ある日、サウナに入ってリラックスしていると、びっくりするものが目に入ってきました。
▲サウナの温度は90℃……!?(画像はイメージ)
サウナの室内を表す温度計が、90℃を指しています。90℃、思ったより高温ですね。これがお湯だったらすぐさま火傷してしまうほどの温度です。
90℃のお湯を触ったら火傷してしまうのに、90℃のサウナで全身火傷しないのはどうしてなのでしょうか? ということで、サウナで火傷しない理由について紹介します。
熱い空気でも、体表面の温度は高くならないから
サウナで火傷しないのは、「熱い空気に触れていても、体の表面の温度は高くならないから」です。
たとえば、36.0℃の皮膚が90.0℃の空気に触れたとき、皮膚の表面の温度を試算すると、約36.3℃になります。体温とほぼ同じ温度ですね、火傷しないのも納得です。
一方、90.0℃のお湯に皮膚が触れた場合は、皮膚の表面温度は約70.2℃となり、空気のときと比べてかなり高温であることがわかります。
▲具体的な計算はページ最下部にあります。気になる方は見てみてください
同じ90℃の物質なのに、触れた場所の温度が違うのはどうしてなのでしょうか?
なぜこんな違いが生じるのか?
これには、物質の(1)熱の伝わりやすさと(2)温度変化しやすさの違いが関係しています。物質の「温度変化しやすさ」とは「温めやすさ、冷めやすさ」とも言いかえることができます。
一般に、これらの性質が大きく異なる2つの物体が接しているとき、触れている場所の温度は、「熱が伝わりやすく、温度変化しづらいほうの物体の温度」とほぼ同じになることが知られています。
▲触れた場所の温度は、熱が伝わりやすく、温度変化しにくいほうの温度に近くなる
※触れている2つの物体の「熱の伝わりやすさ」や「温度変化しやすさ」が同程度の場合には、触れている場所の温度は、2物体のもともとの温度の平均値に近づきます。
(1)空気は皮膚の10倍も熱が伝わりづらい
熱の伝わりやすさは物質によって異なり、「熱伝導率」という物理量で表されます。熱伝導率が大きいほど、熱が伝わりやすい性質を持っています。
空気(90℃)の熱伝導率は0.03W/(m·K)で、皮膚(36℃)の熱伝導率は0.32W/(m·K)です。空気のほうが約10倍も熱が伝わりづらいことがわかります。
一方、水(90℃)の熱伝導率は約0.67W/(m·K)で、空気や皮膚よりも熱が伝わりやすい性質を持っています。
熱伝導率の違いは、身近なものでも体感できます。たとえば、10円玉と1000円札を触ってみてください。どちらも室温(仮に20℃とします)と同じ温度になっているはずなのに、10円玉を触るとひんやり冷たく感じるのに対し、1000円札を触っても10円玉ほど冷たく感じないと思います。
▲10円玉のほうが冷たく感じる
これも、熱の伝わりやすさが10円玉(銅・20℃)>皮膚(36℃)>1000円札(紙・20℃)であるためです。
(2)空気のほうが、皮膚よりも冷めやすい
触れている場所の温度は、熱の伝わりやすさだけではなく、温度変化のしやすさ(温まりやすさ・冷めやすさ)によっても決まります。
温度変化のしやすさは、「温度伝導率(熱拡散率)」で表されます。温度伝導率とは、おおまかに熱が伝わっていく速さのことで、温度伝導率が大きいほど、「温まりやすい(冷めやすい)」性質を持っています。
皮膚(36℃)の温度伝導率は約1.1×10-7 (m2/s)で、空気(90℃)の温度伝導率は約3.0×10-5 (m2/s)です。空気のほうがずっと冷めやすい(温度伝導率が高い)ことがわかります。
一方、お湯(90℃)の温度伝導率は約1.7×10-7 (m2/s)で、皮膚の温度伝導率と大きな差はありません。
だから、熱々のサウナでも大丈夫!
最初の説明に戻ると、これらの性質が大きく異なる2つの物体が接しているとき、触れている場所の温度は、「熱が伝わりやすく、温度変化しづらいほうの物体の温度」になるとされています。
サウナの空気は90℃と高温ですが、皮膚の方が「熱が伝わりやすく、温度変化しづらい」性質があります。だから、身体の周りの温度は、皮膚の温度に近づくということですね。
そして、同じ90℃のお湯の場合は、皮膚よりも熱が伝わりやすく、冷めづらさも皮膚と大きな差がないため、触れた場所は火傷してしまうほどの温度になってしまうのです。
サウナが楽しめるのは空気の性質のおかげ
90℃のサウナで全身火傷しないのは、身体と比べて空気の熱が伝わりづらく、冷めやすいという性質が原因でした。こうした空気の性質によって、サウナで気持ちいい汗を流して楽しめるのですね。
ちなみに、汗は蒸発するときに、身体を冷やしてくれる効果があるため、サウナで感じる暑さを軽減してくれますよ。
サウナの不思議を知ってからサウナに入ると、頭も身体も「ととのう」かもしれません。
おまけ:90℃の空気とお湯を触れたときの皮膚の温度の計算はこちら!
▲詳細な計算過程
参考文献
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