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東京から「南南西」にあるものは?

いささか見慣れない世界地図になるが、東京の南南西に何があるのか、すなわち目的地がどこか、随分とわかりやすくなった。

近場で行くなら伊豆諸島がこれに当てはまる。東京から船や飛行機で行ける島であり、島ごとに様々な性格を持つ。小笠原諸島などとともに「東京宝島」としてPRが行われていることを考えると、わりと歌詞のニュアンスにもマッチしているだろう。

そして幸いにも、伊豆諸島にはパーティに縁深い島がある。

 

新島だ。

 

 

世界的なサーフスポットであり、80年代には「ナンパの聖地」と呼ばれたパーリィな島。秋元康作詞による『新島の伝説』というチャラい曲が作られたくらいで、まさに「狂騒」とも言うべき盛り上がりであったようだ。

南南西にあるこの島を目指しながら、パーティの予行演習をしていた可能性は十分にあるだろう。

▲新島の羽伏浦はぶしうら海岸

今でこそそういったカルチャーはなくなったが、サーファーにとって特別な地であるのは変わらない。世界中を驚かせるような波乗りが行われる可能性も十分にある。

……とはいえ、歌詞に従うならば、移動距離を「誇らしい」と思えるほど、新島は遠くない。ジェット船で東京から2時間半、飛行機なら調布から35分だ。ランチミーティングでも短いくらいである。もうちょっと距離を稼ぎたいところだ。

さらにもっと「南南西」へ

となれば、更に海の先へ。一直線に進めば東南アジアの国々が登場する。フィリピン南部からインドネシア、オーストラリア西岸あたりが対象である。

▲東京からどんどん南南西へ向かうと……? via どこでも方位図法 CC BY-SA 4.0(画像を加工しています)

まずは、パーティのことから考えておこう。パーティ大国・タイが外れてしまったが、まだまだアゲアゲな場所は存在するので大丈夫だ。

その中でも特にアゲなのが、インドネシアのギリ・トラワンガン島である。スラウェシ島の南にあるこの島は「パーティーアイランド」として知られ、夜な夜な浜辺で大音響のパーティが開かれる。有名さではタイに劣るが、一味違うディープなビーチでピーナッツ&ビターステップなんてオツなもんだ。

▲ギリ・トラワンガン島のビーチ

……いやいや。俺は何をしているんだ。西東京のカレー屋にあるZINEジンみたいな情報ばかり並べてもここでは意味がない。「世界中を驚かせてしまう夜になる」ことが大事じゃないか。もっと独自性のある夜を提案するべきだ。

ZINE:個人やグループが、形式・テーマにとらわれず自由に作成した小冊子のこと。

あくまで「パーティを続けよう」なので

そもそも、パーティに向かうからパーティを続ける、ということ自体がいささか無理筋である。視野を広げ、「過程でパーティを続けるような目的地」を考えるべきだ。

世界が驚くべき、そして過程を喜ぶべき目的地は、ギリ・トラワンガン島の手前に存在した。同じくインドネシアのモルッカ諸島である。

▲モルッカ諸島(マルク諸島) via Wikimedia Commons Lencer CC BY-SA 3.0

この島々は、中世において貴重なスパイスの産地であった。食料保存などのためにスパイスを求めたヨーロッパ各国は、このモルッカ諸島を経済圏に組み込む。これ、世界史のテストに頻出です。

そして、その経済圏の中には日本もいた。江戸時代の日本でスパイスの需要がそこまであったわけではないが、自国の品を売れる機会、そして他国産品を得られる機会は貴重である。当時の幕府が許可を出した貿易船「朱印船」は、長崎を出港してこのモルッカ諸島にも立ち寄ったという。

▲歴史の授業でもおなじみの「朱印船」。画像はベトナムとの交易のもの via Wikimedia Commons

新たな商売を目指す航海は、過酷ながら夢あふれるものだっただろう。なんせ世界を牛耳る、最先端の商売だ。南南西を目指しながら、浮かれてパーティでも開きたくなるもんである。

そこで歌われるのが、「シュガーソング」。まさに朱印船貿易の時代、砂糖は日本に活発に輸入されていたのである。交易に携わる人間はその恩恵にあずかっていたはずだ。甘い砂糖を口にしながら口ずさむ歌、ということに違いないジャン……!

 

……ハッ。そういうことじゃない。世界史の教科書に書いてある情報だったとしてもダメなものはダメだ。独自性を履き違えたクリエイティブを、西東京で少なからず目にしてきたではないか。これではあまりに他の歌詞と噛み合わなすぎる。冷静に考えよう。

なぜパーティを開きたいのか

ここは基本に還ろう。「パーティを続ける」という数少ないヒントをもっと活かすべきだ。

パーティとは、何かの祝いの場であろう。むしろ、祝うべきことが起こり、その後にパーティを開くのだ。となると、南南西を目指す前に、何かが達成されているということなのではないだろうか。

