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こんにちは、はぶきです。

本日から、不定期の企画として「QuizKnockメンバーがQuizKnockメンバーにインタビューする」というシリーズが始まります。今回私は、東京藝術大学の同期でもあるライターの志賀さんに、「芸術」についてインタビューをしてきました。

種類は異なりますが、私も芸術に関わる身として、彼が芸術とどう関わり、どう向き合っているのかには興味があったので、話を聴く機会ができて大変嬉しく思います。それでは、早速聴いていきましょう!

※このインタビューは2020年12月上旬に行いました

芸術との出会い

「学ぶものとして奥が深いと感じた絵画を選択した」

まず、芸術に興味を持ったきっかけを教えてください。

多くの美大生がおそらくそうだったように、私も絵に興味を持ったきっかけはアニメやゲーム、漫画といったものからでした。

もともと小さい頃から絵を描くことは好きだったんですけど、中学生のときにクラスの友達がイラストをよく描いていて。それを見て「あ、自分も描く側になれるんだ」と衝撃を受けて、自分も描いてみようと思いイラストから描き始めたのがきっかけでした。

興味の対象が「イラスト」から「芸術」に切り替わったのは、どういう経緯なんでしょう。

高校生のときはイラストやデザインなどの方が好きだったんですけど、1回普通の(芸術系ではない)大学を受験して失敗して、改めて自分の好きなものはなんだろうと考えたときに、やはり美術やイラストなどといった、何か作れる方に行きたいと思って。

私は、祖父がずっとアマチュアで画家をやっているので、昔から祖父と一緒に美術館に行く機会がありました。それが自然と今の「作ること」の中につながっている、という経緯があって。「学ぶもの」として、より奥が深いと感じた絵画を選択した覚えがあります。

なるほど。でも、志賀くんの所属する芸術学科は、「作る」というより美術学や美学を学ぶのがメインですよね。絵画科などではなくて、なんで芸術学科に行こうと思ったんですか?

これは家庭の環境が大きいです。本当は今でもコンプレックスに思うくらい、絵画科やデザイン科、あるいは私立のグラフィックデザイン科など、制作する方に進みたかったという思いは、すごくあって。

でも、家の事情で画塾や美術予備校には通えないし、受かる確率もとても少ないし、私立はお金がかかるし。それでもやっぱり、どんな形でもいいから自分は美術に関わりたいと思ったんです。自分は勉強が得意だったので、学問の方からも芸術に関わる道があることを知って、じゃあここ(藝大の芸術学科)を受けてみようと思ったのが受験のきっかけでした。

▲快くインタビューに答えてくれた志賀くん

「藝大生なんだけど、絵を描かないで受かってる」

芸術学科は二次試験(※)がデッサンと小論文から選べるという話を聞いたんですけど、志賀くんはどちらで受けたんですか?

※藝大入試では通常、センター試験後の二次試験から「一次、二次……」と数える。

私は小論文の方で受けてます。だから、藝大生なんだけど実は絵を描かないで受かってる。これ言うと、よく驚かれます。

絵を描くのが好きな人はたいてい制作の方に行くし、勉強がやりたいって明確な希望を持って受験する人が多いので、実際、芸術学科は小論文で受験する人が多いです。絵を描けない人もいます。私は全然描けない部類に入ります。

でも多分、通常「絵が描けない」で想像するタイプよりは、全然うまいんだろうなぁ(笑)。

芸術学科では、1~2年生のうちに大体の実技を一度経験するカリキュラムが組まれていて、その中で「あ、こいつは絵が描けないんだな」ってわかる(笑)。

作品を見るにあたって、どう作っているのか、作家がどう考えているのかを知るのはとても重要で、絵を描いたことがない人が絵画を見て批評しようとしても、うまくいかないことが多い。だからこそ一通り経験して、その中で興味を持ったものを専門としてさらに調べていくみたいな。彫刻、日本画、写真、油絵全部一通りやった。版画もやりました。

版画まで! 本当に幅広くやるんですね。

美術系の道に進むというと、どうしても「何かを制作する」というイメージになってしまうんですけど、「美術に興味を持ってるけど絵は描いたことないや」という人にも、学問としての美術に興味を持ってもらえれば、そういう道(芸術学科)もあるんだよってことは伝えたいですね。

作品とルーツ

「ずっと写真と絵画の違いや特性に興味がある」

せっかくなので、作品を見たいです!

