連載「伊沢拓司の低倍速プレイリスト」
音楽好きの伊沢拓司が、さまざまな楽曲の「ある一部分」に着目してあれこれ言うエッセイ。倍速視聴が浸透しているいま、あえて“ゆっくり”考察と妄想を広げていきます。
若さとは全能感だなと、今になって思う。まだ自分も若いのだろうけれど。
ある程度閉じた世界においては、手にできるものも見知ったことも多く、大概のことは予想通りだ。仮初めの全能かもしれないけれど、そこで与えられたポジティブな気持ちはいずれ願いを叶える原動力になるだろう。
かくいう自分も、クイズを始めた頃は10人もいない部員の中で上位を争って一喜一憂していたわけだが、そこで得たクイズの楽しさがここまで連れてきてくれたのだから、そこで得られるメンタリティには大きな価値があると信じている。
だから、ドラえもんがくれるひみつ道具も、のび太をきっと成長させているのだと思う。
ドラえもんがのび太に毎度毎度与える、刹那的な慰めにしかならない、数多のひみつ道具たち。それでもなお、すぐネガティブになるのび太にとっては、繰り返し使う中で前向きな影響があるはずなのだ。きっと、その成果として劇場版のカッコいいのび太がいるのだろう。
▲2024年3月1日公開予定の『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』予告編
ドラえもんの各話というのはなかなかに教訓的で、いつもたいていひみつ道具はロクな結果を生まないのだが、それでもやっぱり人々はひみつ道具に夢を見る。そこではきっと、あの『ドラえもんのうた』が底抜けにポジティブな歌であることも一役買っているのだろう。
「あんなこといいな」でおなじみのあの曲
アニメ化にあたって、アニメ制作会社創業者の息子、当時中学生の
それゆえか内容もかなりポジティブで、藤子・F・不二雄の作品が持つSF(すこし・ふしぎ)的世界観とは違った、アニメ主題歌然とした曲に仕上がっている。
しかしながら、明るさ全開のこの曲にもすこし・ふしぎなポイントがある。いや、私に言わせればKF(かなり・ふしぎ)だ。
不思議ポイントはただ一点、少しマイナーな2番の歌詞に潜んでいる。
しゅくだいとうばん しけんにおつかい
あんなこと こんなこと たいへんだけど
みんなみんなみんな たすけてくれる
べんりなどうぐで たすけてくれる
おもちゃの へいたいだ
「ソレ!とつげき」
アンアンアン とってもだいすきドラえもん大杉久美子/大山のぶ代『ドラえもんのうた』(作詞:楠部工)
ん、なんだその道具は???
1番ではタケコプター、3番ではどこでもドアが登場するのだが、2番だけは明らかにマイナーな「おもちゃの兵隊」が取り上げられているのだ。
この2番の構成自体もだいぶ特殊で、1番と3番は要望→道具という流れがあるのに、2番だけ道具→掛け声というあまり意味のない流れになっている。パターンを崩してまで唐突に登場するおもちゃの兵隊、だいぶ推され道具だ。
[1番抜粋]
そらをじゆうに とびたいな
「ハイ!タケコプター」[3番抜粋]
せかいりょこうに いきたいな
「ウフフフ!どこでもドアー」大杉久美子/大山のぶ代『ドラえもんのうた』(作詞:楠部工)
そもそも、「おもちゃの兵隊」という秘密道具は、あまり便利なものではない。
「おもちゃの兵隊」は指揮官と4人の兵隊の合計5人で構成されており、ボディーガード的な使い方ができる道具だ。シンプルに「戦闘力」である。
しかし、彼らは判断能力が低く、少しでも主(のび太)に触れようものなら即座に敵認識してしまうというポンコツ五人衆である。実際、マンガでの初登場時はドラえもんすらその制御に苦戦し、ドタバタしたままにストーリーが終了する。しかも火力がそこそこあるので、余計にタチが悪い連中である。
というか、この能力では宿題、当番、試験、おつかいに対して無用ではないだろうか。あくまでこの4つは「たいへんなこと」の例示ではあるが、小学生の日常で頻発する雑事が挙げられている以上そういった「たいへんなこと」を解決してほしいわけで、武力の必要性を考えるなら、ジャイアンから身を守ることが関の山だ。物足りない。
総合的に判断したとき、現時点で2,000を超えるとされるひみつ道具のなかでも、おもちゃの兵隊はかなり歌詞にふさわしくない。ポジティブでポピュラーな他ふたつの道具に比較して、明らかに分不相応である。
やはりここは、その抜擢の原因を探り、可能ならばアップデートを試みるべきだろう。のび太の悩みは、全少年の悩み。日本の未来のために、私がドラえもんとなって彼を助けていきたい。
助けてドラえもんに詳しい人
とはいったものの、私はごくごく一般的なドラえもん知識しか持っておらず、適切なひみつ道具を提案できる自信はない。数も多すぎるから、検索して良いものが見つけるのもだいぶ困難だろう。
やはり、ここは詳しいメンバーに聞くべきだ。