新海誠監督のアニメ映画『すずめの戸締まり』。興行収入147.9億円を記録した昨年(2022年)の大ヒット映画です。
この映画は今年(2023年)の9月を舞台として、12年前に起きた東日本大震災を描いたことでも話題となりました。そう、
▲東北で生まれ、幼少期に東日本大震災を経験した17歳の鈴芽が、全国各地の「災い」のもととなる扉を閉めていく冒険を描いた物語
そして、「今」からちょうど100年前の9月1日に、関東大震災が発生しました。関東大震災は、死者・行方不明者が約10万人にのぼった日本の歴史に残る大災害です。
大正時代の日本に大きな打撃を与えた関東大震災は、後世の多くの作品に影響を及ぼしています。冒頭で紹介した『すずめの戸締まり』のほかにも、ジブリ映画『風立ちぬ』や長年お茶の間に愛される『こちら葛飾区亀有公園前派出所』など数々の作品の印象深いシーンに描かれてきました。
▲『風立ちぬ』(画像出典:スタジオジブリ)
この記事では、防災を専門とするライター・ユウが、これらの人気作品を通して関東大震災の被害や復興を紐解いていきます。
ユウ:東北大学大学院の博士課程で防災を研究している。震災や防災を学びたくて東北大学に進学した。
※これ以降では、地震・津波を想起させる描写があります。また、各作品のネタバレを含みます。ご了承ください。
100年前に関東を襲った大地震と火災
『すずめの戸締まり』では、主人公の
▲ダイジン(猫)を追って東京へ via PRTIMES
そこで、鈴芽と一緒にダイジンを追っている草太は、文献を読みながらこんなことを口にします。
「東京の要石のある場所には、巨大な後ろ戸もあるという。百年前に一度開き、関東一帯に大きな災害を起こし、当時の閉じ師たちによって閉められたという、東京の後ろ戸。もしかしたら——」
ここで語られている100年前に起きた関東の災害が、関東大震災です。1923年(大正12年)の9月1日のお昼ごろ、マグニチュード7.9の大きな地震が発生しました。この地震によって、横浜や東京を中心に約37万棟の住宅が被害を受け、約10万5000人が犠牲になりました。
▲関東大震災の概要(画像出典:内閣府防災担当HP)
死者・行方不明者の数や住宅被害の規模で比べると、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災よりも被害が大きかったことがわかります。
犠牲者の9割が火災で亡くなる
ここまで大きな被害が広がった理由は、揺れの大きさだけではありませんでした。犠牲者の約9割もの人が命を落とした原因は「火災」でした。
関東大震災の火災による被害は、大正から昭和時代を舞台としたスタジオジブリの映画『風立ちぬ』(2013)にも描かれています。以下の画像からも、黒煙が立ち上る街から避難する人々の様子がわかります。
▲人々は、密集した住宅街から線路の上に避難している(画像出典:スタジオジブリ)
火災による被害が広がった理由は、木造住宅の密集、昼食準備時の地震、台風による強風などの様々な理由が考えられています。火災のほかにも、関東大震災は津波や土砂災害、液状化なども発生した複合災害でした。地震や火災以外もあったなんて意外ですよね。
『風立ちぬ』が描く当時の避難
鈴芽の100年前を生き、関東大震災を経験したのが『風立ちぬ』の主人公の堀越二郎です。彼もまた、地震や火災からの避難を強いられた一人でした。
▲眼鏡をかけているのが主人公の二郎。ヒロインの菜穂子の付き人をおぶって汽車から逃げている(画像出典:スタジオジブリ)
しかし、ここまでの2枚の画像はなんだかおかしい。史実に即していないとかそういうことではありません。この画像は、100年前の避難の常識と現代の避難の常識が異なることを教えてくれています。
皆さんはどこがおかしいのかわかりますか?
▲ヒント:黄色の丸で囲んだ部分が現代とは異なるところです(画像出典:スタジオジブリ)