ある日の暮れ方のことである。一人の大学院生が、サバの押し寿司を食べていた。
▲うまい、うますぎる
友人は言った。
※ジメチルエーテルの沸点は-24.8℃と、水(100℃)に比べてかなり低い。
そもそも魚が臭いのはなぜか
「魚臭さ」の原因となる物質はいくつかあるが、代表的なものとしてトリメチルアミンが挙げられる。この化合物は、魚が体の中に持っているトリメチルアミンオキシド(こちらは無臭)という物質が、魚が死んだあとに分解されて発生する。
▲トリメチルアミンは、酵素や微生物が作り出す。「揮発」とは、常温で液体が気体になること
では、どうして酢で締めると臭くなくなるのか。それは、酢で締めることで匂いを持つ化合物が、揮発しにくい化合物に変換されるからだ。匂いは、揮発した分子が鼻に入ることで検知される。すなわち、分子が飛んでいかなければ嫌な匂いを嗅がずに済むのである。
▲つまり、揮発しにくい化合物にすればよい
中和反応のおかげ
魚を酢で締めたとき、具体的には次のような変化が起こっている。
匂いの原因物質のひとつであるトリメチルアミンは、塩基性(アルカリ性)の化合物である。一方で、お酢に含まれる酢酸は、酸性の化合物である。お酢で魚を締めると中和反応が起こり、トリメチルアミンは酢酸と塩(えん)を形成して揮発しにくくなる。こうして、魚の嫌な匂いが軽減されるのだ。
▲中和反応、ありがとう!
余談
ちなみに、酸性の化合物を含んでいるレモン汁でも代用できる。現代のような化学が確立されていなかった時代に人々が生み出した「匂いを抑える」技が、結果的に正解だったのは興味深い。
今日も鯖寿司はうまい。
【あわせて読みたい】