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クイズを愛する人たちにはそれぞれ、色々な形の「思い出の1問」といえるクイズがあるものです。大会で優勝を決めた栄光の1問、人生初の早押しクイズで正解した始まりの1問……。

しかし、僕が決まって思い出すのはある1問の誤答です。

それも、「その誤答のおかげで最後は勝利を掴めた」とか、「いまや笑い話になってるけど」とか……そんな良い感じの話ではありません。それはどこまでいっても泥にまみれた誤答で、僕の大学時代のクイズはこの誤答によって、最大の挫折とともに幕を閉じました

今日はそんな僕の後悔と、それでもクイズが好きでい続けられる理由を語ろうと思います。

日本一奪還へ、任されたのは「アンカー」

僕の「思い出の1問」が訪れたのは、「EQIDEN2021」というクイズ大会でのこと。

EQIDENエキデンは、学生クイズサークルの日本一を決める年に1度の全国大会です。最大10人1チームの団体戦で、早押しクイズに正解するとに次のメンバーに交代、たすきリレーの要領でいち早くアンカーの選手がゴールしたチームが優勝となります。

僕が所属していた京都大学クイズ研究会・Mutiusは、2018年に日本一に輝きましたが、それから2年間は優勝から遠ざかっていました。

それだけに、2021年に大学4年……つまりラストイヤーとなった自分の世代のメンバ-は、EQIDENに懸ける思いも並大抵のものではありませんでした。

今年こそは、京大に『優勝』を持ち帰るんだ……!

メンバーの誰もがそう思っていたはずです。

▲「2018年の栄冠をもう一度」が合言葉だった

そんなチームで、僕は第10区・アンカーを任されていました。9人の仲間が繋いでくれたたすきを受け取り、優勝に向けた「最後の1問」を答えるという重要な役回り……不用意な誤答が少なく、安定感のある僕のクイズスタイルが評価されての選出でした。

僕は大きな責任を感じながらも、大学時代のキャリアを飾るラストイヤーにこれほど大事な走順を任せてもらったことが、素直にうれしかったのを覚えています。

そして、そんなチームメイトの期待になんとしても応えたいと、そう思っていました。

運命を変えた「1問の誤答」

いよいよ大会当日がやってきました。

京都大学は無事に予選を突破。プレッシャーのかかる決勝ラウンドでもメンバーが躍動し、他チームを圧倒する勢いでトップをひた走ります。

もしかしたら、いけるんじゃないか……!

僕らの脳裏に、「優勝」の2文字がちらつきます。

問い読みと正誤判定を務めるスタッフが、かつて優勝を経験した京都大学の先輩だったことも僕らの士気を上げ、早押しを一層鋭く磨き上げていました。

「日本一まであと1問」のところで

京大チームがリードを保ったまま、最終走者である僕にたすきがつながりました。2番手の東京大学が迫ってきてはいましたが、僕がノルマの2問正解すれば優勝が決まるという状況です。

▲右が筆者。強豪・東京大学を追い詰めていた(写真提供:abc/EQIDEN実行委員会)

わかる問題で確実にボタンを押していけば、このまま逃げ切れるはず……!

そのプラン通り、他校がギアを上げるなか僕は堅実に1問を奪取し、京都大学は優勝に王手をかけます。

あと1問、最後の1問。それを勝ち取れば、僕たちが優勝できる。

上がる心拍数を抑えながら、次の1問をとることだけに意識を集中させます。

▲写真提供:abc/EQIDEN実行委員会

そして、その瞬間はやってきました。

「問題。序曲『18(せんはっぴゃく)ーー」

自分でも惚れ惚れするような、申し分ない押しでした。ここまで聞けば、答えは確定したようなもの。あとは序曲『1812年』の作曲家の名前を発するだけ……。いつもの僕なら、事もなげに正解することができたはずの完璧なポイントでした。

しかし、その日その時その瞬間、僕はどうしてか、この問題の答えを思い出すことができませんでした。

▲なぜか、なぜか答えが出てこなかった(写真提供:abc/EQIDEN実行委員会)

ど忘れしたり答えが飛んだりすることは、クイズをやっていればよくあることです。しかしそれが、僕にとって最悪のタイミングで降りかかりました

体中から冷や汗が吹き出すのを感じ、うめくような声でとりあえず頭に浮かんだ別の作曲家を答えるも、あえなく誤答。ペナルティとして、4問のお手つきが課されます。

優勝が決まるかどうかという最終盤の局面で、この足踏みは致命傷に等しいものでした。

問題の正解は「チャイコフスキー」。今まで何度も答えてきた人名で、これを誤答するなんて、おそらくクイズ人生で初めてのことでした。

ピョートル・チャイコフスキー:序曲『1812年』や、バレエ音楽『白鳥の湖』を手がけたロシアの作曲家。

何とか望みはつながるも……

頼むから少しでもチャンスが残ってくれ……そう思いながら何もできずに4問を見逃す時間は、たまらなく惨めだったのを覚えています。

何とか首の皮一枚つながって戦線に復帰した僕でしたが、最後は東京大学のアンカー・寺内くんの勢いを止められず、逆転優勝を許してしまったのでした。

▲大逆転で、優勝は東大の手に(写真提供:abc/EQIDEN実行委員会)

