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どうも、シャカ夫です。

私は最近、どうしてもやりたいことがあります。

それは……

毒手です!

毒手とは、格闘マンガなどでまれに登場する「殺人拳」のことです。

毒手:『バキ』や『魁!!男塾』などの格闘マンガ(?)に登場する技。手に毒を染みこませ、その手で相手を攻撃して毒を打ち込み死に至らしめるというもの。中国拳法に似た技術があるとされるが、定かではない。

毒に対する興味から京都大学農学部に進学し、サソリの毒の研究で修士を取得した私にとって、この技は憧れの的。あと、10年ほどフルコンタクト空手をやっていた経験もあるので、シンプルに技としても興味があります。

ぜひとも、この毒手を私も習得して、ヘビやサソリのように毒で相手を仕留める強いおとこになりたいもの。

だがしかし、この技がフィクションの域を出ないのも事実

たとえば『バキ』には、かなり詳細に毒手の作成方法が描かれていますが、毒について研究していた私からするとそれらのメソッドはあまりに杜撰で、危険かつ非効率極まりないのです。

ならば、私が目指す道はひとつ!

私がもつ毒の知識・ノウハウを最大限活用し、特殊な訓練の必要がない安全かつ簡単な毒手を開発し、皆さんに伝授いたします!

読者の皆さんもこの記事を参考にして、ぜひとも師の片腕をもぎとり、道場に飾ってくださいね!

▲『バキ』を知ってる人ならたぶんわかる、マスター国松の腕

目次

『バキ』における毒手の作成方法

漫画『バキ』に登場する死刑囚の柳龍光やなぎりゅうこうは、毒手の代表的な使用者です。

▲52秒あたりから柳龍光の紹介

柳は殺人拳法の流派「空道」の使い手で、暗器をもまじえた容赦ない攻撃で主人公の範馬刃牙を追い詰めました。その中でも、彼が使った毒手は、刃牙を最も苦しめた技といってもいいでしょう。

柳の毒手を食らった相手はその部分が腐り、そのまま骨髄まで侵されて死に至るといいます。なんとも興味深い……否、恐ろしい技でしょうか

柳がどのように毒手を仕込んだのかについては、作中で詳細に解説されています。

その手順を大まかにまとめると……

といったところです。

なんと恐ろしく、過酷な作業でしょうか……! 自分が毒を食らってしまうことは前提で、それを絶妙な毒量と解毒剤(洗薬)の調整で克服し、5日間も続ける……。そんな……これは……

なんて非効率で危険なやり方なんだ! 俺ならもっと簡単にできるのに!

柳の毒手作りにも光るものはあるのですが、所詮は殺人鬼のための技術。我々一般人があつかうとなると、いろいろと無理が生じます。

そこで、今回はこの柳の手法を参考にし、それをアレンジしてより素晴らしいメソッドを考案していきます!

この記事を読み終わるころには、あなたも一切の修行を経ることなく毒手を完成させているかもしれませんねぇ!

まず「耐性」を獲得できるのか……?

毒手をやるうえで一番気を配らねばならないところは、「安全性」です。

いくら毒手で相手を毒殺できようと、自分が同じように毒におかされて死んでしまっては意味がありません。格闘家たるもの、相手を打ち倒してそのまま気楽に家に帰ることまでが「勝利」でしょう。

それを考えると、柳が「洗薬」で毒を定期的に中和していたのは納得がいきます。5日間も仕込みを行うのも、毒に手をじっくり漬けるだけではなく、毒に対して自分が耐性を得る時間も考慮していたのでしょう

▲洗薬に浸される柳の手

しかし、柳のやり方で耐性がつくかについては疑問が残ります。

免疫作用などによってヒトの体が有害物質に対する耐性をもつことはあります。ハチ毒が起こすアナフィラキシーショックは、この免疫作用の過剰反応が原因なのです。

アナフィラキシーショック:強く出るアレルギー反応のこと。ハチの毒や食物によるものがよく知られており、ひどい場合は死に至る症状を引き起こす。

ただし、毒への免疫獲得は5日間で達成されるようなものではありません。ヒトを死に至らしめるような毒だったら、致死量よりもずっと少ない量の化合物をじっくりと体に慣らしていかねばならないでしょう。

そもそも、植物などがもつ多くの低分子毒素は免疫でどうにかできるたぐいものではありません。様々な材料を一度に使う柳の方法では、抗体を作りきれない毒が必ず出てくるはずです

ていうか、5日で耐性がつくぐらいの毒だったら、免疫が強い相手には耐えられてしまう可能性が高いです。そして、仮に殺害できたとしても死体から毒成分を分析されたが最後、簡単に毒を攻略されてしまいます。柳が苦労の末調合に成功した毒はもう使えません……

あと、洗薬を使って手から毒を落とす作業は非効率極まります

柳が調合に使っていた材料はせいぜいどんぶり3杯分。これを水で薄めて砂に混ぜる時点で濃度は激減しているはず。手につく毒量は微々たるものに違いありません。そんな中で洗薬なんて使ってしまうと、せっかく手に仕込んだ毒はキレイに洗い流されるでしょう。無意味すぎます。

じゃあ、私ならどんな毒を使い、どのように耐性を得るか。それは……

ヘビ毒と血清です!

