こんにちは、薬学大学院生のまちょです。
みなさんは「マイクロバイオーム」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、腸などに生息する細菌をはじめとした「微生物の集まり」を指す言葉で、私たちの健康や病気に深く関わっているとして近年注目されています。
そんなマイクロバイオームの研究が進んだことで今、驚くような薬が開発されています。なんとその材料は──「うんち」。
にわかには信じがたいかもしれませんが、腸内にすむ多様な細菌の力を活かした、革新的な治療法が実現しつつあるのです。
今回は最先端の「うんち由来の薬」の正体について解説していきます。
腸内フローラとは?
私たちの腸内には非常に多種多様な細菌が生息しており、腸内環境を良い状態にしています。これらの細菌は、腸の壁に咲かせた「お花畑」にたとえて腸内フローラと呼ばれています。

その数は約1000種100兆個といわれており、その中には、日常生活でもよく耳にするビフィズス菌や乳酸菌も含まれています。
私たちのからだをつくる細胞の数は約60兆個ですので、それをはるかに上回る細菌が腸内にすんでいるわけなんですね。
重要なのは「多様性」
腸内フローラの特徴として、その多様性が重要であることが知られています。
健康な人の腸内フローラは腸内細菌のバリエーションが実に豊富で、それぞれが複雑にバランスをとりながら人の健康をサポートしています。しかし、このバランスが崩れると便秘や肌荒れ、慢性的な体調不良など様々な悪影響が現れてしまいます。

ただ、これは逆に言えば「崩れた多様性を元に戻せば体調が治るかも!?」と考えることもできます。
うんちを利用して腸内フローラを整える薬が作られた!
その多様性を回復させるため、注目されたのが「うんちの移植」でした。
実際には糞便微生物移植(FMT)と呼ばれ、うんちそのものを移植するわけではなく、健康な人のうんちに存在する腸内フローラを患者の腸内に移植するというものです。2022年にはアメリカで、C・ディフィシルという細菌による感染症に対する薬「Rebyota」が、FMTを利用した薬として世界で初めて承認されました。
ちなみにこのFMT、実は非常に長い歴史を持っており、4世紀ごろには中国の学者によって「急性下痢症に対して健康な人の糞便を投与する」という治療法が紹介されています。少し最先端すぎていますね。
腸の調子は脳にまで……
実は、腸内フローラの不調は便秘や肌荒れに留まらない可能性があるのです。
近年の研究により、腸は脳と密接な関係をもつこと、つまり脳の不調は腸に反映され、腸の調子もまた脳に反映されることが明確にわかってきています。
これを脳腸相関といい、創薬において現在大変注目されています。例えば、多発性硬化症やパーキンソン病など様々な脳の病気に対するマイクロバイオーム研究が進んでいます。

腸の健康を守るためには?
健康のために腸を整えることは、腸だけでなく脳をはじめとして全身に良い影響を与え、病気の予防につながるためとても重要なのです。
最近メディアでよく聞く「腸活」とは、まさに腸内フローラを整えるための日々の活動のことです。そのためには善玉菌を積極的に摂ることが大切。善玉菌とは腸にとって良い働きをする菌であり、ビフィズス菌や乳酸菌も善玉菌のひとつです。
その善玉菌はヨーグルトや納豆などの発酵食品に含まれています。また、ごぼうやにんじん、ほうれん草など食物繊維を多く含む食品やバナナなどオリゴ糖を多く含む食品は善玉菌の栄養源となるため、これもまた効果が期待できます。

現在、マイクロバイオーム創薬、特にFMTに対する注目度は非常に高く、腸内細菌の可能性に魅力を感じた研究者によって世界中で研究が推し進められています。
日本においても、「うんちから創られる薬」が当たり前になる時代もそう遠くはないのかもしれません。
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