\ 連載「クイズを味わう」 /
「クイズ」は、物知りな人が解いて答えるだけのもの? いやいや、問題に込められたメッセージや「たくらみ」を見つけるのも、クイズの楽しみ方のひとつ。
毎回1問のクイズを取り上げ、「いいクイズ」「面白いクイズ」の秘密をひもときます。毎週金曜日のお昼に更新予定です!
今回取り上げるクイズはこちら。

Netflixのあのサウンドロゴを言葉で説明して問うている。この問題が出題された2021年は今ほどNetflixが当たり前の存在ではなく、よく知っている人もなじみがない人もいるという程度の、ほどほどの難易度の問題だった。
「多彩な〜」以降の部分だけでこれがNetflixの説明だと確信を持たせるのは難しいから、前半部分がきちんと伝わるかがこの問題の成否を分けている。
▲サブスクに加入していなくても、一度は聞いたことがあるはず
クイズの問題文を書くときに、また問題文だけでなく文章を書くときに、つねに幽霊のように付きまとう悩みがある。
どれくらい好き勝手に言葉を使うかというものだ。
わたしたちの使っている言葉は、基本的には他者とのあいだにあって、世界のさまざまな事物と結びついている。わたしたちはクッキーのことをどうしても「クッキー」と呼んでしまう。クッキーのことを「プリン」と呼んだり、「キックー」と呼んだりするのは、言葉を介して他者とつながること、世界と結びつく意思を部分的に棄ててしまうことだ。
とはいえ、ただ正しくあればいいわけでもない。何かをほんとうに伝えるためには、安全な言葉遣いから離れて、自分自身の言葉で新しく何かを言わなくてはいけないこともある。
最初の問題に戻ると、この問題でサウンドロゴの特徴を伝えるための説明の要素は2つある。
ひとつは当然ながら「ダダーン」の部分だ。擬音語としてあの音を表現したもので、SNS上では「#ダダーン」というハッシュタグが使われていたこともある。根拠のある擬音語なのだ。
ただ、この擬音語だけでは説明としてやや心もとない。出題のときにうまく読み上げられるかどうかで、伝わり方がかなり変わってしまいそうなのも不安に感じる。
いちど実際に声に出してみてほしい。実物のボリュームやピッチを真似て「問題。『ダ↓ダーン↑』という……」と読み上げるのは、意外に難しい。解答者に「あの音のことだ」と思ってもらうためにはもう一押しがほしい。
そのもう一押しを、さりげなく使われている「大きな」が担っている。

たしかに、Netflixのサウンドロゴについて「ちょっと大きいな!!」と思ったり、イヤホンをした状態で音を聞いてびっくりしたりしたことがある。そういう体験の記憶が、「大きな」という形容ひとつで呼び込まれている。
クイズの問題文は、基本的に事実を伝えるために書かれている。だからこそ、言葉を通じた世界への忠実さと、何かを適切に伝えるための言葉の発明を両立しなくてはならず、とても難しい。言葉で何かを伝えようとすることにはいつも、その難しさを乗り越えようとする命がけの飛躍がある。
(文・井口凜)
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今回の問題が収録されている本
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