石破茂首相の後任を選ぶ「自民党総裁選挙」が始まり、5人の候補がしのぎを削っている。
【ライブ中継】自民党総裁選の共同記者会見 告示翌日、5人の訴えは https://t.co/Pn5yn66zEr
— 朝日新聞(asahi shimbun) (@asahi) September 23, 2025
自民党総裁選(9月22日告示、10月4日投開票)に立候補した5人の共同記者会見が、23日午前10時から党本部で開かれます。ライブ中継でお伝えします。
連日テレビやネットで報道されているので、ご存じの方も多いだろう。しかし衆議院や参議院の選挙とは違い、私たち国民全員に投票権があるわけではないので、何が重要なのかいまひとつ実感が湧いていない方もいるかもしれない。
この総裁選、実は「ルール」の異なる3つのステージをクリアしていく、たとえていうなら「SASUKE」のような戦いなのだ。ニュースを見るのがグッと面白くなるだろうポイントを、10月4日の投開票前にご紹介しておきたい。
第1ステージ「推薦人の確保」
まずもって総裁選は、「出たいから出ます!」では出られない。出馬のためには、党所属の国会議員の中から「20人の推薦人」を確保する必要がある。

この推薦人の一覧は公開されるため、どの議員が誰を推薦したのか、全てわかってしまう。「こっそりあなたを支援します!」みたいな真似はできないということだ。
「推薦人になる」という重い決断
メディアでは「〇〇候補の推薦人は以下の20人です」と機械的に報道されることもあるが、実情はそんなに気楽なものではない。
政治の世界では、時にルールや論理よりも“義理人情”で事が運ぶといわれる。誰かの推薦人になるということは、同じ船に乗って戦う意思を示す……すなわち、政治生命をその候補に懸けることでもある。
自分が推薦した候補者が勝てば、大臣や自民党役員(幹事長など)といった要職が回ってくることもある。逆に負ければ「敗軍の将」に名前を貸したことになり、その後の出世に大きく響く可能性さえあるのだ。まさに「勝てば官軍、負ければ賊軍」の世界といえる。
第2ステージ「1回目の投票」
推薦人が集まったら、次なる目標は投票で過半数をとること。街頭演説や討論会を通じて、自分に一票を投じてもらうよう働きかける。

当日の総裁選挙に投票できるのは、以下の2種類の人々だ。
①自民党所属の国会議員 (295票)
自民党に所属する全ての衆議院議員・参議院議員には、平等に1票ずつが与えられている。
②全国の自民党党員 (295票)
自民党の支援者の中には年額4,000円の党費を払って、「自民党員」として地域の活動に取り組んでいる一般人が91万人余りいる。この人々にはそのまま90万票の権利があるわけではなく、国会議員票と同じ「295票」が投票割合に応じて各候補に振り分けられる。※1
ごく簡単に言ってしまえば、合計590票のうち、
過半数の「295票」を集めれば、自民党総裁(=事実上の次期首相)になれる!!
ということだ。
※1 総裁選挙の前2年、継続して党費を納めた党員に総裁選挙の投票権が与えられる。
第3ステージ「決選投票」
しかし今回のように候補が5人もいると、1回の投票で過半数を獲得できる候補はまず現れないとみてよい。※2
そこで発動されるのが、上位2名による第3ラウンド「決選投票」だ。ここで勝った方が、最終的な勝者となる。

すなわち、1回目は1位になれなくても、2位に入れば勝てるかもしれないということだ。前回・2024年の総裁選でも過半数に達する候補が出ず、決選投票の結果、1回目の投票で2位だった石破茂氏が

なぜ決選投票で「逆転」が起こるのか。前回の石破氏の例をもとに見ていこう。
※2 自民党には長らく「派閥」というグループが存在し、総裁選も各派閥の会長が候補者を一本化した上で出馬の準備を進めるのが通例だった。しかしいわゆる「裏金問題」を受けて派閥がほぼ解体されたことで、2024年の総裁選以降は、他候補やボスの意向によらず名乗りを上げるような空気が生まれている。
1回目の投票とは「別のゲーム」
ポイントとなるのが、1回目の投票よりも国会議員の割合が大きく増えることだ。
295票あった党員票は、決選投票では各都道府県の党員代表者による47票まで減少する。候補者から見れば、不確定要素ともいえる一般党員の票が減り、ある種「コントロールしやすい」国会議員票の割合が増えることになる。1回目の投票とは全く別のゲームということだ。

前回の石破氏も1回目の議員票は46票に留まったものの、決選投票で高市氏(173票)を上回る189票まで伸ばし、勝敗を決した(当時の議員票総数は368)。
持ちつ持たれつの「密約」
ここで有力候補が考えることは何か。候補者間の「密約」である。
総裁選直前になると、どの議員がどの候補に投票するか情報が集まり、開票結果の大方は想像がつくことになる。そこで2位以内に入れそうな候補は、3位以下の候補者とその支援者に
……という約束を取り付けることがあるのだ。これがうまく運べば、2位だった候補が「連合軍」で1位の候補を逆転できる。
とはいえ、やはり義理人情がモノを言う政界。当選者は、票を貸してくれた候補に見返りを準備しなくてはならない。見返り、すなわち閣僚のポストや、党内の要職だ。
前回の総裁選では、1回目で敗退した小泉進次郎氏(と支援者)が石破氏の支持に回り、これが逆転の要因のひとつになったといわれている。果たして石破氏は首相就任後、小泉氏に選挙対策委員長という党役員の職を用意した。※3
※3 なお2024年10月に行われた衆議院選挙の結果を受け、小泉氏は就任からひと月で選挙対策委員長を辞任している。
決め手になるか「最後の訴え」
加えて、決選投票前に行われる演説の出来栄えも鍵を握る。
昨年の石破氏は、しばしば時の政権に批判的な立場をとってきた過去について「心からお詫びを申し上げる」と謝罪し、「日本国のために全身全霊を尽くしていく」と決意をにじませた。この真摯なスピーチが決め手となり、石破氏への投票を決めた議員もいたという。
まとめると、総裁選の候補者が考えるべきことは以下の通りだ。
1回目の投票は……
上位2枠に滑り込めるようにする。
決選投票は……
1対1の勝負を制するために死力を尽くす。
「ポスト石破」は誰の手に? 白熱の総裁選
今回の総裁選でも、有力候補たちは「決選投票」を見据え、2回の投票に向けた戦略を練っていることだろう。ここからはいよいよ、現在進行中の総裁選の展望を見ていく。