\ 連載「クイズを味わう」 /
「クイズ」は、物知りな人が解いて答えるだけのもの? いやいや、問題に込められたメッセージや「たくらみ」を見つけるのも、クイズの楽しみ方のひとつ。
毎回1問のクイズを取り上げ、「いいクイズ」「面白いクイズ」の秘密をひもときます。毎週金曜日のお昼に更新予定です!
今回取り上げるクイズはこちら。

QuizKnock主催のクイズ大会「WHAT」2022年大会の1問です。早押しではなく「8時間耐久ボードクイズ」というラウンドの中で出題された問題で、参加者は1分ほどのシンキングタイムで解答することを求められました。
皆さんはこの問題の答えが何か、わかるでしょうか?
正解は「タイヤ(スタッドレスタイヤ)」です。
スタッドレスタイヤ(雪道などでも安全に走行できる冬用のタイヤ)は一定以上すり減ると走行できなくなるため、定期的に溝のすり減り具合を点検する必要があります。百円玉を溝に差し込んで、硬貨に書かれた「100」の頭の「1」が溝からはみ出してしまう場合はそろそろ交換の時期だということです。

さてこの問題、解答・解説を見る前と後で、問題文のわかりやすさにかなり差があったのではないかと思います。
クイズとして答えを考えている段階では、いろんなことが少しずつわからない問題文になっています。百円玉をどんな場所に差し込むのか、「数字の1」はどこに書いてあるのか、「1が見える」ということは何を意味するのか。
しかし、不確実な推測を重ねて、「これって自動車のタイヤの話じゃない?」と思いつくことができた瞬間、あるいは正解発表を聞いた瞬間、もう一度問題文を読み返すと、何の話をしているかすっきりと理解できるようになるのではないでしょうか。
この、問題文の描写に対する解像度の変化が、この問題の味になっていると思います。
クイズ作りの「2ステップ」
ところで、クイズを作る作業を、「カッターナイフを2本使って、紙からドーナツ状の円盤を切り抜くこと」にたとえて考えてみましょう(クイズに答えるのは、出題者が決めた「ドーナツの穴」にぴったりはまる紙片を提出する遊びだ、ということです)。

【1/2】世界から「ある事実」を切り出す
1本目のカッターは、ドーナツの「外側の輪郭」を切り抜くことに使います。事実の集合である世界から、クイズの題材にする事実を切り出してくるということです。
タイヤの問題で言えば、「タイヤの点検には百円玉を使うことが多い」という事実を見つけてくることにあたります。

【2/2】選んだ「事実」をくり抜いて、「答え」の輪郭を決める
そして、2本目のカッターは、ドーナツの「内側の輪郭」を切り抜くことに使います。これはつまり、何を答えにするかを決めるということです。
今回の問題では、「タイヤの点検には百円玉を使うことが多い」という事実をもとに、「タイヤ」の部分を答えにすると決めて問題文が書かれています。

実際にクイズを作った経験がないとピンときづらいかもしれませんが、例えば今回のタイヤの問題では、同じ事実から、次のような問題を作ることもできます。
自動車のタイヤは使い続けているとすり減って使えなくなるため、定期的に点検が必要です。
その点検によく使われる、多くの人のカバンの中にある身近なものといえば何でしょう? 答え:硬貨
自動車のタイヤの点検を行う際に、百円玉を使うことがありますが、具体的にはどのようなことをチェックするために使うでしょう? 答え:タイヤのすり減り
このように、何を答えにすると決めるか(内側の輪郭をどう設定するか)によって、まったく違う問題ができあがります。ある事実をクイズに加工する際、何を答えにするかというのは、あらかじめ決められていることではなく、クイズの制作者が意図を持って設定すべきことなのです。
「切り取り方」を調節する
今回の問題では、解像度の変化という「味」をもたらすために、「外側の輪郭」「内側の輪郭」のそれぞれの切り取り方を調整しています。「事実をどう説明しているか」「何をクイズの答えにし、それをどう伏せているか」という点に注目して、今回の問題をさらに詳しく見ていきましょう。
仮に「味」について考えず、少し親切に問題文を書くとするならば次のようになるでしょう。
“溝の部分に”百円玉を差し込んで、“百の位の「1」が隠れなくなってきたら”買い替え間近。さてこれは、何の点検方法?
「百の位の『1』が隠れなくなってきたら」とあれば、「1」が百円玉に書かれている数字であることも、何らかの大きさ(この場合は溝の深さ)が変化したことも読み取りやすくなるでしょう。しかしここでは一筋縄ではいかない問題になるよう、「外側の輪郭」の調整の一環として、「数字の1」の出どころをわざと曖昧にする選択をとりました。
また「溝の部分に」とあれば、答えは「溝のあるもの」であることがわかりやすくなります。「百円玉を差し込む」という描写も、たとえば貯金箱にコインを入れるというような動作ではないということのヒントになるでしょう。
この「溝の部分に」をあえて書かずに問題文が成立しているように感じられるのは、「内側の輪郭」が巧みに調整されているからです。実はこの問題文の1文目は、「タイヤの溝」についての話と「タイヤ全体」についての話が混ざり合った状態で記述されています。

通常、このような不安定な記述があるとクイズとして成立するかどうかが怪しくなってくるのですが、ここで鍵となるのが2文目冒頭の「さてこれは、」です。このフレーズが、このクイズ全体を「タイヤ全体」の話として方向づけることで、半ば強引にこの怪しさを解決しています。
まとめるならばこの問題は、クイズとしての辻褄を「さてこれは、」というフレーズによってギリギリ維持しながら、「数字の1」の出どころを曖昧にしたり、「内側の輪郭」を多めに削り込んだりすることでヒントの量をうまく調整することに成功した問題である、と言うことができるでしょう。
よい問題を作るためには、「2本のカッター」を自在に操る必要があるのです。
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今回は、クイズを作るうえで考えていることを「ドーナツ状の円盤」にたとえてお話ししてみました。
何かをするとき、人はふつう多くのことを無意識に、感覚的に処理しています。しかし、わたしはその処理をなるべく意識的にコントロールしたいと考えます。そのために、あの手この手を使って認識を深めていくのは、非常にロマンに満ちた営みです。
これはクイズに限った話ではありません。みなさんも、自分の愛するカルチャーやコンテンツについて、このようなことを考えてみるのはいかがでしょうか。
(文・森慎太郎)
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