だとそんなに違和感はないが、競馬場のトラックの長さは1000m単位。人間サイズに比べるとあまりにも長い。

※『ウマ娘 プリティーダービー』:Cygamesが展開するメディアミックス作品。実在の競走馬の魂をもつ「ウマ娘」がレースで競い合う。2016年からキャラソンCDがリリース。2018年4月にアニメ化。

ウマ娘は人間とは別の(現実のウマに近い)種族らしく、100m走くらいのノリで1000mや2000mを全力疾走する。一方、人間が全速力で走れるのはせいぜい400m、全力で走ったって馬より断然遅い。その辺は種の差、仕方がない。

とはいえ人間だって同じ生物、何とか種を超えて競えないものか。ヒトがサラブレッドに走りで勝つ方法を真剣に考えてみる。

ちなみにウマ娘で好きな楽曲はマルゼンスキー(CV:Lynn)の『禁断Burning Heart』です。

4人寄れば……

人間がひとりで出来ることは小さいが、何人か集まると足し算以上の力を発揮することはよくある。陸上でいえばリレーがまさにそう。

何人かがバトンをゴールまで受け渡すリレー競走では、一般に個人のタイムの合計よりも速いタイムが出る。というのも、個人走だとロスになる加速にかかる時間がバトンパスの技術でカバーできるため。

リレー(上)と個人走(下)の速度変化の違い。バトンパスを上手に行うことでロス(緑色の部分)を小さくできる

2016年のリオデジャネイロ五輪・男子400mリレー決勝のタイムを見てみると、日本チーム(結果は銀メダル)の100m走の個人タイム合計が40.52秒なのに対し、実際の記録は37.60秒と、実に2.92秒を縮めている。

同大会で順位がついた6チームの短縮タイムを平均すると2.70(2.695)秒で、これらが3回のバトンパスによるものだとすれば、1回のバトンパスで0.87(0.865)秒短縮される計算になる。コンマ01秒を争うスプリント競技でこれは大きい。

競馬場を走ったら?

世界トップクラスのスプリンターがリレーで競馬場を走ったらどのくらいの記録になるのか?

JRAの最高峰、日本ダービーは2400mコースで行われるが、100m10秒の陸上選手が24人でこのコースをリレーしたとき、ゴールまでの時間は24×10.0 -23×0.87=220(秒)=3分40秒

さて馬はどのくらい速いのか……と調べると、今年(2018年)のダービー馬はワグネリアンで、タイムは2分23秒6全然勝ってない!

競馬場や競走馬の特性を知る指標として、レースの先頭馬が1ハロン(200m)を通過するのに要する時間(ハロンタイム)が用いられることがある。有志の集計によればハロンタイムはおおむね12秒前後の値をとっているから、100m走換算で6秒。勝てるわけねえ……。

何とかなりませんかね

100mを6秒で走る馬を、10秒弱で人間が追いかけても永遠に追いつかないのは条理。でも何とかしてリレーで勝ちたいんじゃ。

走るために生まれてきたサラブレッドにも弱点はある。瞬発力が高い分、長距離を走れるだけのスタミナには欠けるのだ。天皇賞(春)(3200m、JRAのGIでは最長)のような長距離レースでは、ラストスパートに比べると序盤・中盤のスピードはやや遅く、競走馬といえどずっと全速力とはいかないのが分かる。

人間サイドはリレーなので、人数さえ揃えばスタミナは関係ない。レースの距離を伸ばせば、馬は体力を温存してゆっくり走る一方、人間は全力で走れるので勝負になるかもしれない。

勝てる!

ここで、馬の走り方に着目してみる。競走馬は、レースでは「襲歩(ギャロップ)」という最も速い走り方をする。スピードは出るが体力を消費するので、馬はいつまでもこの走りという訳にはいかない。

襲歩より一段階ギアを落とした走り方を「駈歩(かけあし)」と言って、JRAによると分速340mほどの速さになる。分速340mは1ハロン35.3秒のペースに当たるので、駈歩の馬相手ならば人間は追いつける計算になる。

そこで、競走馬はスタートから一定距離を襲歩で走るが、その後はバテて駈歩で走るという(若干無理がある)問題設定をしてみよう。

G1では世界最長クラスのイギリス・ゴールドカップ(約4000m)を例にとってみる。このレースのタイムはおおむね4分20秒、一方で人間40人がリレーで走ったときの予想タイムは6分6秒(40×10.0-39×0.87)。4000m時点で1分46秒の差がつけられている。

競走馬が4000m地点から駈歩に移行すると仮定すると、馬はそこから1ハロン35.3秒で走るのに対し、人間は引き続き1ハロン18.26秒((10.0-0.87)×2)ペースなので、1ハロンで17.0秒縮めることができる計算になる。1分46秒差をこのペースで追いつくには7ハロンあれば十分(106秒/17.0秒=6.2...)。

よって、人間が競走馬に勝てるレース距離は5400m!(予想タイム:人間8分13秒、馬8分27秒


というわけで、100m10秒の陸上選手54人を集めてリレーすれば競走馬にも勝てる。100万人の夢を背負う競走馬の脚はとてつもなく速いが、人間の脚も捨てたもんじゃない。

参考文献

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この記事を書いた人

コジマ

京都大学大学院情報学研究科卒(2020年3月)※現在、新規の執筆は行っていません/Twitter→@KojimaQK

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