\ 連載「クイズを味わう」 /
「クイズ」は、物知りな人が解いて答えるだけのもの? いやいや、問題に込められたメッセージや「たくらみ」を見つけるのも、クイズの楽しみ方のひとつ。
毎回1問のクイズを取り上げ、「いいクイズ」「面白いクイズ」の秘密をひもときます。毎週金曜日のお昼に更新予定です!
クイズを作るときには、さまざまなことを考える必要があります。
そのうちのひとつに挙げられるのが「事実関係が正しいクイズを作ること」。当たり前のようですが、とても大切で、とても奥が深いポイントです。
クイズは、問いのかたちに整えさえすれば成立するものです。しかし裏を返せば、たとえ誤った情報であってもクイズとして出題できてしまう、ということでもあります。
クイズ作りにどれだけ慣れている人にとっても、何十問、何百問と作るなかで、そのすべてを100%誤りのない情報で構成するのは非常に難しいことです。慎重な調査と推敲を重ねる必要があり、そこには途轍もない労力が伴います。それだけ、世界に存在する事象は複雑に絡み合っているのです。
今回はそんな前提を踏まえたうえで「正しいクイズを作るということ」について、ある1問を通して考えてみたいと思います。
取り上げるクイズはこちら。

正解は「レフ・ワレサ」です。
1980年代の東欧の歴史を語るうえで、避けては通れない人物です。「世界史の授業で習った」という方もいるのではないでしょうか。

問題文に出てくる『鉄の男』は、ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダがメガホンを取った、1981年公開の映画です(この年、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールも受賞しています)。
そしてこの映画には、当時まさに政府への抗議運動の中心となっていたワレサが本人役でいくつかのシーンに登場します。フィクションのなかに本物の歴史の当事者がさりげなく登場する、という演出です。
12/13(金)「映画監督 アンジェイ・ワイダ」
— 国立映画アーカイブ (@NFAJ_PR) December 10, 2024
14:00
『大理石の男』(監)アンジェイ・ワイダ
18:20
『鉄の男』(監)アンジェイ・ワイダ
※本日正午より電子チケットを発売します。開映後は入場できません。https://t.co/0DooGJYovx pic.twitter.com/AAqSv54g5O
しかし、実はこの問題、はじめはこんなかたちで作ろうとしていました。
「鉄の女」ことマーガレット・サッチャーに対して「鉄の男」と呼ばれた、……
作問のきっかけは、「イギリスの首相を務めたサッチャーが『鉄の女』と呼ばれたのに対して、ワレサは『鉄の男』と呼ばれた」という情報を目にしたこと。
マーガレット・サッチャーとレフ・ワレサ。どちらも1980年代を代表する政治家です。サッチャーの「鉄の女」という異名は非常に有名ですが、この2人が「鉄の女」「鉄の男」と対になる呼ばれ方をしていたという話は初耳でした。
「知っているもの同士が、実は自分の知らないところで繋がっていた」。そんなことを知れた瞬間というのは、すごく胸が踊るものです。早速この情報を元に問題文を書き始めよう……そう思ったところで、ふと我に返りました。
「この情報、本当なんだろうか?」
調べてみます。日本語はもちろん、英語でも。さらに、ワレサはポーランドの人なので、原語のポーランド語の文献も探してみます。
しかし、どれだけ調べても信頼できる出典でそのような記述がなされているものはとうとう見つけられず。作問のきっかけになった情報についてはお蔵入りになりました。
ちなみに、映画『鉄の男』は、同じ監督による別の映画『大理石の男』と対になるタイトルであり、やはり作中に登場するワレサとは関係のない名付けであるようです。
多くの場合、クイズは自分ではない誰かに向けて放たれるものです。そして、クイズに触れた人は、そこに含まれる情報を基本的には正しいものとして受け取ります。
しかし、もしその情報が誤っていたら、クイズに触れた人に何らかの不利益をもたらしてしまうかもしれません。たとえば、勘違いしたまま雑談で間違った知識を広めてしまったり、クイズプレイヤーであれば覚え違いが別の場所での誤答に繋がってしまったり……といったことが起こりえます。
だからこそ、あなたが不幸せになることのないようにという祈りを込めて、ひと手間かけて確かめる。その小さな積み重ねが、めぐりめぐって世界を少しずつよいものにしてくれる、私はそう考えています。
(文・大塚澄佳)
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【画像出典(画像を一部加工しています)】
レフ・ワレサ:Wikimedia Commons Inoue-hiro CC BY 4.0










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