▲既にパーティは始まっているのだ

となると、だ。南南西を目指すことはテーマではないのではないだろうか。むしろその前にコトは完成しているのであろう。

それはなにか。

「北北東からの逃避」である。

南南西を目指すということは、歌詞の通り北北東から遠ざかるということでもある。

ママレード&シュガーソング、ピーナッツ&ビターステップ
生きてく理由をそこに映し出せ
北北東は後方へ その距離が誇らしい

UNISON SQUARE GARDEN『シュガーソングとビターステップ』(作詞:田淵智也)

北北東になにかがあるということだ。

今一度、地図を見てみよう。

▲見るべきはこっちか……? via どこでも方位図法 CC BY-SA 4.0(画像を加工しています)

北北東にあるのはシベリア、アラスカ、カナダのラブラドル半島などが位置している。いずれも過酷な自然環境が残る寒冷地域だ。

となると、寒さから逃げた、と考えるのが妥当であろう。

 

となるとこのルート……「渡り」じゃない? 渡り鳥の。

 

冬場にハクチョウなどが日本に飛来する、まさにあの経路なのだ。鳥たちは寒さから逃れるため、集団で日本へと訪れるのだ。パーティを続けるって、隊列を組むって意味のパーティなのかあ……じゃあもう前提がぶっ壊れてるじゃん。祝ってる余裕はない。

▲滋賀に飛来したコハクチョウ

でもまあ、ちょっと鳥さん方には悪いが我々も驚かなくなってきている。むしろ来なかったら驚くわ。渡り鳥を観光資源にしている自治体は数多くある。

ありもしないストーリーを描くのはやめて、冷静に考え直そう。北北東からの逃亡説も却下だ。

うまくいかないときは前提を疑おう

世界に目を向けたが、むしろスタート地点を東京と仮定したこと自体に誤りがあるかもしれない。

とはいえ、起点を自由に動かせるのであれば、理論上どの地点も南南西として取ることができることになるので創作は困難であろう。 きっかけがほしい。

たとえば、ボーカルの斎藤宏介さんはニューヨーク州スカースデールの出身だ。そこを起点にしたらどうか

ニューヨークの南南西……と聞くと、クリエイティブでビジネスをしているパーソンなら耳馴染みがある「アレ」が思い浮かぶだろう。

そう、「SXSW」、「サウス・バイ・サウスウエスト」だ。

▲2013年のSXSWのようす via Wikimedia Commons Anna Hanks CC BY 2.0(画像の一部をトリミングしています)

アメリカ最大級のビジネスイベントであるとともに、音楽フェスの要素も持つため、様々なクリエイティブカルチャーが集う最強のお祭り、それがサウス・バイ・サウスウエストだ。開催地であるテキサス州オースティンがニューヨークの南南西にあることから、ニューヨークの人たちにも名が轟くようにという意味合いで「南南西」を意味する名がつけられた

南南西を目指す、というのはまさに、このフェスをひとつの目標に、ということなのではないだろうか。

そもそも他の歌詞も、音楽を作っていくということに言及した部分が見られる。ソングとステップ、人々を楽しませるような曲を奏で続けることが歌われているのだから、その中に出てくる南南西を「サウス・バイ・サウスウエスト」と解釈することも可能なはずだ

気になる点を上げるとしたら、「北北東は後方へ」の部分だろうか。「SXSW」の文脈で「南南西」を歌ったのだとしたら、わざわざ「北北東」を出す必要はない。「脳内天気予報」などの単語も含めて、クルーズのニュアンスが強そうなのもひっかかるところだ。「SXSW」を意図した「南南西」なら、こんな紛らわしいことをするだろうか。

そもそも、「南南西」は「ゴール」として描かれている。音楽を奏で続けてたどり着ける理想の地点だ。それを、あまりに具体的なものにするだろうか。そこまで言い切っちゃうものだろうか。

……思わぬうちに、結論らしきことにたどり着いてしまった。具体的な目標は不要なのである。

南南西、それは「なんだかいい場所」なのだ。具体性はないが、南の暖かい風が吹く理想の土地だ。理想というのは、永遠にたどり着けなくとも目指すもの。ひたすらに良いものを探し求める、ということを意味した「エルドラド」、それが南南西なのかもしれない。

     ◇

 

理想を追い求めて、ときに楽しみ、ときに迷走し、人生は続いていく。なんとなくの地図と、なんとなくの目的地さえあれば、前に進むことができるのだ。

今日もGoogleマップを広げ、昼メシの店を探す。「なんか理想と違うんだよなー」とタップを繰り返し、気づけばコンビニに落ち着くのも、またひとつの人生である。


伊沢拓司の低倍速プレイリスト」は伊沢に余程のことがない限り毎週木曜日に公開します。Twitterのハッシュタグ「#伊沢拓司の低倍速プレイリスト」で感想をお寄せください。次回もお楽しみに。

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この記事を書いた人

伊沢拓司

QuizKnockCEO、発起人/東大経済学部卒、大学院中退。「クイズで知った面白い事」「クイズで出会った面白い人」をもっと広げたい! と思いスタートしました。高校生クイズ2連覇という肩書で、有難いことにテレビ等への出演機会を頂いてます。記事は「丁寧でカルトだが親しめる」が目標です。

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