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「かゆみ」にも種類がある

引っ掻きが病態を悪化させる原因のひとつであるならば、逆に言えばかゆみを抑えられれば引っ掻きも抑えられるので、皮膚炎に対してある程度の治療効果が期待できます。

かゆみ止めといえば、抗アレルギー薬である抗ヒスタミン薬が有名かと思います。蕁麻疹によるかゆみは抗ヒスタミン薬がよく効きます。しかし、アトピー性皮膚炎をはじめとした多くのかゆみの疾患に対しては、この抗ヒスタミン薬は効きづらいという現状があります。なぜならかゆみにはいくつかのタイプがあり、かゆみの疾患はヒスタミン以外の種類のかゆみが主役となっていることが多いからです。

▲アトピー性皮膚炎ではヒスタミン以外の様々なタイプのかゆみがC線維を介する

かゆみに対する創薬の課題

「じゃあ、かゆみのタイプの数だけ薬を創ればいいんじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。しかし、実は神経(C線維を含む)に作用しかゆみ自体を直接止める薬というのは、抗ヒスタミン薬を含めたった数種類しか承認されていません。

アトピー性皮膚炎では10種類以上のタイプのかゆみが関与していると言われています。そのため、タイプの数だけ薬を創るのは大変非効率です。そもそも、創薬研究というのは10年以上の時間と数百億円以上の莫大な費用がかかるため製薬会社も気軽には開発に乗り出せないのです。

また、かゆみの疾患はがんなどに比べ死に直結するわけではないこともまた、開発が遅れている原因のひとつです。簡単にいうと、創薬研究開発の優先順位が低いと考えられているわけです。

たしかに、かゆみによって直接死が引き起こされることはないでしょう。しかし、時には精神的に死へと追いやるほどかゆみは本当に苦しいものなのです。

夜はかゆくて眠れず、朝は寝ながら引っ掻いたであろう傷からの出血で痛み、生きることに希望をもてなくなってしまう患者さんが本当に多いのです。そしてこの事実と治療薬が開発途上であるこの現状とのギャップこそが、私を突き動かす研究のモチベーションでした。

私の研究内容

このように、かゆみに対する創薬には様々なハードルがあります。そんな中、私が着目していたのは、「脊髄でかゆみを止める薬」です。

かゆみには様々なタイプがあるとはいうものの、そこには共通のメカニズムがあります。近年の研究により、皮膚で発生した様々なタイプのかゆみは脊髄では一部「共通の経路」を介して脳に辿りつくことがわかってきました。

つまり、その「共通の経路」を標的とすればタイプの違う様々なかゆみを全て抑えられる薬ができるのではないかと考えました。

▲かゆみタイプA-Eそれぞれの経路をたどり、脊髄の経路Gに統合される

そこで既存の薬の中で、その「共通の経路」を標的にする可能性のあるものに着目し、実際にアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いて痒みによるマウスの掻き動作を抑制することを報告しました。この薬の存在が広く認知されればいいなと、著者として願っています。

さいごに

私たちの分野では、「かゆみは痛みと同等かまたはそれ以上につらい」ということは常識です。しかし、今でも多くの人は「かゆみは痛みの弱いバージョンである」と思っているでしょう。研究者の中でも、かゆみの研究者でなければ知っている人は少ないです。なぜならかゆみの疾患にならない限りは、かゆみのつらさは分からないからです。この記事を読んでくださった人々にはこの事実だけでも覚えて帰ってほしいです。

また、こんなに私たちに身近な感覚であるにも関わず、かゆみについて理解されていないことがたくさんあります。なぜかゆみはピンポイントで感じるのか、なぜかゆみには引っ掻きが伴うのか。そもそもかゆみは本当に生体防御機構であるのか。これらが解明されれば、最高のかゆみ治療薬の開発に近づくかもしれません。これから大学・大学院にいくみなさんが、かゆみの研究に興味をもってくれたら私も非常に嬉しいです。

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この記事を書いた人

まちょ

博士後期課程のまちょです。専門は薬学です。薬学は生物・物理・化学すべてを網羅する学問ですが、分かりやすくかつ興味をもってもらえるような記事を書きたいです!

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