こんにちは、服部です。
日本人男子の名前には、家族のなかで生まれた順序に基づく名前がついていることがあります。だいたいの場合は、長男なら「一郎」、次男なら「次郎」、三男なら「三郎」……と続きます。もちろん例外はあり、「野球選手のイチローは次男」というマメ知識も一部では有名ですね。
さて、上に挙げたほかに、「太郎」と名前がついている長男もたくさんいると思います。おなじみすぎて見逃してしまいますが、よく考えてみると「太」というのは、漢数字でもなく、「次」のような順序を表すものにも見えませんから、これが長男というのは奇妙な話だと思いませんか?
長男を「太郎」というのは、そもそもなぜなのでしょうか。
実は「太」は物事のはじめ
「太郎」を分解してみると、そもそも「郎」が男性を指すことは想像がつくと思います。「新郎新婦」とも言いますね。
そこで、次に調べるべきは、「太」という漢字です。これを漢和辞典で引いてみました。
新選漢和辞典Web版 「太」
意味
- 〈はなはだ〉はなはだしい。
- おおきい。=大(たい)・泰(たい)
- はじめ。「太初(たいしょ)」
- 身分の高い人への尊称。「太后(たいこう)」
③の記述にご注目。そもそも「太」という漢字には「物事のはじめ」という意味が含まれているようです。最初の子である長男に「太郎」とつけるのも、これを踏まえると理解できます。
「太」を「はじめ」の意味で使った熟語としては、「宇宙の究極のおおもと」を意味する「太極」などがあります。
※「太」には上に示した以外に「ゆたか」などの意味もあり、どの意味合いが「太郎」の直接の由来かは必ずしも確実ではありません。
いつから「太郎」とつけはじめたのか
子どもが生まれた順番に「太郎」「二郎」とする呼び方は、平安時代の後半以降、武士の台頭とともに盛んになったとされています。
当時の日本人の名前に関しては、本名=諱(いみな)を口に出すことをはばかるという風習がありました。その代わりに、就いていた官職の名前や、生まれた順にもとづく「太郎」「次郎」などの言葉を、通称として呼んだり、名乗ったりしていたのです。
たとえば、源義家(みなもとのよしいえ)は源頼義の長男です。これと、「石清水八幡宮で元服した」というエピソードが合わさって、通称の「八幡太郎」が生まれたとされています。
おわりに
今回の「太」のように、身近な漢字が意外な意味を持ち合わせていることは少なくありません。初心に立ち返って「この漢字はそもそもどういう意味だっけ」と調べてみるのも、思わぬ発見がありますよ。
参考文献
- 『新選漢和辞典Web版』小学館
- 山中襄太(1975)『人名地名の語源』大修館書店
- 渡辺三男(1976)『日本の人名』毎日新聞社
- 奥富敬之(2007)『苗字と名前を知る事典』東京堂出版
- 杉本つとむ(2005)『語源海』東京書籍