連載「伊沢拓司の低倍速プレイリスト」
音楽好きの伊沢拓司が、さまざまな楽曲の「ある一部分」に着目してあれこれ言うエッセイ。倍速視聴が浸透しているいま、あえて“ゆっくり”考察と妄想を広げていきます。
オシャレの名を借りたエゴが、私を気持ちよくさせてきた。
センスの欠片もなかった中学生の頃でも、好きな格好を通すことは心地よかった。学校の制服を着崩すことはささやかな権威への反抗であり、自分を少しだけ大きく思い込ませてくれるツールだった。冬でもノースリーブのスポーツウェアで登校していた自分が、今もスーツを着ない仕事を選んでいるのは、ごく自然なことなのか、大人になりきれていないだけか。
ファッションは自分のみのためにも存在しうるが、他人から「オシャレ」と認められることもまた、格別に嬉しいことである。
おしゃれ番長の「あこがれ」は
オシャレな人が、他ならぬ「おしゃれ番長」という特殊な名で呼ばれるのは、「公式な認定があるわけではなく、集団の中のなんとなくの同意によって命名される」要素がオシャレと番長に共通しているからではないかと思う。
不良漫画よろしく番長決定トーナメントが行われることはおそらく稀で、実力がみんなから認知されたり、そうした認知に対して先代の番長から正式な認可が下りたりすることで自然と番長は生まれるはずだ。システムはオシャレと同じである。
同意によって決まる番長なのだから、同意が崩れれば当然ながらその地位を追われることとなる。ORANGE RANGE『おしゃれ番長 feat.ソイソース』のPVでは、そんなおしゃれ番長がまさしく「追われる」様を描いた世にも不思議なものに仕上がっている。
……というか、本当に「追われる」様なのかは、いまいち確証が持てない。MVなどを勘案して、おそらくそうであろう……くらいの理解に留まってしまう。それくらいに歌詞が不思議なのだ。確実に分かるのは、おしゃれ番長の楽しくも厳しい生き様くらい。その情報もひどく断片的だ。
その断片を書き並べるならば、オシャレ番長は、格下を懲らしめ、カリスマと恋をし、ドバイでヤバギマリし、パイナポにあこがれている。大忙しですね。
……パイナポにあこがれている?
オシャレバンチョウ 格下をコラシメル
オシャレバンチョウ カリスマと恋してる
ブログ炎上 ドバイ DE ヤバギマリ
SEXY 美脚を振り上げて 朝も夜も カツマタ半ズボン
オシャレバンチョー カナリつぼ ハニカミポリスメン あこがれパイナポ
オシャレバンチョー カナリつぼ ハニカミポリスメン あこがれパイナポORANGE RANGE『おしゃれ番長 feat.ソイソース』(作詞:ORANGE RANGE)
パイナポは、おそらくパイナップルのことだ。発音も流石にオシャレである。
しかしまた、なんでパイナポに憧れるのであろう。もっとこう、菜々緒さんとか、憧れるべきオシャレがいるだろうに、よりにもよってファーストチョイスがパイナップルなのはなぜなのか。
もしかしたら、ここにオシャレになるためのヒントがあるかもしれない。年中半袖ボーイとしては、ぜひとも何かを学び取りたいものだ。オシャレの深淵へと迫る探求を、パイナポから始めよう。