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学問を究めて「ひとりじゃなにもできない」ことに気づく

――同じ本を何冊も読むほど学問を突き詰めた結果、気づいたことはありますか?

田村 「自分ひとりじゃ何もできない」という諦めがつきましたね。

――わかるようなわからないような……。どういうことでしょうか?

田村 世界にはさまざまな分野によって細分化された広大な知の海が広がっていて、自分がどんなに頑張って学問を進めても、この海の水を1杯すくうのが限界なんだなと気づくんです。「なんでも知ってる」という姿勢を保つのは絶対に無理なんですよ。

田村 学んだことは自分なりの方法で繋げていくしかなくて、それを人に説明する時には、うまく相手に伝わるように文脈を作らないといけない。その諦めと謙虚な姿勢が、学問をやると養われるんです。

――ただ知識を蓄えるだけでは得られない考え方が、学問によって得られると。

田村 研究者という人種は、無限の選択肢がある中からごく小さなものを選んで一生を捧げようとするんです。これってすごく魅力的で、面白い人が多いなと思いますね。QuizKnockメンバーで「研究者」といえば博士課程まで修めた須貝や鶴崎が思い浮かびますが、たぶん彼らも物理学や数学について、僕と似たようなことを考えていると思います。

【須貝、鶴崎のインタビューはこちら】

日常にも応用できる「無意識」と「構造」

――そんな中で田村さんは「哲学」という選択肢を選ばれたわけですが、「これは日常でも役に立つ!」というような、哲学的な考え方があれば教えてもらいたいです。

田村 代表的なものは、「無意識」と「構造」の話ですかね。この2つの視点でいろんなものを考えられるようになると、結構幅が広がるなと思います。

――重要そうなキーワードが出てきました。詳しくお願いします。

※田村より:「無意識」と「構造」は哲学および周辺分野で長きにわたり研究されている概念ですが、ここではそれらを田村なりに咀嚼した話をしています。研究史に照らすと異なった箇所がありますが、ご容赦ください。

田村 たとえば「ボールを投げる」動作って、「この筋肉をこう動かして……」と考えなくても、投げようと思えば無意識にできますよね。でも、実際にはめちゃくちゃ複雑な動作をしているわけです。

田村 そんな複雑なことでも、幼いころからの「習慣」にならうことで無意識にこなすがことができる。とはいえ、僕にできることのポテンシャルはある程度定まっている。時速500kmの球を投げられるような人は誰もいなくて、みんな自分の身体のような、あらかじめ決められた「構造」にしたがって動作を行なっているんです。

――確かに、ロボットでもないとそんな豪速球は投げられませんよね。

田村 「ボールを投げること」と同じようなことが言語でも起こっていて、たとえば東京育ちの人と関西育ちの人が同じことを言おうとしても、言い方が違ってくる

――どういうことでしょう?

田村 いわゆる標準語という構造のなかで無意識に出てくる発言と、関西弁という構造のなかで無意識に出てくる発言では、親しみやすさが全然違いますよね。「本当に?」と「ほんまに?」は意味は同じかもしれないけれど、相手に与える印象や効果は変わってくる

――「ほんまに?」の方が表現としてまろやかな、フレンドリーな印象があります。

田村 育った環境の言語が持つ「構造」と、それらを使いこなす「無意識」にいろいろ規定されているんだけど、話してる当の本人はそれがあんまり見えてない。

田村 でもそういう差に意識を向けることができると、たとえばナイツの塙さんが『言い訳』で論じているような「漫才の母国語は関西弁」なのだ、という分析ができたりします。僕はお笑いをやらないけれど、そういう分析ができれば、標準語でどう笑いを作っていくべきか、どうすればもっと関西弁を笑いに活かせるか、みたいなことが考えられるかもしれない。

※『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』:お笑いコンビ・ナイツの塙宣之が2019年に著した評論。「M-1グランプリ」をメインテーマに、漫才を徹底的に解剖する内容となっている。

――お笑いの世界にも「無意識」と「構造」の話がリンクしていくんですね。いろいろな分野に応用が利きそうです。

――たとえば前編で話してくださった「早押しクイズ」でも同じことが起こっていそうですよね。「よく出る問題文」という「構造」を習慣によって理解して、いつの間にか「無意識」のうちに答えられるようになっている。

田村 なぜ問題文を最後まで聞かずに正解できたか説明しようとすると、「このワードが手がかりになっていて……」「作り手の気持ちを考えると、この答えになるクイズが一番出題しやすいと思って……」と後付けの説明はできるんだけど、答える時はみんな無我夢中でやっている。「どういう思考プロセスをたどればより正解に近づけるか」という意識と、それを無意識にできるようにする訓練の両方が必要な感じがありますよね。

――早押しクイズって、なんだか哲学的な営みな気がしてきました。


哲学を学んだことによって、物事を「無意識」と「構造」でとらえることの面白さに気づいた田村。「ひとつの物事を多角的に捉えることで人生が楽しくなる」という考え方は、世界を広く深く知るうえでとても大切なものであると、インタビューを通じて感じました。

長年の研究を経て備えた「哲学」「早押しクイズ」という武器をひっさげて、次はどんな知識の海に飛び込んでいくのでしょうか? 田村正資の今後のさらなる活躍に、目が離せません。

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この記事を書いた人

チャンイケ

京都大学大学院修了(工学修士)のチャンイケ(池田和記)です。理系に限らず、様々な学問・エンタメに関心があります。面白いクイズ、分かりやすくてタメになる記事を通じ、皆様の知的好奇心を刺激できるよう努めて参ります。趣味はクイズ・ボウリング・ゲーム・謎解き・食べ歩きなど。

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