人生は一度きりしかない。
言うまでもなく当たり前のことです。人は一人の人生を、一回生きて一度死にます。
ですが、もしも何度も違う人生を生きることができるとしたら。それはとっても楽しいことだと思いませんか?
本はそんな経験を可能にしてくれます。
「小説を読むことは、その小説の主人公の人生を生きること」だと、図書館の司書である私の母は教えてくれました。
自分と全く違う人生を歩む主人公に憧れたり、自分と似た境遇の主人公に時には助けられたり。本を読めば読むほど広がる世界が、私は幼い頃から好きでした。
というわけでこんにちは、志賀です。
私は小学校中学校と図書室に入りびたる毎日をおくっていました。本の中にひとたび入り込めば、人はヒーローにも悪役にもなれるのです。私にはそれがただひたすら楽しかったのです。
(できることなら『はてしない物語』のバスチアンのように実際に本の中に入りたかったですけどね。)
残念なことに高校進学以降、部活や勉強に追われ純粋な読書量は大幅に減ってしまいました。
しかし今では小説以外にも授業で使う文献や新しい趣味の雑誌なども読むようになったことで、読む本の幅自体は増えています。どうも本とは一生縁が切れそうにないようです。
さて今回は「東大生の本棚」番外編とのことで、私の本棚に並ぶ本からオススメの本、お気に入りの本を紹介させていただきます。せっかくなので美術にちなんだ本をチョイスしてみました。
『楽園のカンヴァス』原田マハ
第25回山本周五郎賞受賞作。美術好きにはもちろん、そうでない人にもオススメのミステリー。
美術に関わる仕事をするのは、なにも絵を描く画家だけに限りません。作品を売買して生活するギャラリスト、作品を守る美術館の学芸員、そして画家と絵そのものの真実を追い求める研究者。
この小説『楽園のカンヴァス』の主人公・早川織絵はアンリ・ルソーという画家の研究者です。彼女は一枚の絵の所有権をかけて、絵とルソーにまつわる謎に巻き込まれることに……。絵と画家、現実と創作とが交錯し織りなす秘密に挑む美術ミステリー。
作者の原田マハは早稲田で美術史を学び、美術館で勤務していたまさに「業界の人」。
やはり専門性を持っている人がその世界を題材にして書いた本はリアリティがあって面白いものです。読み終える頃にはあなたもきっと絵の虜、かも?
『美術手帖 これからの美術がわかるキーワード100』美術出版社
美術の今を知るならこれ!今年で創刊70周年目になる老舗雑誌。
ファッションだって芸能だって、流行に追いつくには雑誌を読むのが一番です。では美術なら?
毎号様々なジャンルの最新の美術を特集し、わかりやすく伝えてくれるのがこの美術手帖です。
私は表紙を見て気に入ったテーマの号だけ買ったりしています。(それでも今では本棚にずらりとバックナンバーが並ぶ状態になっていますが……)
現在開催中や開催予定の展覧会のスケジュールやレビューがまとめてある点もありがたく、それを読んで「次は何を見に行こうか」と考えるのも楽しいものです。
2017年12月号の特集「これからの美術がわかるキーワード100」は、今美術で話題になっているキーワードをまとめて解説した特集。
震災や難民問題、SNSの普及など社会が大きく変化する現在、それにまつわる表現の方法も変わり続けます。キーワードを通して今の世界をそんな「表現」の側から見てみてはいかがでしょうか。持っておいて損はない一冊だと思います。
『劇場』又吉直樹
『火花』で芥川賞を受賞した又吉直樹の、第二作目となる恋愛小説。
私は昔から太宰治が好きでした。太宰治の小説は自分だけしか知らないと思っていた悩みや葛藤を、全てお見通しだと言わんばかりにえぐってくるのです。
同志といっては何ですが、お笑いコンビ・ピースの又吉直樹もそんな太宰治のファンを公言しています。芥川賞をとった『火花』でも二作目となる『劇場』でも、彼の小説には太宰の影響が見てとれます。一番の大きな特徴は、又吉が「"弱い者"の心を映す」点だと思っています。
『劇場』は演劇の世界で生きる若者たちの青春を描くストーリー。主人公の永田はひょんなことからであった女性・沙希の家に転がり込んでヒモとして暮らしながら演劇と向き合う、典型的な"ダメ人間"です。
しかしそんなダメ人間・永田の心がなぜか分かってしまう、感情移入をしてしまう。又吉の文章の怖いところです。美術ではありませんが演劇という創作の世界での人間模様も私には他人事とは思えず、身にしみるものでした。
太宰治の文章が多くの人に影響を与えたのと同じように、太宰から影響を受けた又吉の文章が、また多くの人の心に響くようになるのでしょう。
お笑い芸人・小説家として二足のわらじを履いて活躍する彼の、これからの活動に目が離せません。
以上私の本棚に並ぶ三冊を紹介させていただきました。このコーナーもまだ3人しか書いてませんが、すでにライターの個性が見えてきて面白いですね。
紹介した本を読んでくれるのはもちろん嬉しいですが、それ以上にこの記事を読んでくださる方の「自分自身の本棚」が出来上がることを一番に祈っています。それでは。