連載「伊沢拓司の低倍速プレイリスト」
音楽好きの伊沢拓司が、さまざまな楽曲の「ある一部分」に着目してあれこれ言うエッセイ。倍速視聴が浸透しているいま、あえて“ゆっくり”考察と妄想を広げていきます。
Googleマップがある人生で、本当に良かった。
小学生の頃から地図や地形を眺めるのが好きで、自宅の家具を山や川に見立てて妄想にふけっていた。何が面白いのか自分でもわからない。そこに「自分には作れない自然の力がある」ことを、地図を通して感じていたかった気もする。ヒーローの能力を見るのにも似た感覚だ。
スマホが普及して、地図はいっそう身近なものになった。到達の難しい場所に行っては地図上の位置をスクショに取ったり、まだ行ったことのない場所を地図から眺めたり。遠近問わず自分の世界を広げてくれたのだ。
▲画像はイメージ
もちろん、利便性も高い。移動の多い仕事なので、お昼に時間ができたら、現在地の近くからめぼしいお店をタップして昼ごはんを選んでいる。ブラウザ検索より先に、だ。近さや場所柄など、文字以上の情報が役に立つことも少なくないのである。
地図は未知の存在を教えてくれる。それゆえに探究心を呼び起こす。
だからこそ、人一倍気になるのかもしれない。UNISON SQUARE GARDEN『シュガーソングとビターステップ』のことが。南南西に、何があるのかが。
耳に残る軽快なリズムと「南南西」
ママレード&シュガーソング、ピーナッツ&ビターステップ
甘くて苦くて目が回りそうです
南南西を目指してパーティを続けよう 世界中を驚かせてしまう夜になるUNISON SQUARE GARDEN『シュガーソングとビターステップ』(作詞:田淵智也)
アニメ『血界戦線』のエンディングテーマとして書き下ろされたこの曲は、歌い出しこそ原作にインスピレーションを得ているが、歌詞全体で見ると複雑な内容である。軽快なリズムに合わせて口ずさむフレーズの気持ちよさがヒットを呼んだのだろうが、造語が多く出てくることもあり、歌詞の解釈は難しい。
なかでも、唐突に登場し、種明かしされない要素に「南南西」がある。「南南西を目指してパーティを続ける」とは一体どういう状況なのだろうか。アニメの文脈では解釈が不可能な部分であり、曲のシチュエーションなどから考えるしかない。
南南西にはいったい、何があるのか。そしてなぜ、そこを目指す過程でパーティを続ける必要があるのか。歌詞の内外から、答えを探す冒険に出かけよう。
「南南西」を厳密に目指そう
まず、南南西という方位について知ろう。
16方位と呼ばれる、全方向を16分割する方位の示し方に登場するのが南南西だ。北を上としたとき、南のひとつ左隣、という認識で良いだろう。南西の中でもより南よりなので南・南西だ。
▲今回目指すべき場所
仮にこの歌詞のスタート地点を東京としよう。東京から南南西の方向にある場所を調べるならば、普段使っている「メルカトル図法」の地図ではいけない。方角が正しく表現されていないからだ。地球は曲面、地図は平面ゆえ、様々な問題が発生するのである。
▲よく見るタイプの地図は「メルカトル図法」で描かれている
方角を正しく表せる地図図法のひとつに「正距方位図法」が挙げられる。地図上の二点間を結んだとき、その距離と方角が正しく描ける図法だ。
▲「正距方位図法」で描かれた世界地図。この図法は国連の旗にも用いられている via どこでも方位図法 CC BY-SA 4.0