ぜひ。前提として、制作はもちろん好きだったんですけど、私はそういう(制作メインの)学科でないので、そんなに数は多くありませんが……。

たしか、2017年のアートオリンピアに出していた作品がありましたよね。

ちゃんと調べてくれてるんですね(笑)。これですよね。

『上塗りされた記憶』(2017)

これは、私が影響を受けた作家のオマージュというか、ほとんどフォロワーみたいな形で。50号だから、1m×1mくらいのキャンバスに、印刷した写真を色で転写して、そこの上に絵の具を重ねていくっていう手法で作った作品。下の写真の、ほころびたところを絵の具で埋めていくみたいなことをやっていて。もう3年前か、びっくりですね。

これ、もう1個連作があって、賞をもらったのはこっち(上)の方だったんだけど、連作のもう1個の方が好きだったんですよね。こっち(下)の方がね、撮れた写真も気に入ってたのと、色合いも気に入ってたんですけど。

『補完された街角』(2017)

この2作品は違うことを意識して作りました? それとも、ほとんど同じように?

ほとんど同じ手法で2つ作って、どうなるかを試したかったんですよね。(アートオリンピアには)両方出してました。

今でもそうなんですけど、私はずっと写真と絵画の違いや、それぞれの特性に興味があるんです。それで自分でやってみようと思って、まずはキャンバスを用意して、そこに写真を置きながら、「手で描く」というのはどういうことかを考えて、上に(絵の具を)重ねていった作品ですね。

この頃はフィルムカメラをよく使っていました。2枚目の作品に使用した写真(を撮った日)は、めちゃめちゃいい写真が撮れた日だったことを今でもずっと覚えてます。

なるほど。

可能なかぎり、具体的なものから意味を剥ぎ取りたかったというのが大きい。匿名性を高めるというか。なので、できる限り特徴のないところを使いたかった。風景を写しつつも、ちょっとわからなくしたくて、こういう角度で切り取って使っていました。

私は、写真については過激くらいの考えを持っていて。正直今の時代、誰が撮ってもほとんど変わらないんじゃないかというか、全ての写真は等価であるくらいの考えを持っているんです。そこで、今皆が撮る意味や、「自分が撮らなきゃいけないものはなんだろう」というところにすごく興味があって。だから、あえて撮ったものを一度無価値に返すというか、綺麗な写真が撮れても背景にしてしまう、というようなことをよくやります。普通に、綺麗な写真を撮るのも好きなんですけどね。

そこまで写真に興味を持ったきっかけは何でしょう?

私がすごく好きな画家に、ゲルハルト・リヒターという人がいて。QuizKnockの記事でも、実は過去に出されたことがあります。近代以降、絵画は「写真があるならわざわざ描く意味ってなんだろう」という問題にずっと直面してきました。その中で、リヒターは写真というメディアを併用しながら、絵画の新しい形を提示できた人。

私がこの人の作品を最初に見たのが、高校生の時です。そのときはまだ美術に対する知識もなくて。ピカソとかはもちろん知っているけど、じゃあ結局「今」何すればいいんだよと思っていたときに、この人の絵を見つけたんです。「今ちゃんと、『絵』という何千年も続く媒体で、新しいことができるんだ」ということに、すごく衝撃を受けました。

この人の考えていることや作品を勉強しはじめると、この人が絵画と写真の関係を極めていることがわかって、なら「私も写真というものをちゃんと学ばないと、今絵画というものは描けないんだな」と気づいて、写真に興味を持ちました。

私、一番好きな絵がこれなんです。いつか本物をドイツに見に行きたいと思っています。

これは油絵で、リヒターの娘さんを写真で撮って、それを油彩画で起こして、さらにそれをぼかすというような、すごく手間のかかった工程を取っているんです。ただの人物画といえば人物画なんですけど、人を写し取ることと、ちゃんとそれを手で描くというところそこに至るまでの意味をすごく吟味したうえでこの形になっているところが、歴史に残るくらいすごいことだと思っています。私は、たぶん100年後の教科書にはこれが載っているんじゃないかと思っているくらい、すごく好きな作品ですね。

▲手振りを交えて解説してくれる志賀くん

まあでも、「リヒターが好き」というのは、実は現代美術の世界では超トップランナー、野球にたとえると「私はイチロー選手が好きです」と言っているのと同じ感覚なんです。だからちょっと恥ずかしさはあるんですよね。あんまり美術仲間に知られたくない(笑)。

次ページ:絵画、写真、短歌……と様々な表現をしている志賀くん。その違いは?

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この記事を書いた人

はぶき りさ

東京藝術大学音楽学部作曲科卒業、同大学別科オルガン専修を経て、同大学音楽学部器楽科オルガン専攻2年。世界で何千年も生き続けている「音楽」という文化に、少しでも興味を持ってもらえるような記事を書けたらと思います。よろしくお願いします。

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