国内メディアはあまり伝えていませんが、最近天文学でとある発見がありました。
2月9日号(2017年発行)の科学雑誌Natureに「中間質量ブラックホールを検出した」という論文が掲載されました。そうです、中間質量のブラックホールが初めて検出されたのです。中間質量とはどれくらいかというと、太陽の2200倍です。すごい重さですが、一体何の中間なんでしょうね。
というわけで、この記事ではブラックホールとはそもそも何か、今回の発見がどうすごいのかについて解説していきます。
目次
そもそもブラックホールとは
あらゆる物体同士には互いに引き寄せ合う力(万有引力)が働きます。リンゴが木から落ちるのも、地球が太陽を周回しているのも、月が地球を周回しているのもすべて万有引力=重力です。
この重力によって、地球から発射されたロケットはかなり速いスピードで発射しないと地球の重力圏を抜けられず、地球を周回し続ける人工衛星になります。この「ある天体の重力圏を脱出するのに必要な速度」を第2宇宙速度といいます。地球の第2宇宙速度は、およそ秒速11.2キロメートルです。東京から大阪を1分弱で移動する速さです。
さて、重力の強さは、引っ張る物体の質量に比例し、物体からの距離の2乗に反比例します。したがって、第2宇宙速度はより重く、より半径が小さい天体であるほど大きい値をとります。
ブラックホールとは、巨大な質量を圧縮してより狭い空間に閉じ込めていった結果、第2宇宙速度が光の速さに達してしまった天体のことです。たとえば地球は半径1センチに凝縮されればブラックホールになります。
光速(秒速30万キロメートル)はこの宇宙の速さの上限です。質量を持った物体は光速を超えられませんから、ブラックホールから脱出することはできません。ブラックホールで、光を含むあらゆる情報が脱出できない領域の境界のことを「事象の地平面(イベント・ホライズン)」といいます。光が脱出できないので事象の地平面の内部から発される光を私たちは見ることができません。そのため、ブラックホールを発見するには、「そこにブラックホールがあることで発生する空間の歪み」を用いて間接的に検出するしかありません。
ブラックホールにすいこまれていく物体をブラックホールの外にいる人間が観察したらどうなるでしょうか。物体はどんどんブラックホールに近づいていきますが、事象の地平面に達するとこれ以上進まず止まって見えるようになります。
しかし落ちていく物体は実際にはブラックホールの中心に近づいて行っています。なぜ事象の地平面で止まって見えるかというと、相対論的な効果によりだんだんと落ちていく物体の時間の進み方がゆっくりと進むようになり、事象の地平面に到達すると止まってしまうのです。
ブラックホールは大きく2種類ある
ブラックホールは、2つの種類に分けられます。
1つ目は、恒星由来の比較的小さめのブラックホールです。寿命を迎えた恒星が超新星爆発を起こした後に極限まで収縮し、ブラックホールになります。(太陽は超新星爆発を起こすほど重い星ではないのでブラックホールにはなりません)
2つ目は、銀河の中心にある超大質量ブラックホールです。ほとんどの銀河の中心には巨大なブラックホールがあります。その質量は太陽の105倍から1010倍です。たとえば、我々の太陽系がある「天の川銀河」の中心には、いて座A*という名前の超大質量ブラックホールがあると考えられています。超大質量ブラックホールの起源はよくわかっていません。
中間質量ブラックホールが見つかった
前述のように、これまで発見されたブラックホールは太陽と大きさのあまり変わらないものと太陽よりはるかに大きいものの2種類だけでした。自然に、「太陽の100倍から10000倍程度の中間質量ブラックホールはまだ見つかっていないだけなのか。それとも存在しないのか」という疑問を抱きます。
ここで、冒頭のニュースに戻ります。今回、Bulent Kiziltanらの研究グループは、きょしちょう座47という球状星団に、太陽の2200倍の質量のブラックホールを発見しました。中間質量ブラックホールが発見されたのです。
中間質量ブラックホールはどのようにしてできたのでしょうか。恒星からできるには大きすぎて、銀河の中心にあるものよりは小さすぎるこのブラックホールの成因は大きく分けて次の2つの仮説があります。
1つ目は、恒星ブラックホール同士が合体して大きくなったというものです。
2つ目は、宇宙の始まりであるビッグバンの直後に、ビッグバンの爆発力によって形成された「原始ブラックホール」であるというものです。
今回の発見によって謎の多いブラックホールの解明が進むかもしれません。