こんにちは、服部です。
突然ですが、「刑務官」という職業は聞いたことがありますか?
ほとんどの人には馴染みのない言葉だと思います。刑務官とは、刑務所や拘置所の運営・管理に関わる公務員のこと。 最近では、TBS系ドラマ『監獄のお姫様』で満島ひかりさんが刑務官役を演じていることも話題です。
今回は、なかなか目を向けることのない刑務所での仕事を見てみましょう。
目次
刑務官とは
冒頭で書いたように、刑務官とは、刑務所や拘置所を管理する職業。
刑務所や拘置所は、法務省の「矯正局」という部局が管理していて、刑務官もそこに属します。つまり、警察官とは全く別の仕事です。
私たちはよく「看守」という呼び方で耳にしますが、看守というのは本来「刑務官」の階級の1つです。刑務官のなかで1番下の階級が看守で、主任看守、看守部長と上がっていき、一番上は矯正監。
多くの人は現場の刑務所で働いていますが、出世の途中で、本部である「矯正局」に出向いて働く刑務官もいます。
「刑務所」と「拘置所」の違いはわかっていますか?
刑務所は、既に裁判が終わり、刑罰が確定した人が服役する施設。懲役や禁固、拘留などの刑罰が該当します。
対して拘置所は、まだ裁判が終わっていない被告人が一時的に収容される施設です。人が逮捕されると、まずは警察の留置所へ、取り調べが終わって検察に起訴されると拘置所へ、そして裁判が終わって刑罰が決まると刑務所へ、という順に収容されます。
では、死刑囚は、刑務所・拘置所のどちらに入ると思いますか? 国によって違いはありますが、日本の死刑囚は拘置所に収容されていて、死刑執行施設も拘置所に存在します。
刑務所の一日
一般的な受刑者の一日をたどりながら、刑務官がどんな仕事をしているのか見てみましょう。
06:30頃 起床、点検
6時半ごろに刑務所の一日が始まります。起床して、洗顔やトイレなどを済ませます。
「点検」とは、人数を数え、逃走者がいないことや、受刑者一人ひとりの健康・精神状態を確認すること。刑務官は、担当しているの受刑者の状態を常に把握し、身柄を確保しておくことが求められます。
朝食は、点検が終わってからになります。
07:30~16:30頃 工場などで刑務作業
受刑者には、洋裁や木工、炊事などの刑務作業が課せられます。罰としての面だけでなく、規則的に勤労させることで受刑者の健康を保ったり、更生と社会復帰を促進する目的もあります。
ただモノを生産する単調な作業だけでなく、出所後の職業を安定させるための訓練や、所内の炊事・洗濯を行うこともあります。なんと、刑務所内で職業訓練を受けて、資格を取得するための勉強ができるんですね。
とはいえ、刑務所内なので規律はキッチリ。刑務官は、常に全ての受刑者が精を出しているか目を光らせ、工場への移動も整列して行われます。
「懲役」と「禁固」の違いは、懲役では刑務作業が課せられ、禁固では課せられないところです。
懲役のほうが重い刑とされていますが、禁固では刑務官の監視が常につきまとうので、願い出て作業に従事する例が多いようです。
16:30頃~ 余暇時間
刑務所では余暇時間が設けられ、受刑者が娯楽を楽しむというのはご存知でしょうか。テレビやラジオを視聴したり、読書をしたり、受刑者同士で集まってクラブ的な活動をするなど。通信教育などを取って自習する人もいるそうです。
この余暇時間にも、刑務官はその内容にキッチリ目を光らせています。所定の時間にテレビのチャンネルを操作したり、監房に持ち込まれている物品をチェックしたり、受刑者同士の物品の受け渡しなどがないかを常に監視しています。
夕食のあとに再び「点検」をしたうえで、22時頃が受刑者の就寝の目安です。
刑務官の仕事は苛酷
犯罪者と接する特殊な環境ゆえ、刑務官の仕事にはハードな部分が多々あるといわれます。
処遇困難者の存在
おそらく刑務所のハードさと言って真っ先にみなさんが想像するのは、いわゆる「処遇困難者」がいることでしょう。精神的・身体的に問題を抱えていて、刑務所での集団生活になじまない人々です。
刑務官の言うことを聞かない人、気性が荒くキレやすい人、薬物依存によってフラッシュバックを起こす人など、抱える問題は様々。挙げたうちのはじめの2ケースは、懲りずに圧力をかければよいでしょう。
しかし、薬物依存者や精神不安定な受刑者にあまりに強い態度で接すると、受刑者が自殺することもあり得ます。刑務所では、脱走と並んで、受刑者の自殺も絶対に避けるべきとされます。
刑務官は、時には毅然として、また時には慎重に、バランスを考慮しながら受刑者と接する必要があり、大きなストレスになります。受刑者一人ひとりの状態を把握し、それぞれの社会復帰を探るという点で、学校の先生に少し似ているのかもしれません。
刑務官の上下関係
刑務官の間でも、階級や経験年数によって厳しい上下関係があります。階級が自分より上の人に敬礼をし、常に報告を心がけることが求められます。
上の指示が下まですぐに届く、軍隊のような厳しい規律によって、何か異変があったときに一致団結して対応できます。また、刑務官たちが規律を重視し厳しい雰囲気を作っていれば、受刑者も自然とそれに従いやすくなります。
受刑者との関係
見かけ上ではまったく問題のない受刑者でも、刑務官の態度によっては重大な問題に発展することがあります。
たとえば、特定の受刑者と不用意な私語を重ねていくとどうでしょう。長い時間をかけて、無意識にその受刑者への扱いが甘くなっていくかもしれません。受刑者に「一度見逃した」という失敗や弱みを握られ、上司に言うぞと脅されることが続くと、それが不正に発展していきます。
刑務官にも規律があると言いましたが、それを守らなければ、行政処分が下ったり、刑務官自身が起訴されることもあります。
不正を起こさないために、刑務官自身が隙のないよう、常に自衛しなければなりません。また、不正を起こさないためにも、上下関係を基本とした、刑務官同士での素早く正確な報告が欠かせないのです。
ハードな刑務官のお仕事、果たしてそのお給料は……? 法務省のサイトによると、一般の国会公務員に適用される給与体系より12%ほど高い水準の給与が与えられるとのこと。東京都特別区(23区)の場合の初任給は20万ほど。もちろん地方によっても違ってきますが、派手に高いというわけではなさそうです。
おわりに
刑務所の中というのは想像もつきにくく、あまり良いイメージもないかもしれません。そんなところで働く人々というのは、もっと分からないかも。もちろん、皆さんがこういった場所と関りを持たないことが望ましいでしょう。
しかし、「人々を更生させる」という使命を持った人々が、厳しい状況をなんとか打開しようと働いていることは、頭に入れておいてよいと思います。
◇参考文献
外山ひとみ著『ニッポンの刑務所』、講談社現代新書、2010
西田博著『刑務官へのエール~法務省"刑務官"局長のひとりごと~』廣済堂出版、2014