初めまして! 新ライターの世奈です。
街中を歩いていて見かける「指名手配」のポスター。
普段何気なく見ているけど、そういえば指名手配犯の顔写真って勝手にポスターにしちゃっていいんでしょうか? 肖像権的に大丈夫なんでしょうか?
かつてイラク戦争の際にはアメリカ軍が「イラクのお尋ね者トランプ」という指名手配犯の図柄を使ったトランプを作っていました。
そしたら、指名手配犯をカードにしたソーシャルゲームくらいできるのでは……?
ということで、今回は「犯罪者カードバトル」の実現可能性を探ります。
そもそも肖像権とは?
肖像権は法律に明文化された権利ではありません。
自己の容貌,姿態をみだりに写真,絵画,彫刻などにされたり,利用されたりすることのない権利。人格権ないしプライバシーの権利の一種とされる。
人格権は憲法13条から導かれる基本的人権のひとつで、自分の人格の本質的な部分が守られるという権利です。例えば生命だとか自由だとかですね。
で、この中にプライバシー権が含まれています。プライバシー権は、私生活をみだりに公開されないという権利のことです。
さらにこのプライバシー権の中に肖像権が含まれているというわけですね。
許可取ってるの?
指名手配って、当然警察が犯人に「あなたの顔写真を指名手配犯として公開していいですか?」って聞いて、犯人に「いいですよ!」って許可をもらってされてるわけじゃないですよね。その手間を取れるなら逮捕したほうが絶対良い。
警察が犯人自身の許可を得ないで、勝手に犯人の写真を公開しています。
じゃあ「警察が勝手に犯人の顔写真を使ってるのにそれが許されてるってことは、犯人には肖像権がないってことなのかな?」というと、そんなことはありません。
日本国憲法ではすべての国民に基本的人権が保障されています。先程言った通り、肖像権は人格権の一部ですから、基本的人権に含まれます。
では、なぜそのように指名手配犯の肖像権が侵害されることが許されるのでしょう?
「公共の福祉」
そもそも、基本的人権の保障の根拠となる憲法13条では「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」とされています。
簡単に言えば、「すべての国民は基本的人権を保障されますよ。ただし公共の福祉に反しない限度で。」っていうことです。
逆に言えば、「公共の福祉のためなら多少人権が制限されてもオッケー」ってことですよね。
ここでいう公共の福祉とは、
社会の構成員の権利,自由や利益の相互的衝突を調節し,その共存を可能とする公平の原理。
例えば、極端な例でいくと「殺人を禁止することは自由権の侵害である」とします。
「殺人をする」という個人の自由な行為が禁止されているという意味では正しいですよね。しかし殺人の禁止は現在の日本で実際になされている。
なぜそうされているかというと、法律の上では「殺人を許容することは公共の福祉に反する」から。
殺人を禁止しなければ、多くの人の命が脅かされますよね。「殺人をする」という個人の自由な行為を認める代わりに多くの人命が危険に晒される。これは割に合わない。
だから、「多くの命を守るためには「殺人をする」というその個人の自由な行為を禁止するくらいしょうがないよね」って考えるわけですよね。これが公共の福祉です。
で、今回のお話でいくと、「公共の福祉という観点から、指名手配犯を逮捕するためにはその肖像権が侵害されてもしょうがないよね」ってことですね。
しょうがないのでトランプにする
中国では指名手配犯の顔写真を使ったトランプを作成して、公安局が住民に無料で配布したという事例があります。
冒頭に書いたように、アメリカでも、イラク侵攻の際に「イラクのお尋ね者トランプカード」なるものが軍によって配布されたことがあります。
これは、フセイン政権のお尋ね者などをアメリカ兵に覚えさせる目的で作られたものでした。
This week in history: 2003, "the deck of cards that changed the game." DIA created the "Iraq's most wanted" card set. pic.twitter.com/ah40xj2fjg
— DIA (@DefenseIntel) 2017年6月8日
これらはいずれも、犯罪者の逮捕を促進しようとしているものです。遊興が第一目的ではなく、あくまで犯人逮捕に効果的だという「公共の福祉」に基づいて作られている点で、日本の指名手配犯のポスターと一緒です。
クールジャパンの名のもとにソシャゲを作る?
日本ではトランプを作ってはいませんが、パチンコ店のチラシに指名手配の欄があったり、指名手配の写真入りのティッシュを配布したりすることがあります。
ポスターだけではなく、こうやってより多くの人の目に届くようにすることで、犯人についての情報を得られる可能性が高まりますからね。
しかし、だからといって「ソシャゲのカードにしよう!」というのはいかがでしょう。あくまで犯人逮捕につながることが第一の目的ですし、トランプの例でもあくまで作り手は軍や公安です。
億万が一、日本の警察が逮捕を促進すべく、ソシャゲを製作したとしても、「公共の福祉の範囲を超えている」という批判は上がると思われますね。
まとめ
というわけで、指名手配犯にも肖像権はあります。
ただし、犯人逮捕という目的のために使われるぶんにはその肖像権が多少侵害されてもしょうがないってことです。ゲームのガチャに入れるようなことはできません。
犯罪者であろうと、1人の人間。法治国家である以上、勝手にソシャゲカードにすることはできないのです。
参考文献
- 芦部信喜(2015)「憲法 第六版」
- livedoor NEWS