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連載「伊沢拓司の低倍速プレイリスト
音楽好きの伊沢拓司が、さまざまな楽曲の「ある一部分」に着目してあれこれ言うエッセイ。倍速視聴が浸透しているいま、あえて“ゆっくり”考察と妄想を広げていきます。

おごるか、割るか。それが問題である。

当たり前だが日に日に年長者になっていき、人口ピラミッドを着実に駆けのぼっていく私なのだから、先輩は減る一方、後輩は増える一方だ。となると、当然ながら食事に行けば「俺が払うべきか……?」と思案する瞬間がある。

▲画像はイメージ

SNSでうんざりするほどこすられている「奢るべきか」問題は、その普遍性ゆえにいつでも燃料が切れないのだろう。悩ましいけれど、その場で相談することもできない、絶妙な難問。良問だ。結局私の場合はその場の雰囲気に合わせて「えいやっ!」と結論を下すことが多いが、果たしてそれが正解なのかはわからない。

今以上にこの問いを真剣に考えていたのが、本当にお金のなかった学生時代であるお金を出したいと思っても、無い袖は振れない。とはいえここは払うべきだということは頭でわかっている。そういうシチュエーションが、とてもとても苦しかった。

どうにか払うすべがないか、どうにかしてプライドを守るすべはないか。ぐるぐると考える頭の中では、たいてい『$10』が流れていた。追い込まれたシチュエーションに、我ながらピッタリの選曲である。

SMAP『$10』

1993年にSMAPがリリースしたこの曲は、もともとシンガーソングライター林田健司の楽曲であった。メンバーであった森且行かつゆきがこの曲を大変に気に入っていたことからカバーする運びとなり、これがSMAPにとってもほぼ「最初」のヒット曲となる。

歌詞の内容は、アイドルらしからぬ「身の丈に合わぬ恋のなかでお金について悩む」というもの。浪費が激しく金銭感覚が異なる恋人に、なんとかついていこうとするものの……という焦燥感がリアルに描写されている。アイドルらしさという殻を破るために、うってつけの一曲だったのだろう。

しかし、私にとってはもっとリアルに感じられる、注目せざるを得ないポイントがある。

それは、歌詞で「3択クイズ」が出題されている点だ。

Oh, lady!
A-1 dollar B-2 dollars 淫ら No, no, no.....
愛さえあれば何も要らないなんて 全部ウソさ C-10 dollars

SMAP『$10』(作詞:林田健司・森浩美)

大事なサビの頭とおしりで、3択クイズの選択肢が提示されているのである。クイズ王の俺が言うんだから間違いない。

問題文そのものは書かれていないが、A、B、Cの3つから選ぶ形式になっている。だいぶ立派な択一クイズであろう。Aは$1、Bは$2、Cは$10。数字を問う問題だ。あえてCをサビの最後に持ってくることで、脳内を思考が巡るスローモーションが描かれているあたりも、クイズ描写として私がときめくポイントである。

こうなると、当然ながら知りたいのは「どんな問題文か」だ。選択肢だけがあっても問題は成立しないので(QuizKnockの一部動画を除く)、当然ながら大切なのは何を問われているかである。

解くほうの仕事が多いとはいえ、クイズを作るのもまた私の仕事のひとつ。他人の歌詞に難癖をつける雑文書きはあくまでサイドワーク、私がやるべきことはクイズである。ここはひとつ、本職たるクイズ王的視点から、『$10』にぴったりのクイズを考えていこう。

『$10』ぴったりのクイズを考えよう

次ページ:『$10』の選択肢にぴったりの問題文とは……? クイズ王・伊沢が考える作問の心得

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この記事を書いた人

伊沢拓司

QuizKnockCEO、発起人/東大経済学部卒、大学院中退。「クイズで知った面白い事」「クイズで出会った面白い人」をもっと広げたい! と思いスタートしました。高校生クイズ2連覇という肩書で、有難いことにテレビ等への出演機会を頂いてます。記事は「丁寧でカルトだが親しめる」が目標です。

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