連載「伊沢拓司の低倍速プレイリスト」
音楽好きの伊沢拓司が、さまざまな楽曲の「ある一部分」に着目してあれこれ言うエッセイ。倍速視聴が浸透しているいま、あえて“ゆっくり”考察と妄想を広げていきます。
とかく周りが結婚ラッシュだ。お祝いや祝電を送るのにも随分と慣れてしまった。
結婚祝いというのは、価格帯から品物選びまで悩みどころが多い。変数の多さゆえ、最適解を探すと際限がないのだ。
そんな中、自分が導き出した楽ちんメソッドは「青いもの」だった。
西洋の結婚式では、花嫁はなにかしら青いものを身につけると良い、とされている。青という色が、キリスト教世界で純潔の象徴とされているからだ。
▲「サムシングブルー」と呼ばれるおまじない
結婚祝い、となるとちょっと趣旨からズレているが、「まあ式の後も幸せが続けばええやん?」で押し通している。
ベストが無理なら、理由のあるベターを。「決め」の問題だからこそ、ひとつ拠り所があれば踏ん切りがつくのだ。
そんなことを繰り返していたから、敏感すぎるかもしれない。でも、「THE FIRST TAKE」を見ていたら、どうしても気になったのだ。
「『オトナブルー』、ブルーなものが歌詞に入ってなくない?」と。
今回も伊沢は気づいてしまいました
2020年リリースながらTikTokを経由して今年大流行。4人組ダンスヴォーカルユニット「新しい学校のリーダーズ」はその知名度を一気に高めた。和田アキ子『古い日記』を思わせるメロディーと「首振りダンス」は一度見ただけで脳裏を離れない。
懐メロ×ダンス、という構図は、『ロマンスの神様』や『め組のひと』のリバイバルヒットに連なるものだろう。昭和歌謡からトラップベースまで幅広く取り入れる、彼女たちの音楽性だからこそ為せた技だ。カモン、ウチらの時代。
4人の装いも、歌詞のイメージにピッタリだった。アイドルらしからぬロングスカートのセーラー服が、かえって「大人ぶる」というテーマを際立たせている。
各方面が完璧。だからこそ、少しの不在が気になる。
なぜ「ブルー」と謳いつつ、青いモチーフが出てこないのか。
「そうだっけ?」と思ったあなたへ
そもそも歌詞に登場する具体的な物の名前自体が少なく、出てきても「くちびる」など別の色のものだ。
その中でも最も特徴的な単語を選ぶなら、「甘い蜜」と韻を踏んで登場する「アマリリス」だろう。
冷めた瞳まで 魅了する
いつかは花になる アマリリス(はっ)新しい学校のリーダーズ『オトナブルー』
(作詞:新しい学校のリーダー達)
この曲に登場するからには青い花だと思った人、先生怒らないから挙手してください。
……はい。わかりました。
もっとしっかり考えるんだ!!!!!!!
アマリリスは、赤い花なんですよ!!
▲Hippeastrum 'Baby Star' via Wikimedia Commons Bill Murray CC BY 2.0
というより、正確に言うと、ここでのアマリリスの色は「わからない」のだ。
そもそもの問題として、「アマリリス」と呼ばれる花はひとつではない。日本でアマリリスと呼ばれる花は「ヒッペアストルム属(Hippeastrum)」という属に分類されているが、それとは別に「アマリリス属(Amaryllis)」に分類される花がある。名を「ホンアマリリス(Amaryllis belladonna)」という。
※ちなみに、ヒッペアストルム属(Hippeastrum)を「アマリリス属」、アマリリス属(Amaryllis)を「ホンアマリリス属」と呼ぶこともあります。ややこしい。
▲ヒッペアストルム属の花(左)とアマリリス属の花(右) via Wikimedia Commons Bill Murray CC BY 2.0(ヒッペアストルム属),Discott CC BY-SA 3.0(アマリリス属) いずれも画像をトリミングしています
雑なたとえになるが、両者はヒトとオランウータンくらい異なる(どちらも、科は同じだが属が違う)。なのに、どちらも「アマリリス」なのである。
そして、どちらも花の色は赤や白。青ではないのだ。
一応、「アマリリスと名のつく青い花」は存在する。ブラジルに咲く「ブルーアマリリス(Worsleya procera)」だ。なんかいっぱいいるじゃん。アマリリス界で内ゲバが起こりそうである。
▲ブルーアマリリス via Wikimedia Commons Jfrancois88 CC BY-SA 3.0(画像をトリミングしています)
しかし、これはたとえるならチンパンジーくらいの関係性で、一般にはこれを単に「アマリリス」と呼ぶことはない。ボツである。ブラジルの人、聞こえてたらごめんなさい。
『オトナブルー』、全体的に赤かった
では、なぜ青くないのに「アマリリス」が出てくるのか。
実は、この曲のMVにはチェリーやワインなど、「赤いもの」が多く登場する。先述の「くちびる」も含め、赤の大軍勢。青軍は四面楚歌だ。
となると、赤いアマリリスもこの一団に数えられるだろう。白いアマリリスも、まあ朱に交わればなんとやらである。押韻と配色、両面からも「アマリリス」というチョイスは自然なものだと言えるはずだ。
しかし、疑問がまた疑問を呼ぶ。なぜ、タイトルと裏腹に「赤」ばかりが用いられているのだろうか?