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ゲーム世界の格差、現実世界での格差

ポケモンGOは都市の風景を活性化した。それがさきほどまで言われていたことでした。ここで、わざわざ「都市」と限定されていることが僕はポイントだと思います。

日本でもポケモンGOの配信がスタートしてすぐ、「ポケストップ」と「ジム」の地域格差が問題となりました。この二つ、とりわけ「ポケストップ」はゲームを楽しむために不可欠の要素で、ポケモンをゲットするための「モンスターボール」を手にいれることができる施設です。

pokestop

しかし、日本では人口の密集する都市にはこのポケストップがたくさんあり、プレイヤーはボールをいくらでも獲得することができるにもかかわらず、田舎に住んでいる人はポケストップへのアクセスが極端に悪く、ポケモンをゲットするためのアイテムが枯渇しがちになりました(※「モンスターボール」は、課金することで購入することもできますが、これがなおのこと不公平さを助長してしまいます)。

そもそも、どうしてこんな「ポケストップ」の配分の不平等が生じるのでしょうか。それは、ポケモンGOのマップデータが『Ingress』というソーシャルゲームのデータベースを基にしているところに原因があります。ポケモンGOを運営しているNianticという会社は、もともと運営このゲームの開発・運営を行う会社でした。

細かい説明は省きますが、このIngressというゲームは現実世界をトレースしたマップ上で行う陣取りゲームです。そのゲーム上で二つの勢力が取り合う陣地の役割を果たしているのが「ポータル」というものでした。プレイヤーたちは、現実世界で発見した建造物やモニュメント、何か珍しいものを「ポータル」として申請することができたんです(現在は、新規ポータルの申請は受け付けていないはずですが)。

このような特徴から、Ingressはより純粋なかたちで現実世界の豊かな起伏をプレイヤーたちが探索するゲームとなっていました。彼らが発見した「ポータル」は全世界のプレイヤーがアクセスできるマップ上に登録されていき、各勢力はそのポータルの支配権を争ってゲームをプレイすることになります。

全世界をまたにかけて探索し続けたIngressプレイヤーたちの足跡が、ポータルの膨大なデータベースを形成しました。そして、ポケモンGOがジムやポケストップを配置する際に依拠しているデータが、このIngressのポータルのデータだったんです。

当然のことながら、プレイヤーが多い場所は細かく探索され尽くして、ポータルもたくさん設定されています。それに対して、プレイヤーが少ない地域は、大きな建造物が登録されているのみだったり、そんなふうにして生まれた格差がポケストップにも反映されているのです。

この格差問題、日本では比較的(もともと外国のゲームだったということもあるからでしょうが)都市と田舎の人口比(ないしは若者の分布)だけで説明されがちな気がします。ただ、ポケモンGOがいちばんはじめに配信されたアメリカなんかでは、そう単純に話をつけることができないことが明らかになりました。

『なぜ日本は<メディアミックスする国>なのか』などの著書で知られるマーク・スタインバーグ氏は、このゲームにおける格差がアメリカにおける人種差別や経済格差・貧困の問題を反映していると指摘しています。

幾人かのジャーナリストたちは、この『Ingress』のプレイヤーたちのほとんどが、裕福で白人の多い地域の出身であると推測している。彼らはまた、おそらく田舎ではなく都市部に集中しているのだろう。というのも、自然のなかへ出かけることを旨とするゲームにとっては逆説的なことだが、実際の田舎の土地においては、ポケストップやジムがほとんどないうえに互いに遠く離れて配置されているからである。

そこで行われている環境化(=ポケモン、ポケストップ、ジムを現実世界のマップ上に対応づけること)それ自体が、どれほど不均等な割り当て−−経済的に恵まれた都市部に集中し、所得の低い地域においては乏しい−−を被っているのかをも、『Pokémon GO』は示すことになった。この環境化の格差が、根強い人種差別と残存する経済的な不平等のしるしとなってしまっていること、これが北米における『Pokémon GO』現象において際立っていた要素である。

(『ユリイカ』2017年2月号「ソーシャルゲームの現在」より、マーク・スタインバーグ「『Pokémon Go』の不均衡な発展」)

単なる人口の多い少ないではなくて、経済的な格差と貧困、そして白人とアフリカ系アメリカ人の人種的な分断が、ポケモンGOのマップ上に再現されてしまった。それが、スタインバーグの述べていることです。現実世界においてはっきりと見えるものとして引かれているわけではない経済的な格差の境界線、人種差別の境界線が、ポケモンGOのマップを通して見えてきてしまうのです。

こんなふうに、都市を魅力的なものに変えたゲームが、田舎の厳しい現実をも明確にしてしまうこと、それもポケモンGOの達成してしまったことでした。現実世界での格差が、ゲームの世界での格差にもなってしまったこと、ソーシャルゲームの現在、そして未来を考えるうえでこの問題は大変重要なものだと思います。

この記事で軽く紹介してきたように、最新の技術と結びついて絶大なインパクトを残したポケモンGOには、(ゲーム自体の責任だとは言えないとしても)正の側面と負の側面があります。僕は、それだからこのゲームを批判しようというわけではないです。「ながら」問題に関しても同様です。こうしたゲームの引き起こす数々の現象が、私たちが現実の社会を見つめるための「窓」になっているということだけ、おさえておかなければならないかな、と思います。

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一等兵

一等兵です。日常の風景がより素敵に見えるような「視点」をみなさまに与えられるような記事が書ければいいのですけれど……。

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