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最強の『燃えよドラゴンズ!』を考えよう

そもそも、初代『燃えよドラゴンズ!』が誕生したのは1974年。それ以降、一貫してシンガーソングライターの山本正之先生によって歌詞が書かれている。その年に活躍が期待される選手を山本先生が独自に選出しているため、現実のメンバーとは多少の乖離があるものの、概ねその年の主力が持ち味を活かし大活躍する内容である。

注目すべきは、その歌詞の一貫性である。

一番打者の出塁、二番打者はバントかヒットエンドラン、三番はタイムリーヒット、四番はホームランという不変の流れが、おおよそ初期から定番化しているのだ。特に、先に挙げた荒木、井端、福留、ウッズという流れは強かった中日打線の強烈なイメージとともに野球ファンの脳裏に刻まれており、実家のような安心感と恐怖感を思い起こさせる。

 

そんな一貫性が大きく崩れたのが、2022年の最新版『燃えよドラゴンズ!希望の果てに』であった。

なにせ最新版では、二番打者である岡林勇希が、バントでもヒットエンドランでもない打撃を披露しているのだ。「二番 続けよ 岡林」である。

一番 大島 塁に出て 二番 続けよ 岡林
三番 ビシエド タイムリー 四番 石川昂(たかや)がホームラン
いいぞがんばれドラゴンズ 燃えよドラゴンズ!

『燃えよドラゴンズ!希望の果てに』(作詞:山本正之)

これはほぼ初の「ノーアウト1、2塁」という状況を作ったバージョンである。歴代最高の、攻撃的な歌詞だと言えよう。

これは、「おかばやし」という文字数が従来の歌詞にマッチしなかったゆえの改変なのだが……なんとこれが、現代の野球理論にも合致しているのだ。

というのも、日本プロ野球においては「送りバント」という攻撃手段自体が減ってきているのだ。

二番打者から見える戦略の変遷

バント減少の理由についてはこちらの記事に詳しいが、日本プロ野球においては「バント」という戦術自体、試みられる回数が減っている。

▲プロ野球で「送りバント」が減っている(写真はイメージ)

特に、「バントを決めるポジション」としてステレオタイプ化している二番打者については、バントを試みる回数が目に見えて減少しているのだ(これまでが高すぎた、ということもあるが)。

あの大谷翔平がたびたび二番打者を務めているように、近年の野球理論においては二番が「強打者」のポジションとなっている。小技師としてのイメージはメジャーでは一掃されており、日本プロ野球はそこまでではないにせよ以前とは異なる二番打者像が浸透しつつあるのだ。

 

驚くべきことに、『燃えドラ』はそうしたトレンドを先取りしている

なんと、『燃えよドラゴンズ!』では88年以降、二番打者にはバントではなく「ヒットエンドラン」を指示することが多くなっているのだ。バントとは違い、ヒットを狙いつつ最低でもランナーを先に進めるという、より攻撃的な選択である。

90年代後半に二番を務めていた久慈照嘉に対しては「送りバント」の指示が出ていたものの、それ以外は基本的に「ヒットエンドラン」。立浪和義や井端弘和といった、打率を残せる優秀な二番打者に恵まれていたことも一因にあるだろうが、結果としてドラゴンズが野球理論を30年分先取りしていたと言っても語弊はないだろう。ないはずだ。ないかもしれない。

▲ランナーの進塁を助け、ヒットを狙う(写真はイメージ)

その上での「続けよ岡林」である。積極的な歌詞は、あの中日がいよいよ二番打者最強理論を全面に押し出した帰結であろう。

そして、この采配が大当たり。岡林は歌詞発表直後の2022年、リーグ最多安打を達成したのだ。今年は惜しくも1本足りず最多安打を逃したが、球界を代表するヒットメーカーになったのは間違いない。『燃えよドラゴンズ!』は、理論の先取りだけにとどまらず、未来も予見していたのである。

中日ドラゴンズ、恐るべし。「同じようなパターン」が時代を先取りしすぎていたがために、私はとんだ勘違いをしていたのだ。『燃えよドラゴンズ!』は、つねに未来を見据えていたのである。

2023年版の『燃えよドラゴンズ!』はこれだ

……しかし、欲を言うのであれば、だが。2023年の岡林は、二番打者というよりは圧倒的に一番打者であった。83試合で一番打者、二番に座ったのは45試合である。

二番を務めた回数は、2022年版で一番打者として紹介されていた大島が最多であった。大島が近年バントを試みることは少なく、ヒットエンドランのほうがイメージにマッチするだろう。ここはアップデートしておきたい部分である。

そして、出場数に従うならば、三番は今年DeNAから移籍してきた細川成也、四番は期待のスラッガー石川昂弥になる。細川は打点チーム一位、石川は長打力がウリ。『燃えよドラゴンズ!』にぴったりな2人だと言えよう。

そのあたりを踏まえ、『燃えよドラゴンズ!』を2023年度版へとアップデートしていきたい。先見性とリアリティを両立した結果、以下のような形が良いはずだ。

 

「一番 岡林 塁に出て 二番 大島 ヒットエンドラン
三番 細川 タイムリー 四番 石川 ホームラン
いいぞがんばれドラゴンズ 燃えよドラゴンズ!」

 

大島にヒットエンドランを命じることで野球理論上は若干の退行が見られるが、概ねリアルな出来である。「いちばんおかばやし」のところをキュキュキュっと早口で歌うのがコツだ。

実際、今年8月8日の対DeNA戦では、あわやこの歌詞達成か?という攻撃が行われている。一番から三番までは歌詞の通り、四番石川の当たりはフェンス直撃、あとちょっとでホームランの二塁打となった。

まさにこれが、今年の『燃えよドラゴンズ!』なのである!!

