- 前回のあらすじ
- 築地特別ツアーを開催!
- 築地全体の仕組みを学んだ
- ウニの競りを見学
今回のルート
今回のルートは、5番から7番への移動です。前回たどり着いたマグロの競り場で見学した後、仲卸のお店を見学し、東都水産に戻ります。
前回もキーポイントとなった築地用語、最低限以下のものだけは抑えて読むとナイスです。
⑤マグロ競り場を見学
マグロ競りが始まる
いよいよ「大物(おおもの)」を見学に。「大物」とは、築地用語でマグロのことを指しています。
一面マグロ!
開けた倉庫の中には、その呼び名に恥じぬほどのビッグなマグロがゾロリ! 床一面に置かれています。
きらめく魚体と、その間をせわしなく動く競り人たち。あちこちで挨拶が交わされて活気に満ちている一方で、これから競られるマグロのチェックが各所で行われており、賑やかなのに緊張感があるという、異様な空間が広がります。
競りが始まります。競りを仕切る大卸側の競り人がハンドベルをガンガン鳴らすと、スタートの合図。予め付けられた番号の順にマグロが競られていきます。
競り人は対象のマグロの前を移動していき、目の前のマグロについて競りを行います。仲卸は自分のほしいマグロの番になると近くに寄っていき、ハンドサインで値段を伝えるのです。それを、その日出たマグロが全て競られるまで行います。
この競りの仕組みを教えてくれたのが、東都水産株式会社・関本社長。僕達に細かく、優しく説明してくださいました。 大企業のトップである関本社長ですが、競り場での作業着姿は、なんというか「キレがある」感じ。一人の職人といった趣きでした。
ちなみに、競り場でマグロを売る側である大卸側にも、見えない工夫があるのだとか。並べる順番も、よく見える場所にいいマグロを置くなどといったテクニックのもとで細かく決められているそうです。
美味しいマグロの目利き術
大量の冷凍マグロ
続いて、冷凍マグロの競り場へ移動。こちらではカチンコチンに凍らされたマグロが取引されます。ちなみに、マグロの重さは100キロオーバーもザラ。ここで働く人たちの長靴は、足の甲の部分がガチガチに硬い強化長靴です。
ほとんどのマグロは、このように尻尾の部分が輪切りにされて置かれています。これを見るだけで、職人さんはマグロの脂のノリを確認することが出来るのです。
中央は骨、その周りに赤身、皮の近くの白い部分がトロです。この断面を見れば、その個体の脂のノリがパッと分かる、というわけです。 この写真のマグロはあまりトロがありません。この条件だけを見れば、相対的に低い値段がつくことになります。
この職人さんが持っているアイテムは「手鉤(てかぎ)」といいます。これをマグロに引っ掛けて運ぶことができる他、マグロに刺して身を取り、味を確認できます。
見学中、多くの職人さんはマグロを口に運ぶことなく、指先でこねただけで次のマグロを見に行っていました。指の感触だけで脂のノリ具合がわかるそうです。
関本社長によると、このような職人風のやり方でなくても、スーパーで魚を買うときに使える「美味しい魚を見分ける方法」がある、というのです。
それは、
- 目が濁っていないものを買うこと
- 体高(たいこう)が高いものを買うこと
の2つ。 体高とは、魚を横に寝かせたとき、一番太いお腹周りの厚さと、尻尾周りの厚さの差、のように考えてください。 つまり、全体が厚ぼったいものではなく、ボディラインのメリハリがしっかりしている、いわば魚版「ボン・キュッ・ボン」を探せば良いのです。 ぜひ、買い物に行くときは活用してみてください。
⑥仲卸の店舗へ
マグロの競りを一通り見学した一行。4時半に見学を開始して、すでに時間は6時オーバー。 日が出てきたところで、乾物競り場のある建物の上から、築地全体を一望。
市場を屋上から見下ろす。迫力がすごい。
こうしてみると、築地がいかに大都会の中にあるかがわかります。駅舎だった建物部分は、外から見ても荘厳です。 ちなみに、下の方にある白い塊は大量の発泡スチロール。市場内で集められ、市場内の施設でリサイクルされます。 <hr/ > さてさて、息抜きを終えて、いよいよ最終段階、仲卸の店舗群へと潜入します。
場内の仲卸業者さんのお店群
時間は7時前。先程大卸から競り落とした魚が、すぐに仲卸の店舗に並びます。 大量の店舗が所狭しと並び、その間をいろいろな人がせわしなく行きかう大活況。邪魔にならないようあたりに目を配りながら、並んでいる魚の美しさに圧倒されます。
ステーキにしたいほど美しいマグロが、ショーケースの中に鎮座! この他にも、先程競られていたウニの現物(黄金色!)や、ボディが輝いている新鮮な魚達をたくさん目にしました。
そして売られているもので意外だったのが、缶コーヒー! キヨスクのような、雑多なものを売るお店が仲卸の中にあり、そこで働いている職人さんたちが買い物をしているそうです。
⑦シメはやっぱり朝ごはん
さて、一通りの見学を終えた僕達。すっかり日も昇ってきました。 そして、たくさんの美味しそうな魚を見て、断然お腹が減った! そこで、特別に東都水産の社員食堂で朝ごはんをいただくことに。 普通なら絶対に入れない場所です。プレミアム!
当然ながら、築地市場のタイムスケジュールは一般の社会に比べて極めて特殊です。取引のメインとなる時間は日が昇る前。市場での仕事はほぼ午前中に終わってしまいます。 (ちなみに、築地の吉野家は13時閉店!)
それゆえ、食事の時間もイレギュラー。食堂も当然早くから営業し、早くに閉まります。 会社での宴会も、仕事が終わる時間には普通の居酒屋が空いていないので、自分たちでクッキングしつつ食堂で行うことも少なくないのだとか。
では、いただきます! 仕事場が築地であっても、食事はいたって普通のブレックファースト。一仕事(見学)終えた体に白米がうまい!
ということで、僕達の築地見学は盛りだくさんの収穫でもって終わりました。 この取材を通して築地に何度か通い、普段なら見られない仕事現場を見ていく中で、僕は築地に対して愛着を持ちました。 移転に関する諸々の議論はともかくとして、築地から市場がなくなることを単純に寂しいと思います。
でも見学を通して得たもうひとつの愛着は、「市場そのものの魅力」に対してのものです。 多様な職種と人間、そして扱われる魚がせわしなく行きかう取引市場の熱気と、その中にある丁寧な思いは、そうカンタンに失われるヤワなものではない、そう感じました。
築地か、豊洲かという決断は当然必要になってきます。それを決めるときには、「どちらにすれば市場がその価値を保てるのか」という根本原理からスタートする話し合いが求められるべきだ、と今回の見学を通して思いました。