津波は地球の裏側まで到達する
建物の耐震性能が向上した現代の日本において、地震で最も多くの人的被害を出すのは津波です。
冒頭のクイズの題材にもしましたが、津波が起きる条件は、(1)震源域に海を含み、(2)震源の深さが80kmより浅く、(3)マグニチュードが6~7以上、の3つです。これを満たさない地震はすぐに「津波の心配はありません」と出るはずです。
海で地震が発生すると地殻変動により海底が持ち上がります。すると、同時に水面も持ち上がり波として伝わっていきます。これが津波です。一般にM6~M7以上の海を震源域に含む比較的震源の浅い地震では津波が発生することがあります。特にM8クラスの巨大地震ではその高さは10メートル以上になります。
津波は大海原を伝わって地球の裏側にまで伝わります。1960年のチリ地震(M9.5)では地震発生から22時間後に日本に津波が押し寄せ大きな被害を出しました。東日本大震災の津波はハワイやアメリカ大陸まで到達しました。
津波は通常の海の波と異なり非常に波長が長いです。そのため、その実態は波というより「沖合まで続く巨大な水の塊が迫ってくる」といった方が正しいでしょう。
巨大地震の津波は陸地の奥にまで到達して「津波堆積物」の地層を作ります。東日本大震災後に調査が行われ、東北地方では過去数千年の間に何度もM9クラスの巨大地震が発生し、そのたびに陸地の深くまで到達する巨大津波が発生していたことが分かってきました。
未来に起きる地震を予測するためには過去の地震について調べることが必要不可欠です。地震計が設置される前の昔の地震は、古文書の解読や地層の調査によって調べるしかありません。
また、これから起こるであろう地震をより詳しく解析するために、観測設備を増強するのも急務です。特に南海トラフの巨大地震に向けて海底の観測網を強化していく必要があります。
理論的な研究も大切です。断層の破壊がどのようなメカニズムで進行するかについては分からないことが多いです。これは物理学の問題ですから、地震の解明には物理学の発展が不可欠です。
多くの研究者がいろいろな手段で地震を解明しようとしています。
ダム建設や資源の採掘が地震を誘発する
最後に少し驚くかもしれない話をしましょう。
「3.11は人工地震」などといった言説はただの陰謀論に過ぎないですが、人間の活動が地震を誘発することは知られています。
1962年、アメリカのコロラド州で放射性廃棄物の処理のために4000メートルの井戸を掘っていると、それまで全く地震の起きなかった当地に地震が起きはじめ、大きいものではM5以上になり大きな騒ぎになりました。
インド西部では、コイナダムの建設により1967年にM6.5の地震が発生し180人が犠牲になりました。最近はアメリカでシェールガスの採掘が地震を急増させています。
このような誘発地震は水の流入が重要な役割を果たしていると考えられています。断層面に水が存在するかどうかは、摩擦の強さに大きく影響するからです。
では、人間が地震を誘発できるなら逆に人間が地震の発生を抑制できるのではないか? と思ってしまいますが、これは難しいのです。
ウェブサイトの紹介
駆け足でしたが地震学について解説していきました。読者のみなさんの役に立つことを書けたなら良いのですが……。
災害としての色が強い地震ですが、一つの地球物理学的な現象として興味深い点はたくさんありますし、私自身これらの面白さを動機に地震を研究しています。この記事で地震の面白さを少しでも伝えられたのなら幸いです。
最後に地震情報の確認に便利なサイトや防災情報が載っているサイトを紹介して終わりたいと思います。
地震が起きてから震度などの情報が出るには1分程度かかりますが、もっと早く知ることができます。防災科学技術研究所が提供する強震モニタ(http://www.kmoni.bosai.go.jp/new/)ではほぼリアルタイムに全国の震度が更新されていきます。
発生した地震の情報や津波の情報はNHKのサイト(http://www3.nhk.or.jp/sokuho/jishin/)が見やすくてオススメです。
防災情報としては、帰宅困難者対策情報センター(http://www.nagonavi.com/)や地震対策はじめの一歩(http://jishin.saratsuru.com/)といったサイトがあります。