「光に見える四角い文字」の条件は?
謎の文字探索で、どうしても外せない条件はやはり見た目の「四角さ」だろう。
ひらがなやカタカナは、どう見たってあんまり四角くない。「ロ」以外は全て、丸くなってしまった穏健派だ。
一方、漢字は素晴らしい。だいぶかくかくしている。中でもやはり強いのは「
当然このあたりの漢字は楽に思いつくわけだが、大事なもう一つの条件を忘れてはいけない。「光に見える」ことである。
カタカナの「ロ」はこの時点で脱落だろう。無だ。やはり中に玉が入っている「国」と比べると、シャイニング度はガタ落ちである。
というか、国がもう、とっっっても強い。玉って。輝きすぎでしょ。無に無を収納した「回」はよけいに空虚だし、「人」を入れたら「囚われる」になるあたり、とても暗い。「くにがまえ」に名を残すだけあって、「国」がやはり最強な気がしてきた。
玉以上の輝きを求めて
とはいえ、玉以上に輝きを放つものが、世の中にはまだまだあるはずだ。より良い対抗馬を探していきたい。
たとえば、「
「
これが「きらめき漢字」の決定版?
そんな中で、「国」に匹敵するきらめき漢字が発見された。だいぶ寄り道をした結果、たどり着いたのが「
意味はもうそのまま「国、皇国」。まあたしかに、輝きは感じるなぁ。玉と皇、どちらが輝いているか……あんまり議論したくないテーマだが、どちらもナイスなことには違いない。
国と𡈁。どちらもキラキラとしたものを内に秘めた、おあつらえ向きの漢字である。どちらがノートに書かれていたとしても、歌詞の要件を満たしていると言えよう。One of the bestだ。
……そう、「
ダイレクトすぎるだろこれは。もう四角の中に光を閉じ込めちゃっている。それでいて、漢字辞典オンラインに載っている意味は「丸い穴」。なんだそれは。
さすがにこの字には敵わないだろう。要件定義そのままのアウトプットが出てきてしまっている。あんまりにもピッタリだからこれには勝てないだろう。
しかしまあ、どんな授業をしている学校なんだ、これを習うってぇのは。自習とかじゃないとまず習わなそうである。生徒の自主的な学びを妨げるような教育があってはならない、のだが……。㘢という字を脳内に刻まんとするその意欲は褒めたい、のだが……。もうちょっとなんというか、学生らしい字を思い出として刻んでおいてもいいんじゃないだろうか。
となると、もういっそ、漢字という制約を外して考えるべきなのだろうか。『ガーネット』は日本の歌だが、今は教育もグローバルの時代。必要なのは世界的視野である。スコープを広げ、漢字以外の文字を検討してみよう。
世界の文字から「四角」を探す
パッと思いつくのは「
記号は流石にズルいとしても、ちゃんとした「文字」に限定したってまだまだ選択肢はある。
エジプトのヒエログリフは、絵のような見た目の文字だ。その中でも、アルファベットの「P」に対応するこの文字は、マットを図案化したものである。こいつは間違いなく四角い。
にしても、なんと地味な……。しかも「マット」って、光沢の逆じゃないか。これもまた戦えない。
その他にも、アステカ文字やサポテカ文字の碑文が四角張った文字で構成されていたり、コンゴ民主共和国で使われているマンドンベ文字がとにかくカクカクしていたりはするが、どれも輝きを感じる要素に欠く。調べれば調べるほど、㘢の強さが際立つ形だ。㘢は、世界の代表たちをも凌駕しているのである。
そう、アラビア文字の「スクエアクーフィー」を除けば。
四角い上に何でもありの「スクエアクーフィー」
アラビア文字自体は、多くの人が知っているものだろう。「ニョロニョロ」っとした、なんとも曲線的な文字である。四角とは程遠い。
しかし、アラビア文字の装飾的記法のひとつ「スクエアクーフィー」は、なんとびっくり、そのアラビア文字を四角の中に収めているのである。
▲イスラム教の預言者・ムハンマドのスクエアクーフィー
モスクの壁にアッラーの名前を刻むのにも使われるというこの記法は、アラビア文字を図案化し、美しく見せるためのものだ。
もう、一目瞭然であろう。めっちゃ四角い。
そしてさらに良いのは、ある程度なんの文字でもデザインできそうなところだ。漢字のような「完成品」ではないので、辞書に載ってなかったらアウト、みたいなことがない。たまたま四角なのではなく、四角にすることが前提なのだ。
なんならネット検索していたら、スクエアクーフィーで「ありがとう」と書いてあるクッキーを作れるクッキー型なるものが販売されていた。なんでもありである。そりゃあもう光っぽいことを刻むなんてのはお茶の子さいさいだろう。
最強の文字を見つけてしまったかもしれない
スクエアクーフィーを使って輝かしいことを書く、これでOKだ。㘢は持たない無限の可能性が、ここにはあるだろう。もう『ガーネット』も、この記法のために作られた曲なんじゃないかとさえ思えてくる。
おそらく主人公は、学校のグローバル教育の一環で、アラビア文字を習っていたのだ。そして、この書体を知ったのだ。間違いなく、学園生活のなかでも忘れることのない授業であっただろう。このインパクトなのだから。わざわざ歌にするのも、とてもわかる。
嗚呼青春のスクエアク―フィー。これならば、他の誰にも真似できないような、誇れる日々を送ることが出来たと言えるだろう。他の誰もが認めてくれなくたって、一生懸命になれるものがあることは大切だ。そのがむしゃらさ、ひたむきさこそが、青春を輝かせてくれるのである。
ビバ若さ。ビバ純粋さ。若人たちにはこの真っ直ぐさを大切にしてほしい。それが失われた先に待っているのは、毎週のようにひねくれた解釈の記事を乱発する、屈折した成人男性(29)の姿なのだから……。
画像のライセンス表示はこちら(一部トリミングしています)
ヒエログリフ、via Wikimedia Commons, Vania Teofilo, CC BY-SA 3.0
サポテカ文字、via Wikimedia Commons, HJPD, CC BY 3.0
マンドンベ文字、via Wikimedia Commons, Max.kit,CC BY-SA 4.0
アステカ文字、via Wikimedia Commons, Roberto Carlos Román Don, CC BY-SA 4.0
ムハンマドのスクエアクーフィー、via Wikimedia Commons, Original: Jayen466 Vector: OmegaFallon and Cmglee, CC BY-SA 3.0
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