「1DK狛江のアパート」の家賃から見える「彼」のリアル
まずは現状分析から。一足飛びに港区に住んでもいいことはない。
歌詞のモデルであるJENは、リリース当時の彼は24歳。大卒なら社会人3年目くらいである。狛江住みならば、「彼」の勤務地はおそらく新宿近辺。良さげな勤め先だが、収入はどれくらいなのだろう。
ここで手がかりとなるのが、「1DK狛江のアパート」だ。
アットホームで探したところ、ペット可(「2羽のインコを飼う」ため)で1DKの狛江の物件は2部屋しかなかった。どちらも同じ建物で、駅から徒歩15分、築35年。これは、都内の物件としては「家賃が安くなる」条件だろう。実際、家賃は管理費込みで6万8000円。この値段で29平米は、なかなかに広い。
▲君たちはどんな暮らしをしていたのか
歌詞と比較しよう。90年代なかばの1DKで築35年のものは少ないだろうし、徒歩もこれより遠くはないはずだ。つまり、主人公の住む物件は現在より好条件だと言える。
当時の狛江における1平米あたりの土地価格は、CPI(消費者物価指数)などを考慮して計算すると価格にして現在の1.5~1.6倍。当時の賃料は間違いなく現代より高い。
これらを総合するに、現在の価値にしてざっくり月10~13万円、もしくはそれ以上の賃料はかかっていたのではないだろうか。
一般に、手取り収入に占める家賃の割合は3割〜1/3程度が望ましいとされている。
単純計算で、主人公の収入は手取りで月35万程度。給与全額で見たら月45万くらいは稼げていそうだ。ボーナスを入れたら年収600~700万円くらい。1994年のサラリーマンの平均年収は約487万……ってあれ、24歳にしてかなりもらってるな……?
とはいえ、「彼女が3カ月前に出ていった」からには家賃の一部を彼女が負担していたかもしれない。割り勘だった場合は年収の見積もりは300万〜400万程度、これはイメージ通りだ。てか彼女いないの大ダメージ……。
▲別れが生活を直撃していた可能性
さらに、勤めている会社から家賃補助が出ている可能性もある。家賃が数万円浮くだけでもかなり楽になるだろう。となると、実質的な家賃負担は、彼女と折半していたころでも4~6万、今は8~10万ちょいか。今回はリアルだ。
現実的に、家賃補助があったとしても1DKはちょっと広い。むしろこの広さが寂しさを増している可能性すらある。よし、この街を出ていくことに決めた!
ご予算も決まったことですし
問題はどこに引っ越すか。本人の望みが叶い、前向きになれる所が良い。
では、その本人の望みとはなにか。
それもまた、歌詞のラストにしっかりと書かれていた。
イメージはいつでも
雨のち晴れ いつの日にか 虹を渡ろうMr.Children『雨のち晴れ』(作詞:桜井和寿)
そう、彼はレインボーブリッジを渡っての通勤に憧れていたのだ!
となると、住むべきところはひとつ。お台場である。
▲動き出した僕の夢 深い谷越えて
お客様、いいですねぇ。やっぱり要望がはっきりしていると紹介もしやすいんですよね〜。
きっと良い物件との出会いがありますよ!!
どれどれ、お台場の家賃相場は……
1DK なし
1LDK……
▲最上のレジデンスがここに
……高い。間に合うなら即クーリングオフ。
……いやいや、大丈夫ですよご安心ください。うーんと、こちらなんかいかがですか。
住所は江戸川区小松川。1DKでも家賃相場は7万5000円、新宿までは総武線の平井駅から30分です。
そしてなにより、ほらここ!! あの「江戸川区にあるレインボーブリッジ」こと「虹の大橋」を渡って通勤できますよ!!
契約は破断となった。彼の描く虹は、もう少し大きいものだったようだ。
いいんだ。これでいいんだ。僕の涙が、きっときれいな虹を架けるから……。
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