コジマです。
『ONE PIECE』に登場する剣士、ロロノア・ゾロは、両手だけでなく口にも刀をくわえる「三刀流」の使い手。
剣士の弱点は(飛び道具と比べたときの)リーチの短さだが、ゾロには関係ない。それは、斬撃を「飛ばす」煩悩鳳(ポンドほう)なる技を持っているから。
煩悩鳳を繰り出すシーンを見る限りは強く剣を振っているだけのようだが、それによって飛んでいく斬撃によって鉄すらも切り刻んでしまう。
明らかに間合いの遥か外に攻撃が届いている以上、漫画の誇張表現などではなく、物理的な「何か」が飛んでいると考えられる。
今回はこの「何か」が何なのか考えてみたい。
砂が飛んでいる、とする
風がモノを切り裂く現象で有名なのが「かまいたち」だ。つむじ風に当たった皮膚がいつの間にか切れている、という現象である。
かつては空気の渦の内外にできる気圧差でモノが切れる、と考えられた時代もあったが、現在では小石や砂が風で飛んで当たって起きる、と説明されることが多い。
要するに、空気を飛ばすだけではモノは切れないのだ。
とりあえず煩悩鳳を「めちゃくちゃ強烈なかまいたち」であると仮定する。周囲にある砂を巻き上げて、それを斬撃の勢いで飛ばすのだ。
斬撃の勢いといっても、刀をうちわ代わりに扇ぐのは刀の形状からして難しい。ここは、刀をすごい速さで振ったときに起きるであろう「断熱圧縮」を利用しよう。
刀で空気を圧縮する!
宇宙空間から隕石などの物体が落ちてくるとき、その物体は炎に包まれる。一見すると物体と空気の摩擦熱によって発火しているように思えるが、実はそうではない。
空気を「熱が逃げない状況で」圧縮すると、圧縮に使われたエネルギーがそのまま空気の熱エネルギーに変換され、空気が発熱する。これが断熱圧縮。
隕石はとてつもないスピードをもつため、落下して大気圏に入ると隕石の進行方向にある空気を一気に、熱が逃げるまもなく圧縮する。つまり、隕石は周囲の空気に対して断熱圧縮を起こしているため、隕石が燃え上がるわけだ。
なお、この原理は須貝さんの火の玉ストレートの記事にも使われているので、そちらも参考にしてほしい。
刀を振るときにも同じ現象が起きると考えよう。
1. 刀を勢いよく振って断熱圧縮を起こし、空気を熱する。
2. 圧縮されて熱を帯びた空気は再び膨張し、あらかじめ巻き上げておいた砂を吹き飛ばす。
3. この砂が「飛ぶ斬撃」となって遠くのターゲットを切り裂く……。
仮にこれが正しいとして、刀をどれだけの勢いで振ればいいのか?
マッハ4.5!?
煩悩鳳を3つの段階に分割したが、このうち1と2でエネルギーの変換が起きている。ここは、「刀の運動エネルギーを、2つの変換を経てどれだけ砂の運動エネルギーに変換できるか」から逆算してみることにする。
100g=0.1kgの砂がマッハ1(343m/s)で飛ぶときの運動エネルギーは、1/2×0.1×343×343=5880J。
1の変換は「刀の運動エネルギー→空気の熱エネルギー」。薄い刀がどれだけの空気を押し潰せるか考えると、せいぜい10%くらいしか熱にならないのではないか。
一方、2の変換は「空気の熱エネルギー→砂の運動エネルギー」。空気の膨張は3次元方向に広がるため、1以上にエネルギーが分散しそうである。変換効率は5%くらいか。
すると、1と2を続けたときのエネルギーの変換効率は0.1×0.05×100=0.5%。0.5%残った結果5880J残らないといけないのだから、必要な刀の運動エネルギーは5880/0.005=1,180,000J。
刀の重量を1kgとすれば、必要な速度は√(2 * 1,180,000 / 1) = 1530m/s……約マッハ4.5!
この考察どおりだとして、「変換効率悪くね?」というのはごくまっとうな指摘だと思う。刀で石ころを直接打ち込んだほうが破壊力はあるだろう。
とはいえ、科学的にも「飛ぶ斬撃」は実現するんじゃないかという気がほんのりしてきた(してきたか?)。まずは刀をマッハ4.5で振るところから始めよう。