 

いや、待ってくれ。改めて現実を見つめたい。今年、中日は最下位だったのである。

応援をする上で、これで良いのだろうか。現実をトレースしただけでは、勝てる歌詞にはならない。勝ちにこだわるならば、なにかを改善しないわけにはいかないだろう。

『燃えドラ』の先見性を、今こそ最大限に発揮するときである。最新の野球理論を活用し、中日がするべきプレーを先取りしていく。これこそが、『燃えドラ』が果たすべき使命であろう。

勝たせる応援歌を、最新の理論でもって構築していきたい。

データサイエンスで考える最強の『燃えよドラゴンズ!』

ここ10年、野球に関する理論はデータサイエンスの力で大幅に進化を遂げた。

野球のデータを統計的に分析する「セイバーメトリクス」という手法が浸透しつつある。

そうしたセイバーメトリクスが導き出した推論のひとつが先に述べた「二番打者最強論」だ。データをもとに、バントの効果やヒットの価値などを定量化したのである。

そして、セイバーメトリクスは二番打者以外にも、各打順の役割を再定義してきた。その理論を要約するならば、『燃えよドラゴンズ!』改造に必要な各打者のプロフィールは以下の通りとなる。

一番 出塁率が大切。足の速さも大事だが出塁率がかなり重視される。
二番 チーム最強打者。総合力の高さが求められる。
三番 ツーアウトで回ってくることも多いため、重要度は相対的に低い。チーム内で実力が4〜5位の選手を配置する。
四番 もっとも長打力のある打者。飛ばせることが大事。

 

これは、だいぶ話が変わってくる。

まず一番打者だが、セイバーメトリクスで選ぶとキャッチャーの宇佐見真吾になる。ももいろクローバーZ・高城れにの夫でもある宇佐見だが、キャッチャーで一番打者というのはなかなか珍しい。しかし、そうした常識を破壊し、効率を重視するのがセイバーメトリクスだ。チームいちの出塁率を誇るのは彼なので、大抜擢しよう。

二番は最強打者・細川。ホームランバッターでもあるので、ここでいきなり大仕事に期待だ。

三番打者が難しいが、岡林、大島、石川の中では大島が適任か。より重要とされる五番打者には成績の良い岡林を配置したいので、自然と大島がファーストチョイスになるだろう。前のランナーはホームランによって一掃されているため、タイムリーでもエンドランでもなくヒットを打つしかない。

そして四番は長打力のある石川が適任だ。ここは元の歌詞通り。さすが『燃えドラ』、当てるところは当ててきている。

 

さあ、これで歌詞は完成だ。セイバーメトリクスのもとに蘇った新生ドラゴンズ、出陣である。

期待するプレーを歌詞に込め、『燃えよドラゴンズ!セイバーメトリクスによる定量的な分析の下に』を高らかに歌い上げよう!

 

 

「一番 宇佐見が 塁に出て 二番 細川 ホームラン
三番 大島 塁に出て 四番 石川 ホームラン
いいぞがんばれドラゴンズ 燃えよドラゴンズ!」

 

 

 

うーん……単調である。

応援歌としては、だいぶ楽しくない。選手ごとの特徴が見えづらいこともあって、盛り上がりに欠けるだろう。

 

アメリカでは、セイバーメトリクスを導入した結果として野球自体が大味になり、面白さが失われたという意見が少なからず存在する。応援歌にしたときにどこか味気なくなったのも、なるほど合点がいく話だ。若きスター岡林がいないのもがっかりポイントである。

 

応援歌は、盛り上がってなんぼ。やはり『燃えドラ』はすごかったのだ。立浪監督、来年も素晴らしい采配、よろしくお願いします。

 

(2023年11月16日21:00 お詫びと訂正)記事掲載当初、久慈照嘉さんについて「90年代前半に二番を務めていた」という記載がありましたが、正しくは「90年代後半」でした。お詫びして訂正いたします。


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この記事を書いた人

伊沢拓司

QuizKnockCEO、発起人/東大経済学部卒、大学院中退。「クイズで知った面白い事」「クイズで出会った面白い人」をもっと広げたい! と思いスタートしました。高校生クイズ2連覇という肩書で、有難いことにテレビ等への出演機会を頂いてます。記事は「丁寧でカルトだが親しめる」が目標です。

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