QuizKnock

アプリで記事をもっと見やすく

インストールする

カテゴリ

ログイン
PR
ランドマーク税理士法人

連載「伊沢拓司の低倍速プレイリスト
音楽好きの伊沢拓司が、さまざまな楽曲の「ある一部分」に着目してあれこれ言うエッセイ。倍速視聴が浸透しているいま、あえて“ゆっくり”考察と妄想を広げていきます。

 

ありがたいことにこの連載もめでたく15回目を迎えた。週刊連載を続けられるのはひとえに応援してくださる皆様のおかげである。

こういった連載は書いていると徐々に楽になっていくものだ、と経験は言っているのだが、今回はまだ楽になる気配がない。木曜日を乗り切ったと思ったらまた金曜日が来て、頭の片隅を「ネタ選び」というタスクが占拠する。

書くのは楽しいのだ。書くまでが辛いのである。ネタを選別し、書き上げられるものか吟味し、裏を取っているあの時間が辛い。自らのレベルアップを目標に週間連載を選んだものの、やっぱつれぇわなのである。

今週のテーマは……

キッパリと諦めること。

使えるものには必死こいてすがりつくこと。

この両者のバランスが、ネタ選びにおいては求められる。

そしてときには、おもいっきり後者に全ベットするべきだ。締切がある以上、いつまでも迷うわけにはいかない。わずかでも甘さを感じるなら、そのガムを噛み続けるべき時が人生にはある。あるのだ。

よって、今週は残念ながら「ボツネタ集」である。惜しくも記事化に失敗した数多の屍から、散り様を見せうる程度には価値のありそうなネタを拾いあげここに供養していきたい。

ボツネタにも、いやボツネタにこそ、スキあらば揚げ足を取ろう、記事としてネタにしたろうというライター根性が息づいているはずだ。その結果として強烈な踵落としをくらおうとも、心意気だけでも評価されるべきである。

本ネタがなくたって、心意気は感じられるはず。みなさんが見ようとすれば、そこに本ネタはあるのです。心で、意気を、感じてください。レッツゴー。

ボツその1 サザンオールスターズ『希望の轍』

遠く遠く離れゆくエボシライン
oh my love is you
舞い上る蜃気楼

サザンオールスターズ『希望の轍』(作詞:桑田佳祐)

夏場なのでサザンで記事が書けないか、というのは毎週考えるのだが、いまいちしっくりと来る歌詞が見つからなかった。

これは、桑田佳祐の作詞方法に起因している。初期の作品を中心に、意味以上に耳馴染みや面白さを意識した詞が多いのだ。ハナから意味がない前提のものにツッコミを入れるのは無粋である。

そんなサザンの作品群にあって「これは!」と思えたのが代表曲『希望の轍』だ。疾走感と切なさを併せ持つ名曲で、この曲をカーステから流すためだけに茅ヶ崎に行ったことが、私はある。

そんな叙情豊かな一曲において、私が付け入るスキだと思えたのが「舞い上がる蜃気楼」だ。

 

……蜃気楼って「舞い上がる」んだろうか。

蜃気楼とは、空気中で光が屈折することによって、本来は存在しない位置に建物などが見える現象のこと。今の時期にも見られる不思議な現象だが、「舞い上がる」なんてオシャレすぎますよ桑田さんハハハ……記事化チャーンス!!!

▲蜃気楼で浮いているように見える船

 

そして見事に食らったのが、物理学のカウンターパンチである。蜃気楼ってまさに「舞い上がる」のだ

 

調べてわかったことだが、蜃気楼には下位蜃気楼と上位蜃気楼がある。

下位蜃気楼の代表例が、夏の路上で見られる「逃げ水」である。暑い夏の日、遠くの路上がツルツルに見えるアレだ。これは、光の屈折により、上にある空が路面に映し出されることで起こる。

▲水たまりができているように見える下位蜃気楼

そしてもうひとつの上位蜃気楼だが、これは物体の上側に偽物の像が見える現象だ。たとえば水平線の向こうにある建物が、光の屈折により上方に見えるようになる。

これがまさに、水平線から蜃気楼が「舞い上がる」様子である。光が屈折するほどに、蜃気楼は高く浮かび上がってくる。ゆらめきながら立ち上るその様子を「舞い上がる」と歌った桑田佳祐の描写力よ……!

 

知識がないと、あらぬ疑いをかけてしまうことがある……と大いに反省した1本である。この教訓、最近の世の中にも同じことが……いやすみませんやめときます気をつけます

次ページ:【まだまだある】「ずとまよ」の人気曲も、合唱曲『COSMOS』も、「ボツ」になっていました

1
Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。

関連記事

この記事を書いた人

伊沢拓司

QuizKnockCEO、発起人/東大経済学部卒、大学院中退。「クイズで知った面白い事」「クイズで出会った面白い人」をもっと広げたい! と思いスタートしました。高校生クイズ2連覇という肩書で、有難いことにテレビ等への出演機会を頂いてます。記事は「丁寧でカルトだが親しめる」が目標です。

伊沢拓司の記事一覧へ