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「パイナポ」とは何なのか

まずは、パイナップルのことをよく知るところからである。意外と「おいしい」で止まっちゃう果物であろう。

パイナップルは「様々な栄養を含む」と説明されることが多い。具体的にはビタミンB1やビタミンC、カリウム、食物繊維などだ。

確かに様々な栄養を含んでいるのだが……ここには落とし穴がある。パイナップルには、この栄養に特化している、と言えるような際立った部分がないのだ。だいたいがキウイの下位互換なのである。キウイすげえ

唯一、マンガンの含有量が群を抜いて多いのだが、マンガンは通常の食生活で不足することはまずないらしい。パイナップルの出番はない。摂るに越したことはないけど、なくてもいい、果物界のモブキャラに甘んじていると言えよう。

とはいえ、モブキャラにも個性はある。栄養成分ではないが、ブロメラインという酵素がお肉を柔らかくしてくれるのだ。酢豚にパイナップルをいれる理由のひとつである。お肉に対する名脇役だと言えよう。

さらに、土壌の栄養価にあまり左右されず育つ、という特長もある。栄養を葉からも多く取り込むため、比較的痩せた土地や乾燥した土地でも行きていけるのだ。土地を選ばないタフネス、かっこいい。

▲「これぞ番長」感のあるバンカラスタイル

モブキャラ、脇役、土地を選ばない……カッコいいんだけど、どれも「番長」にはふさわしくない要素であろう。番長はいつだって主役か敵役だし、番長はやはり土着でないとしょうがない。縄張りを守ってこそ番長だ。

そもそも、「そこそこ栄養があるから憧れる」「お肉を柔らかくするから憧れる」なんて地味なことを、オシャレ番長が思うはずもない。もっとストレートな魅力にこそ、番長は憧れるものだろう。畑違いも甚だしい。性質面でのパイナップルは、番長の眼中にはないのである。

パイナポ、ルックス説

となると、やはりオシャレのキモであるルックスに注目すべきだ。

パイナップルのルックスは、面長ツンツン頭。なかなか特徴的である。派手なのは間違いないし、オシャレとの親和性も高そうだ。

実際、パイナップルヘアーという髪型がある。しかも2つある。同名で別の髪型を指しているのだ。

ひとつは、頭頂部で束ねたロングの髪を全方向に垂らすようなヘアアレンジだ。ドラクエ6のバーバラ……が私にはしっくり来るのだがどうだろう。もうひとつは、頭頂部を残して髪を剃り、頭頂部はバサバサっと無造作に広がっているような、ワイルドなスタイルだ。人造人間16号のやつである。ドラゴンボールは全世代向けだよねきっと。

たしかにどちらも間違いなく「オシャレ」に分類されるであろう。ハードルが高い分、髪型へのこだわりを感じさせるアレンジだ。

それでも疑義が残るとしたら、MV内の描写であろう。この曲のMVには「おしゃれ番長」らしき外国人男性と、おしゃれ番長らしき人が憧れる「上位存在」としての女子高生が登場するのだが、これがパイナップルヘアーではないのだ。

忽那汐里くつなしおり演じるその女子高生の髪型は、ロングヘアーを細く束ねたポニーテイル。番長にとってのあこがれはきっと彼女なのだが、髪型については矛盾が生じている。

当の番長が現在のところパイナップルヘアーである可能性ももちろんあるのだが、テンガロンハットを被っていて髪を見せていないので、こだわりを読み取ることは不可能だ。当然ツンツン系パイナップルヘアーではないし、帽子からこぼれる髪を見る限りは剃り込みもしていない。つまりは、どう見てもパイナップルヘアーには憧れていなさそうなスタイルなのである。

もちろん心の内では憧れているのかもしれない……が、そういうのは態度に出していかないといつまでも前に進めないものだ。こちらに伝わってこないなら、彼の主張はないも同然。憧れを形にしていくための努力をしてくれたまえ

PVに出演しているおしゃれ番長は確かにオシャレにこだわっており、ギラギラのネクタイにテンガロン、柄物のジレを合わせるスタイルはさながら課金したウッディのよう。ただただ唯一、髪型だけがこだわりなさそうなのである。残念、オシャレ道は険しい。

