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コジマです。

マーベルコミックのヒーロー、スパイダーマン。手首のウェブ・シューターからクモの糸を放ち、ビル群を自在に飛び回っていく。

スパイダーマンのモチーフとなっているクモは、用途に応じて性質の異なる糸を使い分けているという。特に牽引糸(けんいんし)という命綱や獲物の捕獲に使われる糸は強靭で、鉄鋼より強いとまで言われることもある。

しかしスパイダーマンは(あまりにも当然だが)人間サイズ。小さくて軽いクモとは全く違う。その糸本当に切れない? 大丈夫?

「糸の強さ」は何で測る?

まず、科学的に「糸が強い」とはどういうことなのか確認しておこう。

少しずつ力を加えながら糸を引っ張っていくと(どれだけ伸びにくい素材であろうと)糸は伸びる。当然ながら力を加え続ければどこまでも伸びる訳ではなく、ある長さまで伸びたところで糸の材質が破壊される。これが「切れる」という現象だ。

糸の場合、「伸び率」(何%伸びたか)と「加えた力の大きさ」は比例関係にあり、この比例定数を「引張弾性率」「ヤング率」と呼ぶ。例えば弾性率が100N(ニュートン)の物体を3%伸ばすためには、100N×0.03=3Nの力を加える必要がある。

また、同じ材質の糸であれば、「糸の強さ」は「糸の太さ」に比例する。このことは、糸を2本束ねて引っ張り切るためには2倍の力が要る、と考えれば分かりやすいのではないだろうか。

「弾性率が100N」と書いたが、これは糸が2倍の太さだと200Nに、半分の太さだと50Nに変わる。これでは不便なので、弾性率は「単位断面積あたりの力」で表される。単位はN/m2=Pa(パスカル)。

強い糸=細くても切れない糸

要するに、強い糸なら細くても切れないし、強くない糸で同じ重さを支えるにはその分だけ糸を太くする必要がある、ということ。

では、スパイダーマンがビル街を飛び回るのに十分な糸の太さは、一体どのくらいだろうか? 計算してみよう。

たった4.6mmあればいい!?

クモの中でもオーソドックスな種であるジョロウグモの糸の弾性率は、そのクモの体重によっても差があるがおよそ10GPaだという。また、糸の弾性限界(一旦伸びた糸が元の長さに戻る伸び率の上限)は2.38%。クモの糸を2.38%伸ばす単位面積当たりの力は、10GPa×0.0238=0.238GPa=238N/mm2となる。すなわち、断面積が1mm2の糸を弾性が失われるまで伸ばすためには238Nが必要ということだ。

スパイダーマンは、糸の一端を高いところに貼り付けてブランコのように移動する。この場合、スパイダーマンの位置が最も低くなるタイミングで糸にかかる張力が最大となる。糸とスパイダーマンを振り子とみなし、鉛直方向から角度θだけ高い位置から飛び降りるときの張力の最大値はmg(3-2cosθ)。

θ=90°(ややこしくなるので、途中で糸がたるむことについては考えない)とすると、最大値は5mg。スパイダーマンの体重は公式プロフィールより約81.7kgらしいので、m=81.7kgを代入。5×81.7×9.8=4000Nが、糸にかかる最大の力となる。

先程求めた238N/mm2でこの値を割れば、必要な糸の太さが分かる。4000/238=16.8mm2だから、必要な糸の半径は2.31mm、直径4.62mm!


参考までに、綱引きに使われるロープの太さは3~4cmだという。その8分の1程度の太さでビル街を飛び回っているのか……。

映像をどう見ても、スパイダーマンが放つ糸が直径4.62mmに満たないとは思えない。糸が切れるんじゃないかなんて心配は無用のようだ。

参考文献

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この記事を書いた人

コジマ

京都大学大学院情報学研究科卒(2020年3月)※現在、新規の執筆は行っていません/Twitter→@KojimaQK

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