ヘビ毒の主成分は複数種類のタンパク質で、動物の体はこれに対して抗体を作ることができます。この抗体は血清と呼ばれ、毒ヘビにかまれた際の治療に用いられています。外付けの抗体というわけです。

血清はいわばヘビ毒に対するワクチン兼特効薬。特殊な体質がなくても注射をすれば、あらかじめ簡単に耐性を得ることができます。

しかも、ヘビ毒は強力なものが多いうえ、神経毒や出血毒など種によって様々な効果に分かれます。なので、調合も変えやすく、血清も混ぜる種類と量を変えればいいだけ。実際に暗殺向きの毒なのです

ちなみに、ヘビの中でも特に強力な毒をもつ「ナイリクタイパン」の毒液は、単純計算で0.6 mgもあればヒトを死に至らしめることができます。純粋な毒成分ではなく「毒液」での数値なのがミソですね。有効成分だけ抽出できれば、もっと少量でヒトを殺せるでしょう

ヘビの毒はタンパク質が主成分であり、皮膚につくだけではそこまで危険ではありません。経口摂取しても消化されてしまうため、相手に傷をつけてそこから毒を入れるのが基本となります

そういうと暗殺拳としては汎用性に欠ける気はしますが、爪を使うだけで簡単に毒は注入できます。『バキ』作中での柳も、ムチのように相手の肉を打つ「鞭打」や隠し武器「バグ・ナク」で相手を出血させていましたね。毒手使いとして、とても合理的な戦法といえます。

▲インド製隠し武器「バグ・ナク」, via Wikimedia Commons Worldantiques,CC BY-SA 3.0,

作り方が危険すぎる!

「安全性」の面でもうひとつ気になるのが、柳が実践していた毒手の作成環境です。

柳は暗い道場の中ひとりで「毒の調合」から「毒手完成」までをおこなっています。道着のみを身にまとい、部屋にはこれといった排気設備も見当たりません。

▲柳の作業環境、流石にひどすぎる

これは毒を扱う同志として看過できませんねぇ!!

皆さん百も承知でしょうが、毒は危険です。その危険な物質をあつかう際には、ちゃんとしたルールがあります。死刑囚の柳にとっては法令を遵守する筋合いなんてないのかもしれませんが、結局適当に毒を扱って痛い目を見るのは自分です

白衣保護めがねゴム手袋安全靴といった保護器具はもちろんのこと、揮発性の有害物質を防ぐためのドラフトチャンバー内での作業も求められます。

ドラフトチャンバー:有害物質の実験などに用いる排気装置。大きな箱形をしており、そこに手だけを入れて作業を行う。

あと、こう言っては元も子もありませんが、素手で毒まみれの砂に手を突っ込むの、ほんとやめてほしいです。あまりのコンプラ違反に大きな声が出そうになります

敗北を知るためなら自分の命とかどうでもよくなってそうな柳とは違い、我々はただの一般人。毒をあつかう実験を行う際には、最大限安全に気を配らねばなりません。たとえそれが、殺人術の過程であっても、です!

▲柳に求められる正しい実験姿勢

柳は調合の効率が悪い、本当に

柳龍光、殺人術は超一流なのかもしれませんが、化合物抽出に関してはずぶのシロートですね。極めて非効率な手順を踏んでいます。最後はここを改めていきましょう。

まず、材料が少なすぎます。あと、材料の虫とか植物も無駄な部分が残りすぎてます

たとえば、柳はムカデを1匹丸々材料に用いているのですが、ムカデの毒があるのは主にアゴ毒ヅメ)なので、だいたいの部分が無駄です。こんなことをしていると、別に必要のない成分まで抽出されてしまって毒液の純度が下がります

さきほども説明しましたが、ただでさえ量が少ない材料をめちゃくちゃ薄めているのです。これ以上無駄が出てくるとそれこそ効果に支障が出てくると思うのですが……。

ていうか、ムカデを入れてるのは何でだ? あれぐらいのムカデの毒でヒトを殺すには相当な量が必要だけど……?

あと、材料をお湯に溶かしているのも納得がいきません。生物活性をもつ物質の多くは熱に弱いです。しかも、水は揮発しにくく濃縮が難しい溶媒。ずっと湿ってしまうため、うまく砂と混ざるとは思えません。

あと、柳が用いていた毒には、水にめちゃくちゃ溶けづらい材料も含まれています。

▲毒の材料として何らかの昆虫を量りとる柳

作中で柳が量りとっていた虫は、おそらくツチハンミョウの一種でしょう。古くから毒薬として用いられてきた伝統的な毒虫です。

しかし、ツチハンミョウがもつ主要毒素のカンタリジンは、水1Lに30 mgしか溶けません。そして、カンタリジンの致死量は約30 mg。水に溶かしたカンタリジンでヒトを殺すには、コンビニとかで見かけるふっといペットボトル水をまるごと飲んでもらわないといけません。手になじんだ毒液で致死量に達するなんてありえませんね。

柳、お前は本気で毒と向き合う気があるのか? いい研究室を紹介するから、もう一度学び直してきなさい。

次ページ:柳メソッドはもう古い! シャカ夫流「毒手」の作り方

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この記事を書いた人

シャカ夫

京都大学出身。クイズと毒とホラーが大好き。見るだけで世界が広がるような知識を皆さんにお届けできるよう、日夜頑張ってまいります。

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