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作品ごとの表現

「絵画は身体と関係あるということが切り離せない」

ポラロイドで写真を撮るのが好きなんですよね。ポラロイドが好きなのは、ノスタルジーを感じさせるから。インスタとかでレトロな写真が流行っていて、手で持てる物質感、リアル感があるみたいな媒体が注目されていたので、私も興味を持って使い始めたんですけど……。ポラロイドはたぶん3~4年撮り続けている気がします。

無題(2017)

これはコンセプトがわかりやすい写真。写真ってどうしても現実にあるものをそのまま写すと思われがちなんだけど、本当にそうなのかなというところをちゃんと考えたかったんです。

これはね、風景の写真なんですけど、実はゲームの中の風景を撮ってきている。自分が歩いて探索する形のゲームってあるじゃないですか。その景色って風景写真になり得るのかなということを考えて作った写真です。

ポラロイドって撮ったものがすぐ出てくるイメージだから即時性が強いし、現実を映し出す効果がとても強いと思っていて、だからこそそこであえて架空のものを写したら、実在のものに対する疑いみたいなものが生まれるんじゃないかなと思って作った記憶があります。結構ややこしい手法をとっていて、パソコンでスクリーンショットを撮ったものを加工して写したり、画像を焼く機械を使ったりして、調整してあります。

じゃあ、正確にゲーム内の景色であるというわけでもないんですね。

そう。もちろん、写真って結局はそこにある光に反応してなんらかの像を映し出しているだけなので、私たちの見えているものに近いかもしれないけど、たぶん別のものなんですよね。そこは分けて考えないといけないと思っていて。これ(作品)も、たぶん別のものだと私は思っています。

無題(2020)

これはちょうど今年作ったやつですね。やっぱり私は、絵画というものは手を動かすこと、身体と関係あるということが、どうしても切り離せないと思っていて。その要素だけでもどうにか抽出できないかと思って、キャンバスを用意して筆に絵の具をつけてバッとやって、そのストロークだけを一旦パソコンで抽出して、さらに写真に残しています。その、絵画の本質じゃないんだけど……。

身体性みたいなものが、ここに入ってるんだ。

そうそう、そういうこと。絵画のエッセンスみたいなものを、どうにか特徴的に抽出できないかと考えて作ったものですね。めっちゃ気に入ってるんだけどね、そんなに評価もらってないんだよね(笑)。リ・ウーファン(※)のものに似てるからなあ。見ながら考えて作ってました。

※ 韓国出身の美術家。「『もの』のあいだに自分の意思を介入させることで、素材同士の新たな関係性を提示する」という試みを実践する「もの派」の中心人物としても知られる。

▲バッとやっている志賀くん

影響を受けている幅が広いんだね。

めちゃめちゃ広い。もちろん今芸術学科という、美術を勉強してる学科にいるのもありますし、もともと美術自体が好きだったというのもある。今はやっぱり見る方が専門なので、影響を受けている幅も広いし、どっちかというと何かを語る方が得意かなと思います。

「短歌は自分が見ているものを作り出すことができる」

短歌の作品も見せてもらえたりしますか?

今回の新人賞で落選したやつなんですけど(笑)。これは、50首で1作品のものですね。

『パニック・ポップ』(2020)

ほんと脈絡もなく全部好きなんですよ、芸術に関わることが(笑)。

でもその中で、私はやっぱり媒体ごとの違いにすごく興味があります。この媒体だと何が表現できて何が表現できないのか、という可能性にすごく惹かれる。だからこそ自分で写真もやるし、絵画もやるし、短歌も書いてみようと思って。「これはここと繋がってるな」とか、「これでできたことがこっちではできないな」とわかる瞬間が、すごく好きです。

それをまさに今日聴きたかった(笑)。志賀くんは、表現手法をたくさん持っているわけじゃないですか。手数がたくさんある中で、どんなときにどんな媒体を使っているのかを聴いてみたかったんです。例えば、写真を撮りたいという衝動と、短歌を書きたいという衝動は、同じなのか否か。

なるほど……。それは、結構違いますね。

写真は、私にとっては世界の見方みたいなものをどう考えるかに結びついていて、例えば何かの光景を目にしたときに自分は今どう見てるのかなということを見つめ直すために撮ることが多い。撮ったり、印刷したりもそうなんですけど、それと現実とを比べると自分の視点がわかるというか、世界を見る目を考え直すことができる

一方で、短歌は逆に自分が見ているものを作り出すことができる。「こう見えるんだぞ」ということを書くことによって世界を作り出すという感覚で、結構逆のことをやっているイメージがあります。

やっぱり文章の強いところは、受け取る人によってどうにでも受け取れたり、受け取る人が読むことによって世界を作るという工程がちゃんとあるところだと思うんです。世界そのものを作れてしまう自由度は、すごく大きいと思います。特に短歌はそれを31字という短い中に押し込めることができるから、とても興味深い。短歌(を書く人)もいろんな人がいるので、昔ながらの「情景を見てそれを綺麗に詠む」ことをやっている人も、もちろんいます。けど私は、むしろ作り込むというか、「こんなふうにも見えるんだぞ」ということを強烈に作っていく、ということが短歌のできることかなと思っています。

なるほど。(短歌の方が)アウトプット的側面が強いのかな。

そうですね、すごく強い。

ちなみに、お気に入りの短歌ってありますか?

