監修:中央大学 文学部心理学専攻 髙瀨堅吉教授
こんにちは! キャラメルポップコーンの匂いがすると、真っ先にディズニーランドのことを思い出すライターの胡桃です。
子どもの頃、ディズニーに行くといつも真っ先にポップコーンを買いに行き、持って行ったバケットにたくさん入れてもらっていました。そのため、ポップコーンの匂いを嗅ぐと、当時のわくわくした気持ちを思い出してしまいます。
皆さんも、何かの匂いから出来事を思い出すことはありますか? 線香の匂いから田舎のおじいちゃんとおばあちゃんの家でのひとときを思い出したり、瑛人の『香水』の歌詞に登場する「ドルチェ&ガッバーナ」のように、匂いで記憶が甦ったりする人もいるのではないでしょうか。
▲香水のアレです
でも、匂いだけでその場面の映像や音まで思い出してしまうのはなぜなのでしょうか? 実は嗅覚と記憶は密接に関わっているのです。この現象は、神経科学的に説明することができます。さっそく見ていきましょう。
匂いから記憶が甦る現象には名前があった!
匂いによって記憶が思い起こされる現象は、「プルースト現象」と呼ばれています。
プルースト現象とは、ある匂いとの遭遇をきっかけに、その匂いと結びついた過去の出来事が、あたかもそれを追体験しているかのように思い出される現象のことです。
「プルースト」という名前は、フランスの作家マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』の中の一節に由来しています。作中で主人公の幼いころの記憶がマドレーヌの匂いによって甦るシーンが象徴的に描かれていることから、この名で呼ばれるようになりました。
その現象が小説の中だけの話ではなく、実際にも起こりうる現象であるということが、長年の研究によって示されています。
では、この現象が起こるとき、脳はどんなはたらきをしているのでしょうか?
匂いを嗅いだ時、脳では何が起こっている?
匂い物質が鼻の中に入ると、鼻の内側上部にある細胞がそれを感知し、神経が興奮します。その興奮が脳に伝わっていくのですが、ここで2つの重要な伝達先があります。
伝達先のひとつが、「扁桃体」という脳の領域です。扁桃体は感情に関わる脳領域だといわれています。また、もうひとつの伝達先が、記憶に関わる「海馬」という脳の領域です。
つまり、感情と記憶を司る脳領域に匂いによる刺激の情報が伝わるので、そのときの感情の動きとともにその場面が記憶として蓄積されやすくなっています。また、再びその匂いを嗅いだ時にも、当時の情景を思い出しやすいのです。
匂いで記憶力アップ?
嗅覚と記憶が密接に関わっているのであれば、記憶力アップのために匂いを活用することもできるのではないでしょうか?
実は、何かものを覚える時と思い出す時の匂いを一致させると、覚えたことをよりよく思い出せるという研究結果もあります。例えば、アロマを焚きながら暗記をし、それと同じ匂いをしみこませたハンカチやティッシュなどから香りを感じながらテストを受ければ、成績アップが期待できるのです。
これは朗報すぎますね! ただし、他の人の迷惑にならない程度の匂いにしましょう!
皆さんの「プルースト現象」も教えてください!
ポップコーンの香りからディズニーのわくわくした気持ちを思い出したり、「ドルチェ&ガッバーナ」の香水の匂いで楽しかったあの頃を思い出して、切ない気持ちになってしまったりするのは、人間の脳のはたらきによるものです。
皆さんはどんな匂いを嗅ぐと何を思い出しますか? ぜひ「#QK私のプルースト現象」でシェアして教えてください!
〈参考文献〉
- Parker, A., Ngu, H., & Cassaday, H. J. (2001). Odour and Proustian memory: Reduction of context-dependent forgetting and multiple forms of memory. Applied Cognitive Psychology, 15(2), 159–171.
- 山本 晃輔(2015).嗅覚と自伝的記憶に関する研究の展望――想起過程の再考を中心として―― 心理学評論,58, 423–450.
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