※本記事の内容は「法科学鑑定研究所」主任研究員の古山翔平さんによる見解を基にしており、筆跡鑑定全般の見解を代表するものではございません。
こんにちは。ミステリー好きライターのサワラです。
刑事ドラマも好きでよく観るのですが、たびたび登場するのが「筆跡鑑定」です。
▲刑事ドラマでよく出てくるアレ!
筆跡鑑定は、事件の犯人の筆跡と照らし合わせるときなど事件を解くカギになります。しかし、私は昔からある疑問を持っていました。
そんな疑問を抱いていたら、なんと今回は、筆跡鑑定の専門家の方にお話を聞く機会をいただけました!
協力してくださったのは、筆跡鑑定やDNA鑑定をはじめとする、鑑定業務などをおこなっている鑑定研究機関「法科学鑑定研究所」の主任研究員の古山翔平さんです。
古山翔平さん:法科学鑑定研究所でDNA鑑定や薬物分析、筆跡鑑定を担当。鑑定歴7年。好きなミステリーシリーズは「シャーロック・ホームズ」。
サワラ:今回の聞き手。京都大学法学部4年生。1番好きなミステリー小説は東野圭吾『容疑者Xの献身』。
そもそも筆跡鑑定とはどうやって行うのか、どういった依頼が多いのか、他人の筆跡を似せて書いたらバレるのか……。謎に包まれた筆跡鑑定について、早速聞いていきましょう!
そもそも、筆跡鑑定って何?どうやってやるの?
ドラマやアニメなどでよく筆跡鑑定が登場するのですが、そもそも筆跡鑑定とは何をすることなのでしょうか?
筆跡鑑定は、複数の筆跡を比較・検査することで、それを書いた筆者が同一人物であるか別人であるかを識別する方法です。
実際に、筆跡鑑定はどのような流れで行うのでしょうか?
まず、鑑定に必要な資料の確認をします。鑑定したい資料1点と、本人が書いた別の資料が最低3点あれば鑑定できます。
3点! 意外と少ないですね。
そうですね。確実に本人が書いたもので、同じ漢字の単語が含まれる内容の資料であれば3点で鑑定可能です。もちろん資料が多い方が鑑定精度が高くなります。
資料が揃っていることが確認できたら、いよいよ鑑定作業に入っていきます。
ところで、筆跡の鑑定作業と聞いて、どんなものをイメージしますか?
なんとなく証拠の資料と本人の筆跡を肉眼で比較して、似ているかどうか判断するのかな、と思っていますが……実際のところはどうなんでしょうか?
▲経験がモノを言う、みたいな……
基本的な鑑定のイメージには比較的近いですが、実際の鑑定作業は、もう少し複雑です。
鑑定の作業は(1)目視での確認(2)筆跡のデータ化の2段階で行います。
目視での確認では、資料が原本かコピーか、といった点を判断します。コピーした文書だと文字の特徴が薄くなってしまいますからね。その後に筆跡をデータ化して、そのデータをもとに数値的に解析して鑑定結果を出します。
筆跡をデータ化……!? どうやってデータ化するのでしょうか?
まず、AIを用いて、特徴点である始筆部(書き始め)、終筆部(書き終わり)、転折部(筆が曲がる部分)を読み取ります。
▲特徴点を読み取る(法科学鑑定研究所提供)
次に、特徴点をXY座標で数値化し、データ化します。
▲特徴点の相対的な位置をデータ化する(法科学鑑定研究所提供)
こうして得られた特徴点の位置関係などから数値的に解析することで、資料や文書が本人によって書かれたものか否かを識別しています。
なるほど……! 筆跡鑑定でもAIが活躍してるとは!
ところで、筆跡の特徴点として、始筆部や終筆部などを座標化するというお話でしたが、はね、はらいの部分が特徴点にならないのはなぜですか? 個人の筆跡の特徴が出やすい部分だと思うのですが……。
確かにはねやはらいは個人の特徴が出てきやすい部分ですが、逆に言うと他人がマネしやすい部分でもあるんですよ。始筆部や転折部は、書く本人もあまり意識しないところなので、マネするのが難しいです。マネしにくい部分を特徴点として数値化することで、本人が書いた文字か、別人が書いた文字かを識別できるようになるんです。
マネしやすいというのは盲点でした! 筆跡鑑定、なかなか奥が深いですね。
それに、筆跡鑑定はアナログな手法で行っているイメージがあったので、かなりデジタル化が進んでいることに驚きました。
そうですね。ただ、ここまでデジタル化を進めているのは当社くらいだと思います。
肉眼だけで判断する鑑定所も多いですが、鑑定人の主観を除ききれず、客観性の担保が難しいのが課題です。肉眼だけだと、同じ資料を用いても鑑定結果が異なることもあるんですよ。
指紋やDNAの鑑定と違って、機械で100%判断できるものではないのが、筆跡鑑定の難しいところなんですね。
マネして書いたらバレるの?
ずっと聞いてみたかったことを質問させてください。
次ページ:やっぱり他人が書いた筆跡はバレる? 「最も依頼が多い」驚きの内容とは……?