どっちみち悲劇に違いないのだし撃たれた方の話がしたい

ツイッターのプロフィールにも書いてあります。あんまり短歌では詠まれない内容ではあるんですけど……。これは五七五七七の定型にある中で、散文チック、要するに昔の文語調の「~かな」や「~けり」じゃなくて、小説の一部を抜き出してきたみたいに見せる手法をとっています。「どっちみち」という投げやりな感じで、何らかの悪いことが起こっている中で、被害者の方に注目したいということを言っていて。結局具体的なことは何も明かされていないし、何のこっちゃわからないけれど、この31字で前後の感覚をいくらでも広げることができるということが、自分の中でうまくできたなと思っています。その点ですごくお気に入りです。

▲志賀くんのTwitterプロフィール

大々的なテーマになってしまうんですけど、何か悪いことが起きたときに、加害者の方が正義の名の下に糾弾されるということが起こる中で、ちゃんと撃たれた方というか被害者の方に目を向けるみたいな意思も、明確ではないけど、入れられたかなと思っています。

短歌のいいところって、メッセージをどストレートに伝える必要がないところなんです特に連作の場合そうなんですけど、1首で自分の伝えたいことを伝えなくても、ちゃんと世界を広げて向こうに汲み取ってもらえたり、徐々にわかってもらえるように作り込んでいったりすることができるのが面白いなと思っていて。そういうことができたかなと思っている1首ではあるかな。

確かに、歌に余白がある感じがする。

歌人の方の中でもスタイルが分かれるんですけど、私はそういうところが短歌の面白いところだと思っています。

芸術とこれから

最後に、これから芸術とどう関わっていきたいかを聴かせてください。

これはね、毎日めちゃめちゃ悩んでいる(笑)。本当のことを言うと、やっぱりずっと何かを作っていたいという思いがずっとあって。それができるかはすごく不安なところもあるんですけど、昔の「偉人」と呼ばれるピカソとかの作品や、今一緒に活動している友達とかの作品を見てきた中で、どうしても何らかの形で美術を支える側にはつきたいなとは思っています。

今の段階では、展覧会をする側なのか、何か事業という形でサポートする側なのか、それは全くわからないんですけど……。自分にとって美術そのものはとても面白いものなので、それを多くの人に知ってもらえるようにしたいし、今頑張っている人たちが報われるように、手助けができるような美術への関わり方ができたらなと、ずっと思っています。

自分がQuizKnockで活動している中で、「志賀さんきっかけで美術館に行くようになりました」と言ってくれる人がいるのがすごく嬉しくて、今後もそういうことができたらというのはすごく思っていることですね。

それも支える活動の一環になっているもんね。

そう。「美術館に行って楽しかった」と言われると「良かったな」と思えるので、それはずっとやっていきたい。

私はよく展覧会のレビューとか載っけているんですけど、あれは実は結構読者を意識して書いています。わかりやすい言葉で特徴的に書いていて、書いている展示も今行ったら少しでもプラスになるものを選んでいるんですよね。それをつぶやいた後に「志賀さんが紹介していたやつこないだ行きました!」というリプライをもらうと、やっぱりとっても嬉しいです。

美術のいいところって、私が直接伝えても全ては伝わりきらないんですけど、人それぞれの触れ合い方ができる、同じ絵を見ても違う受け取り方ができるところ。私が紹介した展示でも、ちゃんとその人なりに考えて受け取ってくれるというところが、すごくいいところだと思っています。結局、私ができることは入口を紹介することだけだけど、ちゃんとそこに踏み込んでくれる人がいるのが何よりだと思います。

ありがとうございました!

芸術をもっと身近に

芸術との関わり方は無限にあります。表現することも、それを助けることもそうですが、鑑賞は一番身近な関わり方で、その原点です。今回の記事が、皆さんの芸術との関わり方のヒントとなることを願っています。

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この記事を書いた人

はぶき りさ

東京藝術大学音楽学部作曲科卒業、同大学別科オルガン専修を経て、同大学音楽学部器楽科オルガン専攻3年。世界で何千年も生き続けている「音楽」という文化に、少しでも興味を持ってもらえるような記事を書けたらと思います。よろしくお願いします。

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