連載「伊沢拓司の低倍速プレイリスト」
音楽好きの伊沢拓司が、さまざまな楽曲の「ある一部分」に着目してあれこれ言うエッセイ。倍速視聴が浸透しているいま、あえて“ゆっくり”考察と妄想を広げていきます。
当たり前だが日に日に年長者になっていき、人口ピラミッドを着実に駆けのぼっていく私なのだから、先輩は減る一方、後輩は増える一方だ。となると、当然ながら食事に行けば「俺が払うべきか……?」と思案する瞬間がある。
SNSでうんざりするほどこすられている「奢るべきか」問題は、その普遍性ゆえにいつでも燃料が切れないのだろう。悩ましいけれど、その場で相談することもできない、絶妙な難問。良問だ。結局私の場合はその場の雰囲気に合わせて「えいやっ!」と結論を下すことが多いが、果たしてそれが正解なのかはわからない。
今以上にこの問いを真剣に考えていたのが、本当にお金のなかった学生時代である。お金を出したいと思っても、無い袖は振れない。とはいえここは払うべきだということは頭でわかっている。そういうシチュエーションが、とてもとても苦しかった。
どうにか払うすべがないか、どうにかしてプライドを守るすべはないか。ぐるぐると考える頭の中では、たいてい『$10』が流れていた。追い込まれたシチュエーションに、我ながらピッタリの選曲である。
SMAP『$10』
1993年にSMAPがリリースしたこの曲は、もともとシンガーソングライター林田健司の楽曲であった。メンバーであった森
歌詞の内容は、アイドルらしからぬ「身の丈に合わぬ恋のなかでお金について悩む」というもの。浪費が激しく金銭感覚が異なる恋人に、なんとかついていこうとするものの……という焦燥感がリアルに描写されている。アイドルらしさという殻を破るために、うってつけの一曲だったのだろう。
しかし、私にとってはもっとリアルに感じられる、注目せざるを得ないポイントがある。
それは、歌詞で「3択クイズ」が出題されている点だ。
Oh, lady!
A-1 dollar B-2 dollars 淫ら No, no, no.....
愛さえあれば何も要らないなんて 全部ウソさ C-10 dollarsSMAP『$10』(作詞:林田健司・森浩美)
大事なサビの頭とおしりで、3択クイズの選択肢が提示されているのである。クイズ王の俺が言うんだから間違いない。
問題文そのものは書かれていないが、A、B、Cの3つから選ぶ形式になっている。だいぶ立派な択一クイズであろう。Aは$1、Bは$2、Cは$10。数字を問う問題だ。あえてCをサビの最後に持ってくることで、脳内を思考が巡るスローモーションが描かれているあたりも、クイズ描写として私がときめくポイントである。
こうなると、当然ながら知りたいのは「どんな問題文か」だ。選択肢だけがあっても問題は成立しないので(QuizKnockの一部動画を除く)、当然ながら大切なのは何を問われているかである。
解くほうの仕事が多いとはいえ、クイズを作るのもまた私の仕事のひとつ。他人の歌詞に難癖をつける雑文書きはあくまでサイドワーク、私がやるべきことはクイズである。ここはひとつ、本職たるクイズ王的視点から、『$10』にぴったりのクイズを考えていこう。