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共感するな! 求められているのは、あなたの意見ではない

出題された文章では、さきほど述べたように科学技術が人間の手を離れて新たな問題を作り出してしまう過程がより細かく分析されていきます。大雑把に言えば、科学が新たな問題を作り出すことで、私たちが現実の社会でどう行動「すべき」かの考え方に影響を及ぼす、という話になります。

例えば、妊娠中絶の話だと、妊娠中絶が技術的に不可能だった時代には「中絶すべきか否か」という問いかけはあまり意味がありませんでした。どうせできないのだから、母体の状態次第でなるようになるに任せるということになります。

しかし、ひとたびそれが可能になってしまうと、「中絶すべきか否か」という問いかけが大きな意味を持って社会に出現します。ですが、妊娠中絶を可能にする科学技術そのもののなかには「中絶すべきか否か」の答えはありません。科学はあくまで手段であって、「すべきかどうか」の価値判断はそれを使う人間の側に属しているからです。

そんなことが述べられたあと、下線は次のように引かれていました。

ここで判断の是非を問題にしようというのでは、もちろんないし、選択的妊娠中絶の問題一つをとってみても、最終的な決定基準があるなどとは思えない。むしろ肯定・否定を問わず、いかなる論理をもってきても、それを基礎づけるものが欠けていること、そういう意味で実践的判断が虚構的なものでしかないことは明らかだ、と私は考えている。

この問題では、下線の引かれた部分について「なぜそういえるのか、説明せよ」とあります。したがって、さきほど述べた「付け加えるな!」の原則からすれば、「この文章の筆者がこのように考えるのはなぜか」を説明することになりますね。

引用した段落にも書いてあるように、「最終的な決定基準があるとは思えない」「どんな論理をもってきても、それを基礎づけるものが欠けている」といった点が、おそらく筆者がこのように考えることの根拠の核となるでしょう。

まてよ……? それなら「共感するな!」っていうのは変じゃないか? 「筆者の気持ち」になって答えればいいのだから。そんなことを考える人もいるかもしれません。ですが、これが誤りだと私は考えています。「筆者の気持ち」に共感して語られる考えは、たいていの場合「あなたの気持ち・意見」でしかないからです。

というか、そもそも「筆者の気持ち」というものを考えるのが少しナンセンスだという気がします。あなたの前にあるのは筆者本人ではなくて、筆者の書いた文章なのだから、その文章に表現されている考え方、というのが適切でしょう。そして、「文章に表現されている考え方」と「文章を読んであなたが思ったこと」とはまったく違います

この点をおさえておかなければ、理由を説明するときに、「わたしはこう思う」という立場から理由を解答に書いてしまう人がたくさん出てきます。しかし、それもさきほどの「付け加えるな!」で書いたように、すでに「議論」の場に入ってしまっています。

英語の格言でThink before you speak, Read before you think.(喋る前に考えろ、考える前に読め)というものがありますが、東大の現代文でしっかり点数を取るためには「議論をする前にしっかりと読め」ということになりますね。

まとめ:文章を読むということ

ここまで、かなり駆け足ですが、東大現代文の性質を考察してみました。

「付け加えるな!」「共感するな!」というポイントを、ここまで「点数を取るため」に必要だと書いてきましたけれど、この記事の一番最初にも述べたように、「点数を取るために必要」ということは、大学側がそういう学生を求めているということでもあります。

二つのポイントをまとめれば、大学側は文章を読むときに「自分の知識や考えに囚われることなく、文章が述べている内容を文章に即して説明することができる学生」を求めているということになります。

それはおそらく、大学に入ったあとで、学問という営みで活発に交わされる「議論」がまともなものであるためには、まずは人の言っていること、書いたことをねじ曲げることなく、適切に理解することが必要だと考えているからでしょう。だから、この記事では「議論をする前にしっかりと読め」というのが、東大側からのメッセージだと考えます。

このような能力は、学問をやる人間だけに必要なものでは決してないと私は思います。日々の生活のなかでも、言ったことや書いたこと、言葉の扱い方を気をつけるだけで解決する問題はいくらでもあります。

それでいて、多くの人が言葉の扱い方よりも、情報を出す速さや印象の強さにとらわれてしまって、なんともいえない世の中になっていると嘆いている人は文章を書く人のなかにもたくさんいます。

なので今回の記事が、受験生には受験の参考に、それ以外のかたにはそうした言葉の問題に想いを馳せるきっかけになればいいなと思っています。

それでは、ここまで長いこと読むばかりだったので最後にみなさんに問題を出題しましょう。ずばり、2017年の東大入試で出題された漢字問題です。あなたは何点取れるかな?

次のページで、今年東大で出題された漢字問題に挑戦!3/4

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