ということで、髪型の線も薄そうだ。髪だけに。

「番長」の意味を探る

歌詞やPVから辿れる妥当な線は、早くも尽きてしまった。こうなったら、原点回帰、語義から確かめていくしかない。

「おしゃれ」はいいとして、やはり今回は「番長」が大切である。

番長という言葉はもっぱら「不良の長」的な認識をされているが、辞書を引いてみると、もうひとつ別の語義を持つことがわかった。

1. 律令制で、諸衛府の下級幹部職員。上﨟の随身。

2.中学・高校生などの非行少年グループのリーダー。「番長を張る」

引用:デジタル大辞泉

そう、律令制下において「番長」はれっきとした役職であったのだ。ツッパってる場合ではない、体制側についた中間管理職である。

もし、ここで歌われるのがこの律令の番長だとしたら。話は大きく変わってくるだろう。

すなわち、律令制下において番長が憧れたパイナポとは、非時香菓のことなのではなかろうか。

本当に律令時代の話で大丈夫ですか?

ひとつひとつ説明しよう。非時香菓と書いて、ときじくのかぐのこのみ、と読む。『古事記』や『日本書紀』に登場する、古式ゆかしいフルーツだ。

実在が疑われることもある天皇であるところの垂仁すいにん天皇は、その99年間(!)という治世の晩年にあって、部下である田道間守たじまもりに命じて、常世の国にあるという非時香菓を探しに行かせた。困難な旅の末に実を入手して帰った田道間守だったが、戻ってみると垂仁天皇はすでに亡くなっていたという。


▲3世紀後半から4世紀前半を治めたとされる垂仁天皇

つまり、非時香菓は永遠の命にも通じそうな、大変貴重な果実なのだ。当然ながらみんな欲しいものである。

律令の世に書かれた『古事記』や『日本書紀』が、非時香菓を素晴らしいものとして描いたことで、それを読んだ番長たちはこの果実に憧れたことだろう。そして、非時香菓を当時から知っていたような番長は、ハイソでインテリ、オシャレである。弾正だんじょう(当時のポリスメン)も、思わずその知性にハニカんだことだろう。

いつも黄金に輝く木の実」それは……

非時香菓が生えていた「常世の国」は、海の彼方にあるとされる、日本神話の理想郷である。南米原産であり、コロンブスによる新大陸発見とともに脚光を浴びたパイナップルは、割とまあ、常世の国のものだと言えよう。

そして、この実は「時を定めずいつも黄金に輝く木の実」と解釈されているのだが、(出典:世界大百科事典)……パイナップルは、暑い地域で一年中作られるので旬はないし、当然ながら黄金に輝いているのだ。

情報が少ないとはいえ、非時香菓の特長はどれもパイナップルに当てはまりすぎているのである。

なお、日本書紀には「非時香菓は、今で言うたちばなである」と書かれている。柑橘も、確かにこれらの特徴に当てはまるだろう。

しかし、この見解はあくまで日本書紀を書いた者の見解であり、後世の研究者からは疑義が呈されている。そもそも橘だと不老不死にはならないし、橘で不老不死になるんだったら食べりゃいいじゃん、というツッコミも入るだろう。いやパイナポもそうだけども

要は、非時香菓はある程度イマジナリーな果物であり、特定のなにかだと決めつけるに足る証拠はない、ということである。

……じゃあさ、パイナポでも良くない? イメージ優先の解釈として。番長のあこがれは、実は普通に果物のパイナップルだった……そうも考えられなくもない気がする。てかなんか楽しい

わかっている、この時代の日本に、パイナップルなど概念すら来訪していないことは。なんなら品種改良が行われる前のことだろうから、当時(そもそもいつ?)のパイナップルが今のような黄金色だったのかも不明だ。

でも、律令の世にパイナポなんて、かなりツボじゃない?

オシャレは解釈次第、知識には解釈の余地はないが……夢を見るのは自由なのだ。自分の気持ちを高めるために、オシャレな妄想を心に抱えておくことは、楽しい生き様としてかなりツボである。


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この記事を書いた人

伊沢拓司

QuizKnockCEO、発起人/東大経済学部卒、大学院中退。「クイズで知った面白い事」「クイズで出会った面白い人」をもっと広げたい! と思いスタートしました。高校生クイズ2連覇という肩書で、有難いことにテレビ等への出演機会を頂いてます。記事は「丁寧でカルトだが親しめる」が目標です。

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