連載「伊沢拓司の低倍速プレイリスト」
音楽好きの伊沢拓司が、さまざまな楽曲の「ある一部分」に着目してあれこれ言うエッセイ。倍速視聴が浸透しているいま、あえて“ゆっくり”考察と妄想を広げていきます。
いち巨人ファンとして、今話題の「アレがアレした」ことについては大変苦々しく思っている。極力目にしないよう努めているのだが、クイズプレーヤーとしては時事問題を抑えないわけにもいかない。苦しい二律背反だ。
スポーツを愛するものとして、選手たちの活躍はチームに関係なく喜ばしいものだが、チーム愛はそれとは別次元にある。ライバル選手の活躍は嬉しくても、ライバルチームの活躍は悔しい。巨人以外の全チームが負けますように……と日々祈っているのだが、やはり確率的に難しいのか、そんな好機には一度たりとも巡り会えてない。
そんな自分でも例外的に、今年は巨人以外のあるチームのことが気になって仕方なかった。
中日ドラゴンズである。
▲中日ドラゴンズの本拠地、バンテリンドーム ナゴヤ
中日ドラゴンズといえば「あの曲」
2年連続で最下位に沈んでしまった中日だが、その注目度は優勝した阪神にも負けず劣らず高かった。
好成績を収めるも勝ちにつながらない選手たち、選手への白米提供が停止された「令和の米騒動」、最下位脱出が賭かった終盤の追い上げ……ペナントレースを通して、中日の話題はインターネットを大いに盛り上げたのだ。
結果として、本拠地バンテリンドームの動員数は4年ぶりにシーズン200万人を突破。コロナ禍前の活気を取り戻し、リーグを連覇していた2010年2011年に並ぶ水準だった。チームが弱くても、応援には身が入るものである。
そんなドームいっぱいのファンが歌う『燃えよドラゴンズ!』は迫力満点だ。50年以上の歴史を持ち、キャッチーなメロディが耳に残る。巨人ファンの自分すら、そらで口ずさめるほどだ。
さらに特徴的なのは、球場で聴くことのできる1番のみならず、2番以降もよく知られている、という点である。というのも、「2番以降に在籍選手名が登場し、たびたび歌詞が変わる」からだ。
一番 荒木が 塁に出て 二番 井端が ヒットエンドラン
三番 福留 タイムリー 四番 ウッズが ホームラン
いいぞがんばれドラゴンズ 燃えよドラゴンズ!『燃えよドラゴンズ!2006』(作詞:山本正之)
スムーズな攻撃を行う上位打線。この後ろにも、五番以降の選手や投手陣、控え選手まで含めた大活躍の様子が歌われていく。そこまで凝った歌詞にもかかわらず選手名は高頻度で更新されており、現在のCDがリリースされている最新版は2022年のものだ。
しかし、ここに問題がある。
野球というスポーツは日々進化し続け、攻撃のパターンも様々に研究が進んでいる。そんななかで、『燃えよドラゴンズ!』の歌詞は歴史を重ねても似たようなパターンが続くのだ。
これは、はたして現代野球に適応できているのだろうか。
若手起用も少なくない中日においては、歌詞に登場するメンバーの更新も必要不可欠だ。そもそもの話、2022年度版で5番に座っていた阿部寿樹が楽天に移籍したこともあり、このバージョンを歌うことはすでにかなり難しい。
私は、真剣に心配している。
この歌詞のままでは、戦う歌になっていないのではないだろうか。
中日が再び昇竜となるためには、最新式の野球理論と最新のメンバーでもって、力強いチームを表現する必要があるだろう。
ここはひとつ、来年に向けてより「強い」歌詞を探求していきたい。