敗北のあと

歓喜に沸く東京大学の面々を見ながら、僕は壇上で崩れ落ちました。駆け寄ってくれたチームメイトにも、悔恨と謝罪の言葉しか返すことができませんでした。

自分の誤答によって、チームを負けさせてしまった。自分があそこで思い出せていれば、今頃優勝インタビューを受けていたのは我々だった。

あまりの情けなさと申し訳なさに涙があふれ、ボタンの前にうずくまることしかできませんでした。本当に、最終走者に相応しくない姿だったと思います。

僕はまともに歩くこともできず、チームメイトに肩を持たれて降壇しました。

▲写真提供:abc/EQIDEN実行委員会

その後の観客席では、同期、後輩、観戦に来ていた先輩……様々な方々に慰めや励ましの言葉をいただきました。その言葉全てが心にしみましたが、それだけ僕のことを気にかけてくれている仲間たちの優しさに報いることができなかった悔しさ、情けなさがこみあげ、それがまた涙となってあふれました。

数十分後には、EQIDENと同日開催の個人戦である「abc」が始まります。しかし、僕の頭をよぎるのは「自分のチームをあんな風に負けさせたやつが、個人戦を楽しんだり、ましてや勝って喜んでいいはずがない」という自責の念ばかり。

そんなメンタルでクイズがうまくいくわけもなく、僕はほどなくして敗退。暗い罪悪感と後悔を抱えながら、僕の学生クイズキャリアは終わりを告げました

それでもクイズは辞めなかった

EQIDENが終わってからしばらくは、よく悪夢を見ました。誤答の瞬間を思い出すものと、あの問題を正解して僕らが優勝した「もしもの光景」を見るものの2種類。後者の方が、目が覚めた後キツかったです。

しばらくは、クイズの問題集を見るのも嫌でした。

しかし、それでも僕はクイズを続けました。不思議と、辞める選択肢はありませんでした。

それはひとえに、たくさんの方からもらった励ましの言葉が心に残っていたからです。

シャカ夫さんでダメだったんだから誰がやってもダメでしたよ!」と言ってくれた後輩も、「このチームで優勝したかったなぁ……」と一緒に泣いてくれた同期も、「チームの負けなんやから、お前1人が背負うもんじゃない!」と激励してくれた先輩も、クイズをやっていたからこそ出会うことができたかけがえのない人たちです。

それなのに、自分からその縁を捨てちゃったら誰も幸せにならないし、めちゃくちゃカッコ悪い……そう思ったのです。これだけ温かい声をかけてくれる人がたくさんいる世界に、もっと身を置いていたい、と。

僕は、クイズで得た縁を大切にしたいという想いから、クイズを続けることに決めました。もともとは「テッペンをとるんだ」という気持ちで足を踏み入れた世界でしたが、もっと大切なことに気づいた今は、前より明るい気持ちでクイズに向き合えているのではないかと感じています。

1年後

それから1年後、EQIDEN2022にて京都大学は悲願の優勝を果たしました

▲写真提供:abc/EQIDEN実行委員会

そのチームには、1年前にも出場していたメンバー……僕が優勝させてあげられなかった後輩たちも名を連ねていました。

1年前に僕を涙させてしまったことをひどく悔しがっていた一学年下の後輩も、やっとつかみ取った優勝の喜びに身を震わせていました。

そのとき僕は、やっと少しだけ救われた気持ちになったんです。勝手に、ではありますが。

その優勝が、他でもない後輩たちだけのものなのは百も承知です。それでも、彼らの喜ぶ姿をスタッフ席から見ていて、真っ先に僕の口をついて出てきたのは「ありがとう」という感謝の言葉でした。僕が見られなかった景色を見せてくれてありがとう、と。

2023年12月現在、僕はまだクイズを続けています。辞める予定は、今のところありません。


思いなんて案外と報われないものですが、何事も楽しむ心を忘れないでいきたいですね。

「思い出のクイズ」のバックナンバーはこちらから。

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この記事を書いた人

シャカ夫

京都大学出身。クイズと毒とホラーが大好き。見るだけで世界が広がるような知識を皆さんにお届けできるよう、日夜頑張ってまいります。

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